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魔王と侍の封印生活 The Survivors  作者: 霜月立冬


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第五十七話 魔性の蒲焼き

 湖畔に(そび)える樹木網の巨大建造物。超可愛い魔王(私、ウィルミア)の居城、封印魔王城。

 城内の中央広間の円卓に、城の全居住者、九人の男女が着席していた。

 因みに、円卓なので席に序列は無い。しかし、皆の統率者である魔王と、魔王の騎士にして王子様(予定)の席は決まっている。そこを基準にして、他の配下達の席が決まっていく。


 私と来寿(ライス)様は、北側の席。それ以外の者、人形(ゴーレム)達は、それぞれ男女で固まって着席している。

 私の右隣に来寿様。来寿様の右隣りから松竹梅、蹄鉄と続いている。初夢トリオは私の左隣だ。これで九個の席が埋まった。


 因みに、円卓の席は十個有る。私の対面に位置する空き席は客人用であった。

 尤も、この世界(封印世界)に他の人間はいない。あの席が活用されることは、恐らく無い。それでも念の為に用意した。願掛けという意味もある。

 もしかしたら、魔物の中には意思疎通ができる者もいるかもしれない。それこそ有り得ない話と思うが。


 兎も角、今は直近の問題(湖底のアボレス)を解決せねばならぬ。私は、卓上に両膝を着き、両手の指を眼前で重ねながら皆に向かって宣言した。


「アボレスを討伐する」


 私の言葉に対して、全員一様に頷いている。魔王軍には良くも悪くも戦闘狂しかいない。その事実を頼もしく思う。

 しかし、今回に限っては、疎ましくなるだろう。その可能性を予想しながら、私は自分の考えを告げた。


「アボレスと対峙する者は、私一人とする」


 私の言葉を受けて、全員一様に渋面を浮かべた。その表情を見ると、「俺にも戦わせろ」という幻聴が聞こえてくるようだ。

 しかし、今回は許す訳にはいかない。

 理由の一つには、私も食らった「スライム化の呪い」が挙げられる。しかし、それだけであれば、対策は余裕だった。

 私が懸念していることは、アボレスが持つ《《もう一つの特殊能力》》だ。


「アボレスには、敵の心を操る能力が有るのだ」


 アボレスに関する記述の中に、「精神制御」、或いは「精神支配」と言う言葉が度々(たびたび)登場する。それは、単なる魅了の魔法ではない。相手を意のままに操る魔法、いや、女神ネフィリア(世界の造物主)曰く「超能力」とのこと。


 アボレスの三つの縦長の目に見詰められるだけで、味方がそのまま敵となる。厄介極まりない。

 一体、女神は何を考えて、斯様な能力を与えたのか? 一応、創世記には理由も記されている。


 主な理由として「原作準拠」という謎の言葉が出てくる。どこかに真のアボレスでもいるのだろうか? 良く分からない。

 それ以外にも、女神の個人的な思惑も記されている。しかし、それも良く分からないものだ。

 私は首を傾げながらも、皆の前で声に出して諳んじた。


「鰻の蒲焼きの臭いに抗える人間はいない。それを嗅いだが最後、魅了されて――気が付いたら鰻の蒲焼きを注文している」


 鰻の蒲焼き。私にとっては未知の言葉である。料理であることは、何となく分かる。しかし、どんなものかは全く想像が付かない。それは、私に限った話ではない。

 私の言葉に対して、人形達も首を傾げている。私を含めて、頭上に「?」が浮かんでいる。

 しかし、この中で唯一人「そうだろうなあ」と頷く者がいた。


「来寿は知っているのか?」

「ああ、アシハラの名物料理だ」


 何と。鰻の蒲焼は元の世界(ネフィリム)にも存在していた。

 いつかアシハラに行くことも有るだろう。その際、是非とも食してみたいものである。きっと、女神をも魅了する美味に違いない。

 私は、分からないなりに、蒲焼きの外観や味を想像した。


 私があれやこれやと妄想していると、隣の来寿様が(おもむろ)に右手を掲げた。続け様に人差し指を突き出している。一体、何をしているのか?

 私は来寿様の指先を見た。すると、それは私の方を向いている。


 主君を指差すなどと、家臣に有るまじき無礼であるまいか?


 私の眉は不機嫌に歪んだ。その表情は、来寿様の視界にも映っているはずだ。

 それなのに、来寿様は指差すことを止めない。その姿勢を維持しながら、ユックリと薄い口を開いた。


(よだれ)が垂れているぞ」

「!?」


 何てこと。魔王ウィルミア・デストランド一生の不覚。

 私は来寿様の指摘を受けるや否や、口を抑えて立ち上がった。そのまま超速で洗面所に直行する。そこでシッカリ顔を洗った後、円卓に戻って指定席に着いた。

 その直後、私を除く全員の視線が、私の顔に突き刺さった。


 とても、恥ずかしい。


 皆の視線を意識するほどに、私の顔が熱を増す。言い訳の一つもしたくなる。しかし、何と言えば良いものか? いや、言い訳を考えている場合ではないだろう?

 そもそも、今は大事な会議中。余計なことに時間を割いている場合ではないのだ。そう、皆も私の涎のことなど気にしないようにな。

 私は「ごほん」と咳払いをして、場の空気を切り替えた(願望)。そのまま全力で平静を装って、作戦会議を再開した。


「アボレスの精神制御を破るには――」


 私がアボレスの話をした途端、全員の顔付きが変わった。殺意を覚えるほど剣呑である。やる気満々の様子。

 しかし、私は彼らのやる気を抑えなければならない。その為に、厳しい現実を告げた。


「それなりに高い魔法抵抗力が必要だ」 


 高い魔法抵抗力。各自の値は如何ほどか? 残念ながら、その数値は可視化できない。その為、最悪の事態を考慮せざるを得ない。


「皆がアボレスに操られてしまえば――どうなると思う?」


 人形であれば、魔石を避けて攻撃できる。しかし、来寿様を相手に手加減できる自信は無い。まして水中となれば尚更だ。

 来寿様の水を斬る超泳法。あれを破るのは至難の業だ。そもそも、追い付く気がしない。その可能性を、私は考慮していた。

 ところが、来寿様の考えは真逆であった。


「皆が抵抗できれば問題無いのだろう?」


 来寿様は、私達にとって理想の状況を想像していた。しかし、それを実践で試すことには躊躇いを覚える。私は、敢えて真逆の可能性を告げた。


「皆が抵抗できなかった場合は、問題有り過ぎだな」


 全員操られたならば、全滅は必至。私の言葉を聞いて、この場の誰もが想像できただろう。しかし、来寿様は首を横に振った。


「危険を承知で挑まねば勝てない。そうだろう?」


 正しく仰る通り。だからこそ、私は最もリスクの少ない手段を選んだのだ。


「この中で、最も魔法抵抗力が高い者は私だ。それに――」


 私とて、自分の能力を数値化して確認している訳ではない。しかし、魔力量は常人の比ではない。魔力抵抗力も、それなりに高いはずだ。

 その事実に加えて、私にはアボレスの精神制御を受けない絶対的な自信が有った。その理由が、私の口から飛び出した。


「私はアボレスの呪いを{はらっている。私の方が優れていることの証左(しょうさ)だろう?」


 私は汎用魔法で解呪した。私にはより以上の魔法を使える能力と魔力量が有る。アボレスの魔法(超能力)では、私を制御することなどできない。だからこそ、 挑むとすれば私しかいない。自明の理である。

 しかし、来寿様は首を横に振った。


「俺が操られた場合、容赦無く殺してくれて良い。だから――」


 来寿様は頑なである。是が非でも、戦闘に参加するつもりなのだ。その気持ちは分からなくもない。しかし、先程告げた理由は絶対に飲めない。

 私は円卓を叩いて立ち上がった。


「馬鹿を言うなっ!!」


 私の髪が逆立っている。顔は真っ赤だ。その変調の理由が、私の口を衝いて出た。


「私は其方らを殺さないし、殺せない。二度とそのようなことを申すなっ!」


 私は激怒していた。来寿を殺すなど、考えたくもない。 

 そもそも、来寿様は私の王子様である。人形達にしても、私と来寿様の子どものような存在だ。

 もし、この中で誰かを殺す必要が有る場合、そのときは――いや、考えまい。考えるべきではない。その理由が、私の口を衝いて出た。


「皆で生き抜く。それが私達の至上命題、魔王軍(我が軍)の最高法規だっ!」


 私の声が城内に轟いた。その直後、水を打ったように静まり返った。

 暫く静寂の時間が続いた。私は肩で息をしながら、敢えて勢い良く席に腰を下ろした。

 その直後、来寿様が静かに声を上げた。


「勝算は有るのか?」


 来寿様はジッと私を見ている。私は来寿様の視線を真正面から受け止めた。その上で、ハッキリ断言した。


「有る。それも――」


 声を上げるほどに、私の口の端が吊り上がっていく。その表情の意味が、私の口を衝いて出た。


「地の利を活かした、とっておきの策がな」


 私の言葉に、来寿様を含めた全員が反応した。

 来寿様は体を旋回させて、私の方に向き直った。人形達は卓上に身を乗り出している。


「聞かせて貰おうか?」

「良かろう」


 私はシニカルな笑みを浮かべながら、皆にアボレス攻略法の内容を説明した。

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