第四十八話 新生魔王軍、出陣
古代ネフィリムの国々を滅ぼした巨大鉄人形、ガルガンチュア。その化け物が封印の壺に封じられていた。その事実を目の当たりにして、私、ウィルミア・デストランドは「ふむり」と大きく頷いた。
まさか、私達を封じた忌まわしい壺が世界を救っていたとは。
物は使いようである。尤も、今は呑気に感心している場合ではない。件の鉄巨人が封印魔王城の前に立っているのだ。
現在、私は来寿様と一緒に、自分達が閉じた魔王城の玄関扉の前にいる。それぞれガルガンチュアに存在を気取られないよう、息を潜めて気配を抑えている。
叶うならば、ガルガンチュアの素通りを期待したい。しかし、その願いはアッサリ潰えた。
扉の前で固まっていると、私の正面から何かが圧し掛かった。とても重い。熊でも覆いかぶさっているかと錯覚した。
しかし、視覚は何も反応していない。何故ならば、私が覚えた圧力は気配だからだ。その感覚に嫌な予感がした。それは直ぐ様具現化した。
唐突に、封印魔王城の外壁から爆音が上がった。その瞬間、城全体が大きく揺れた。その現象の意味は何なのか? 外の様子を確認すれば一目瞭然だろう。しかし、態々見に行かなくとも想像は容易である。
ガルガンチュアが城を攻撃している。
厄介なことになった。奴の頭は「国の主要な建造物を破壊する」という一事に占められている。その事実は、奴が登場するネフィリムの歴史書から推測できた。
封印魔王城は、ガルガンチュアの破壊対象となった。
ガルガンチュアの攻撃が止むのを待つのは愚の骨頂。放置すれば、城は徹底的に破壊される。その運命を回避する方法は、唯一つ。
私は隣にいる来寿様向かって声を上げた。
「あれを倒すぞ」
ガルガンチュア討伐。奴に滅ぼされた国の人間が聞けば、全力で首を振っているだろう。しかし、我が騎士の反応は真逆であった。
「分かった」
即応で首肯。その直後、来寿様の糸目に青い殺意の炎が灯った。完全に戦闘態勢である。流石は我が騎士。
そもそも、来寿様は女神の失敗作に単身で挑んで勝利する勇者なのだ。尤も、一般的な人間の思考だと、来寿様は狂戦士の類になるのだろう。「そんな危ない奴が何人もいてたまるか」とか言われそうだ。
しかし、魔王軍には狂戦士、いや、勇者は結構いる。私のようなお淑やかな魔王以外、全員勇者なのだ。
私は作戦の内容を伝えるべく、再び中央広間の円卓に戻った。すると、そこには戦闘準備を整えた六人の黄金人形達の姿が有った。
人形達は、それぞれアラクネ糸の鎧直垂をまとっている。それぞれの腰には打刀(骨刀)が差してある。それらの装備は六人一様、同じである。しかし、直垂の上にまとう鎧は性別で異なっていた。
少年系人形の三人組、松竹梅はケルベロスの黒革鎧。
少女系人形の三人組、初夢はグリフォンの黄金革鎧。
因みに、グリフォンの素材はヒドラに殺された個体から回収した。創世記の諺、「漁夫の利」である。やったぜ。
グリフォンはそれなりに大きいので、ヒドラの口では飲み込めなかったのだろう。その皮を得たことで、私は二種類の革鎧を造ることができた。
私の戦闘衣装は、初夢と同じくグリフォンの革鎧。
来寿様は以前同様ケルベロスの革鎧である。
今は二人とも着流し姿である。早めに着替えたいところだ。しかし、それは後回しだ。
私は皆の前で手短に作戦内容を告げた。
「先ず、相手の脚を狙う。来寿と松竹梅は相手の左脚、私と初夢は右脚だ」
ガルガンチュアは鉄人形である。普通の刀剣では刃が立たない。しかし、私達が使う打刀(骨刀)には、あらゆるものを切り裂く魔法「鬼神の妖刀」が掛けられている。これを使えば、鉄の体も寒天の如く容易に切り裂く。その事実を鑑みて、私は相手の機動力を奪う作戦を提案した。
これに対して、魔王軍は即応で首肯した。
かくして作戦は決まった。しかし、これは未だ前段階だ。私の作戦は二段構えである。
「次に、ガルガンチュアの各部位を切断、破壊する。各個攻撃、任意で可能な部位を斬り付けろ」
ガルガンチュアの分解。これを告げた際、黄金人形達は一様に眉根を曲げて微妙な表情になった。その意味は、何となく直感できた。それが、私の口を衝いて出た。
「魔石を破壊すれば、事が収まる――と、言いたげだな?」
私の言葉に、黄金人形達は一斉に首肯した。その反応は生意気ではある。しかし、今は褒めてやりたい。
まさか、自分達で最適解を導き出すことができるとは。
正直、私も人形達の方法が一番確実だと思っている。しかし、相手は普通の人形ではない。
ガルガンチュアには特殊な製造方法が採用されていた。
「ガルガンチュアに使用されている魔石は一個ではない。十個だ」
十個の魔石。二十メートルの巨躯を動かす為、体の各部位に魔石が埋め込まれているのだ。それぞれが連携を取ることで、巨躯を普通の人形同然に動くことが可能となる。飽くまで理論上の話だ。
ガルガンチュアは、製作者の企図通りに機能しなかった。その失敗によって、製作者達は自国を滅ぼす羽目になった。尤も、それ以外にも理由は有る訳だが。その内容に付いても、語っておきたい気持ちは有る。しかし、今は時間が無い。
私は必要な情報だけを伝えて、皆の反応を待った。すると、来寿様が声を上げた。
「魔石が埋め込まれている場所は?」
来寿様は、十個の魔石をピンポイントで破壊するつもりのようだ。私としても、それが一番望ましいとは思う。しかし、それは難しい。
「ガルガンチュアに関する資料には『十個の魔石を埋めた』としか書いていないのだ」
そもそも、歴史書の記述自体が正しいとは限らない。しかし、他に情報は無い。頼るしかない。行き当たりばったり感は否めない。
それでも、私の騎士は「分かった」と首肯する。
これでガルガンチュア討伐作戦の説明は終わった。全員の了解も得た。
正直、万全とは言い難い。それでも、これで行くしかない。代案を練る時間は無かった。
今現在、魔王城はガルガンチュアの攻撃を受け続けている。 分厚い樹木網の壁が、メキメキと音を立てて剥ぎ取られていく。最早一刻の猶予も無い。
私と来寿様は、直ぐ様戦闘衣装に着替えた。
再合流地点は城内菜園である。その奥(北壁)に、城外に出る裏口を設けてあるのだ。
裏口の扉はアシハラ風のスライド式(片引き戸)である。来寿様が右手で引手を掴んで、それを真横、右から左側にスライドした。
扉が開くと、私達の前に樹木網のトンネルが現れた。その奥に外界の様子が映っている。それを目にするや否や、私達はトンネルの中へと飛び込んだ。
三国を滅した化け物と魔王軍の対決。勝利するのは何れか? そんなこと、考えるまでもないだろう。
お淑やかな私の顔に、殺意に満ちた酷薄な笑みが浮かんでいた。




