第四十五話 新生、魔王軍
私、ウィルミア・デストランドと仲間達は、不死の王との対決に見事勝利した。流石、魔王。流石、魔王の軍団だ。えっへん。
激闘を制した報酬は、存外に破格であった。
そもそも、私自身「幽霊船の中には骨しかないだろう」と思い込んでいた。しかし、その予想は良い意味で裏切られた。
腐食しきった幽霊船の船倉は、金銀財宝で埋め尽くされていた。
「まさか、こんなものが」
吃驚仰天、棚から牡丹餅、開けて吃驚玉手箱である。
一体、どこの国から奪ったものか、或いは自国から持ち出したものか。
私は「どこから持ってきたのだ?」と首を傾げながら、床に散らばる金貨を拾い上げた。
すると、そこには先程の疑問の答えが有った。
金貨の表面には、見覚えのある王冠を被った王の横顔が刻まれていた。
不死の王は、生前も王であった。恐らく、何か良からぬことをしでかして、国を追われたのだろう。
その際、強欲にも宝物庫の中身を船に詰め込んで、持ち逃げしたのだ。そうに違いない。人相が物凄く悪かったもの。
彼の王の行く末も、歪み切った性格に相応しいものだった。
悪行が過ぎた余り、不死の呪いを受けたか。因果応報だな。
ザマを御覧なさいあそばせ。折角宝を持ち出しても、使えないでは意味が無いでございましょう。がはははっ、である。
使えないのに後生大事に持っていたとは。文字通り宝の持ち腐れである。その可能性を想像しながら、私は後ろに立っていた来寿様に声を掛けた。
「どう思う?」
「…………」
来寿様は、呆れて絶句していた。私も、特に言うべき言葉は無い。敢えてこの愚行に送る言葉が有るとすれば「お馬鹿さんよね?」以外に無い。
尤も、それは私にとっても同じことだといえる。
この世界に金銀財宝の使い道など無い。今のところ、元の世界に戻れる可能性は見えない。そう、宝の持ち腐れである。ちくせう。
使い道は無い。捨てるしかない。一旦は、そう思った。それを来寿様に伝えようとした。その矢先、私の視界に来寿様の隣に立つ三人の子どもの姿が見えた。
魔王軍の精鋭部隊、土人形三人組である。
土人形達の姿を見た瞬間、私の脳内に金貨の活用方法が閃いた。それを、直ぐ様実行した。
「土人形達、ここに整列」
私が声を掛けると、三体の土人形が私の前に整列した。
三人とも、来寿様と同じく黒と白銀の衣装に身を包んでいる。
白銀はアシハラ風の鎧直垂。黒はケルベロスの黒革鎧である。それらは酷く泥に塗れている。
つい先程まで、不死王の軍と激しい戦闘をしていたのだ。汚れても無理はない。後でこの魔王が洗濯しなければ。
此奴らは、魔王の洗濯権を得るに相応しい活躍をした。念入りに汚れを落としてやるぞ。私が創った全自動魔力洗濯装置がな。
尤も、衣服の汚れを落とすのは後回しだ。今は、別の報酬を与える時間である。
私は左手を腰に当て、右手で金貨の山を指し示した。その上で、土人形達に向かって宣言した。
「今から、これを使って其方達の体を新造する」
私は金貨を触媒として、土人形の体を造り直す。
そもそも、この世界に貨幣の概念は無い。故に、お金ではなく素材として利用する。これ以上有効な活用方法は無いだろう。
私は金貨に向かって女神の大魔法を懸けた。
「魔法の加工創造」
今回は時間も有る。念入りに、造形に拘って、私は黄金の体を三つ創り上げた。続け様に、土人形達の胸部に手を突っ込んだ。
土人形達の心臓部、魔石の移植である。
一人ずつ、順番に魔石を取り出して、それを黄金の胸部に埋め込んでいく。
元の体は、崩れて粘土の山と成り果てた。その代わり、黄金の瞳が開いた。移植の成功である。
前回の緊急移植と比べれば、欠伸が出るほど余裕であったわ。がはは。
かくして、土人形達は黄金人形へと進化した。その際、私は彼らに固有の名前を付けた。
「ゴールドワン、ゴールドツゥ、ゴールドスリィ」
利便性を考慮した、完璧な名前である。そもそも、造物主である魔王自らが付けたもの。これ以上の名前は無い。光栄の極みである。
ところが、土人形改め黄金人形達は、全く意外な反応をしていた。
全員、漏れ無く、一様に首を傾げている。何なのだ? その反応は。
「不満なのか?」
私は、自他ともに認める魔王界隈随一の慈愛に満ちた魔王である。寛大にも、黄金人形達に意見を申し立てる機会を与えた。すると、黄金人形達は一斉に首肯した。
此奴ら、一寸無礼では?
魔王の意に反するとは。生意気である。しかし、私は冷静だった。感情に任せて激昂するなど、魔王としては二流だろう。人の上に立つ器ではない。私は第三者に意見を窺うべく、振り返って声を上げた。
「来寿。此奴ら生意気だぞ」
私は来寿様を味方につけるべく、苦情を申し立てた。すると、来寿様は苦笑した。その反応は、私にとっては余りに意外。
え? 来寿様も? 何なの?
魔王軍の連中は、魔王のことを何だと思っているのだ?
もしかして、私のことを「女神様に似た可愛らしいマスコット」とでも思っているのだろうか? それはそれで有りな気もする。
しかし、私の名前付けに対する反応には不満しかない。私が付けた名前より素晴らしい名前が有るのならば、言ってみるが良いである。その想いが、そのまま口から飛び出した。
「他に良い名前でも有るのか?」
私の質問に対して、来寿様はシニカルな笑みで応えた。その表情を見て、私の蟀谷に血管が浮かんだ。しかし、耐えた。
私は魔王の中でも上位に食い込むほど寛大である。故に、敢えて部下に釈明の機会を与えた。
すると、来寿様の嫌味に吊り上がった口が開いて、そこから掠れた声が飛び出した。
「松太郎、竹次郎、梅三郎」
来寿様は、黄金人形達一人ひとりを指差しながら、アシハラの縁起物に因んだ名前を告げた。それを聞いた瞬間、私は「それは無いわ」と呆れた。
ところが、黄金人形達はまたしても意外な反応をした。
全員、漏れ無く、満足げに頷いていた。何なのだ? 一体、何なのだ?
理不尽極まりない展開である。その茶番劇を目の当たりにして、私の口が富士山(アシハラ随一の山)型に歪んだ。
しかし、渋面を浮かべているのは私一人。黄金人形達は来寿様を囲んで、楽しそうに踊っている。
此奴ら、本当に、何なのだ!?
黄金人形達の様子を見ると、来寿様が付けた名前が気に入ったと思える。その証拠として、それぞれの額に「松、竹、梅」とアシハラの文字が浮かび上がった。
こうなると、流石の魔王もどうにもならない。認めるしかなかった。しかし、納得は全くできない。
何なの? 本当に。
黄金人形達は、造物主である魔王を差し置いて、魔王の騎士に懐いている。来寿様も含めて、とても楽しそうだ。私一人蚊帳の外。
羨ましくなんか、無いんだからね。
私は唇を噛み締めながら、新生した魔王軍の様子を涙目で眺めていた。




