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魔王と侍の封印生活 The Survivors  作者: 霜月立冬


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第四十一話 不死を処す

 無敵の魔王軍を壊滅させた魔物。これまで出会った中で、最も強敵には違いない。尤も、来寿様の説明だけで正体を判断するのは早計かもしれない。しかし、大体の目星は付いた。


 大蛇、九つの頭、斬ると増える首。それから――不死。これらの要素を兼ね備えた魔物など、私は一種類しか知らない。


 ヒドラ。その名前は、創世記に記されている。尤も、元の世界(ネフィリム)には存在していない。

 即ち、女神の失敗作である。人間が太刀打ちできる相手ではないだろう。


 しかし、私、ウィルミア・デストランドはヒドラに挑む。絶対に倒す。そうしなければならない理由が、私には有った。


 魔王軍(我が配下)の仇は魔王()が討つ。


 私の脳内には、ヒドラに関する知識が有る。それを十全に活用して、必殺の策を練った。それを実行する為に、我が騎士、愛洲来寿(アイス・ライス)様と綿密に打ち合わせを行った。ヒドラ確殺の準備は万端整っている。


 私は来寿様を伴って、封印魔王城(我が城)から飛び出した。

 このとき、私は来寿様達がヒドラと遭遇した現場に向かうつもりでいた。ところが、その必要は無かった。


 封印魔王城の前には、海と錯覚するほど広大な湖が有る。その(ほとり)に、黒い蛇の姿が有った。

 蛇と魔王城の間には、結構な距離が有った。凡そ五百メートルほど。それでも、その威容はハッキリ視認できた。


 対象は、余りに大きい。全長は三十メートルほど有るだろうか。世界記録を更新して余り有る大蛇だ。しかし、それは真正の蛇ではなかった。その事実が、私の視界にハッキリ映っていた。


 蛇は無数の頭を持っていた。その数、凡そ百。それが一つの胴体から生えているのだ。明らかに異常である。

 百の頭を持つ蛇。そんなものなど見たことがない。私達の世界(ネフィリム)のどこを探してもいないだろう。しかし、その姿を目にした瞬間、私は相手の正体を直感した。


 あれがヒドラだ。


 どうやら、ヒドラは湖の水を飲みに来た様子。その際、ヒドラはチラとこちらを見た。その直後、百対の目がギョッと開いた。その様子は、魔力で底上げした私の視力でハッキリ捉えることができた。


 見付かった!?


 私は咄嗟に城内に戻った。来寿様も、私と殆ど同時に城内に入った。それぞれ、玄関扉の左右に身を潜め、相手の出方を待った。いつ攻め込まれても良い様、戦闘態勢を取りながら。


 しかし、幾ら待ってもヒドラが近寄ってくる気配はない。私は来寿様と目配せしてから、扉の影から湖畔を見た。


 ヒドラは、出現位置から殆ど動いていなかった。百本も有る首を水面に向かって伸ばしている。更に目を凝らしてみると、水面に舌を浸していると分かる。

 どうやら、水を飲んでいる様子。その事実を確認するや否や、私は来寿様の方を見た。


「行くぞ」

「応っ」


 私達は気配を抑えながら、再び城外に出た。ヒドラ討伐作戦開始である。私達は湖畔を囲む茂みに身を潜めながら、ヒドラに向かって進軍した。

 抜き足差し足。最徐行で進軍しながら、凡そ三百メートルまで接近した。その位置で、私と来寿様は脚を止めた。

 私は来寿様の方に向き直り、ハンドサインを出した。


(来寿はヒドラの前。私はヒドラの背後に回り込む)


 私のハンドサインに、来寿様は無言で頷いた。それを合図に、私達は二手に分かれて再進軍。

 私はヒドラの背後と思しき位置に付いた。その直後、ヒドラの体が九十度回答した。その行為を見た瞬間、私は現況を直感した。


 来寿様と交戦している。


 来寿様は、真正面からヒドラに挑んでいた前回(初遭遇戦)の再現である。

 ヒドラは百本の首を掲げて、それを来寿様目掛けて振り下ろしている。普通の剣士であれば、絶対に捌き切れない数の暴力である。

 しかし、来寿様と妖刀村正には通じない。今日の来寿様は絶好調。妖刀村正の切れ味は抜群。


 虹色の光彩が閃く度、何十本もの蛇の首が宙を舞う。ヒドラの百を超える(あぎと)の内、来寿様の体に届いたものは一つも無い。その様子だけ見れば、来寿様の楽勝である。

 しかし、ヒドラには現況を覆して余り有る特殊能力が有った。


 来寿様が跳ねた首から、新たな頭が生えていた。それも、一本に付き二つずつ。百本の首を刎ねたなら、二百本に増える。

 流石の来寿様も、無限に斬り続けることはできない。前回の戦闘と同じく、数の暴力に屈することになる。その可能性を想像することは、実に容易い。しかし、その運命は、今日は辿らない。

 何故ならば、ここに魔王()がいるからだ。


 待っていた。この機会(復讐の時)が巡ってくるのを。


 私はヒドラに接近した。彼我の距離が十メートルまで迫ったところで、女神の大魔法を唱えた。


絶対零度の吹雪アブソリュート・ゼロ・ブリザード


 煌めく風がヒドラの巨躯を包み込んだ。すると、目に見えてヒドラの動きが遅くなった。しかし、その事実は私にとっては予想外であった。


 まさか、絶対零度の吹雪を浴びて、尚も動けるとは。


 流石は不死身の魔物と言ったところか。普通の爬虫類とは比べ物にならない温度耐性を持っている。

 しかし、動けるからと言って、私にとっては何の不都合も無い。作戦続行である。私は直ぐ様二の矢を放った。


魔法の加工創造マジカル・プロセス・クリエイション


 私の背後に聳える樹木群が一斉に動き出した。地下に伸ばした根を引き抜き、それを脚としてヒドラに向かって殺到する。

 動きが鈍ったヒドラは、避けることも逃げることもできない。その巨躯は樹木群に覆い尽くされた。しかし、これで終わりではない。


 念入りに、封じなければな。


 私は樹木群に命じて、ヒドラの巨躯を抑え込ませた。樹木群は、次々にヒドラの巨躯に重なり、絡まって、自分達毎丸めていく。

 最終的に、直径二十メートルの巨大な球になった。しかし、これでも終わりではない。私は更に念を込めた。


 圧縮、凝固。


 樹木網の球が縮小し始めた。最終的に、直径二メートルまで縮んだ。これだけ小さくなれば、処分方法の選択肢も増える。

 私の脳内には、現況を最大限活かした方法が閃いていた。


 先ず、球の表面を変質させて防水機能を付与した。その上で、


「行け。湖の最深部まで」


 樹木網の球に命じて、それを湖の底まで転がした。それが沈んでいく様子を見ながら、私は「がはは」と哄笑した。


 かくして、不死身の魔物の処分は完了した。後に残ったものは、来寿様に切り飛ばされた首だけだ。それらは素材として、私が有効活用した。

 しかし、ヒドラとの因縁は、これで終わりではなかった。


 後に、このヒドラは八岐大蛇となって、来寿様の生国(アシハラ)を壊滅させる。しかし、それはまた別の話。今は語らない。

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