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魔王と侍の封印生活 The Survivors  作者: 霜月立冬


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第四十話 不死身の魔物

 瞼に光の刺激を覚えた。それが気になって、俺、愛洲来寿(アイス・ライス)は目を覚ました。その瞬間、俺の視界に()()()()()()()が映った。


 ああ、女神様。


 創世の女神ネフィリア。俺がアシハラにいた頃、女神の肖像画を見たことが有った。それと瓜二つの顔が、俺の視界に映っている。反射的に両手を合わせて拝もうとした。ところが、俺の行為を女神が邪魔した。


 女神は、何と横たわっている俺の首に抱き付いたのだ。その際、俺の耳に女神の小声が聞こえた。


「良かった」


 心底安堵した声だ。それが耳に入った瞬間、俺の胸がざわついた。その感覚は何なのか? それに付いて考えた瞬間、俺は現況を理解した。


 俺は――助かったのか。


 俺は今、柔らかな布団の中にいる。それも、天蓋付きのベッドの布団だ。この世界(封印世界)に於いて、そんなものは一つしかないだろう。


 ここは――ミアの寝室か。


 俺はミアの寝室のベッドに横たわっていた。自力で入った記憶は無い。誰がここまで運んだのか? それを考える必要は――ないだろう。

 今、俺の首を抱き締めている女性が、俺を助けてくれたのだ。


 また、ミアに命を救われたか。


 これで三度目か。一生懸けても返し切れない借りだ。その事実を思うと、気が重くなる。だからと言って、借りを踏み倒す気は毛頭ない。

 俺は今の自分にできることを考えた。先ずは――


「助けてくれて、有難う」


 俺はミアに向かって礼を告げた。すると、ミアは俺の首を抱き締めながら、無言でコクリと頷いた。


 俺が目覚めて暫く後、俺はミアと共に中央広間に入った。今回の件の報告をする為だ。

 俺達は、広間中央の円卓に並んで座った。その直後、ミアが俺に向かって声を上げた。


「何が有った?」


 ミアは事の次第を訪ねた。それに答える義務が、俺には有る。

 俺は敗退に至るまでの経緯を、包み隠さずミアに明かした。

 

 時間は少し――いや、かなり巻き戻るのか。

 資材集めの為、俺と三体の土人形(クレイ・ゴーレム)は荷車を引きながら化石の森を歩いていた。その途中、石化した樹木群の中で一匹の黒い蛇と遭遇した。

 

 大蛇だ。全長二十メートルは有っただろう。当然ながら只の蛇ではない。


 蛇の頭は()()も有った。その事実を直感した瞬間、俺達は打刀を抜いて戦闘態勢に入った。その様子は、蛇の縦長の瞳孔にもシッカリ映っていた。


 蛇は鎌首をもたげながら、俺達の方へと急接近した。その反応に合わせて、俺達は散開、扇形に構えて迎え討った。

 俺の担当は蛇の正面。土人形達は、それぞれ蛇の左右に位置していた。


 鎌首をもたげた蛇の全高は三メートルほども有った。その高みから、九つの頭が一斉に牙を向き、俺達目掛けて突っ込んでくる。


 開き切った蛇の口は、普通の蛇の万倍も有る。俺達の体など、余裕で丸呑みできるだろう。だからと言って、こちらに飲み込まれる気は更々無い。

 俺達は打刀で対抗した。


 妖刀村正の切れ味は、今日も絶好調。毛ほどの手応えを覚えずに、蛇の口毎頭を切り裂いた。

 土人形が持つ骨刀の切れ味も悪くない。それぞれ何合か斬り交わした末に、蛇の頭、或るは首を裂いている。


 最初の攻防で、俺達は蛇の四つの頭、或いは首を断ち斬った。残る頭は五つ。次の攻防で、殆どの頭を切り落とすことができる。そう思った。

 ところが、ここで予想外の事態が起こった。


 何と、俺達が斬った個所から新たな頭が生えたのだ。それも、一つの首に付き二つも。結果、蛇の頭は十三個に増えた。


 首を斬れば、新たな首が二つ生える。その事実を目の当たりにした瞬間、俺は蛇の巨躯に接近した。擦れ違い様に、蛇の胴を薙ぎ斬った。


 村正の刀身は、蛇の胴に深く食い込んだ。それを薙ぎ払った直後、蛇の胴は皮一枚残して上下に分かれた。確実な致命傷だ。

 ところが、ここでも予想外の事態が起こった。


 分かれた蛇の体が、直ぐ様くっ付いていた。傷跡すら残っていなかった。俺は時間が巻き戻ったかと錯覚した。

 この事態を目の当たりにして、俺は漸く敵の能力を直感した。


 こいつ、不死身か!?


 不死身の魔物。そんなもの、どうやって倒せば良いのか? 打開策は、俺には見出せなかった。


 俺が考えている間にも、蛇は執拗に攻撃を仕掛けていた。それも、「頭」を使った攻撃だ。

 俺達は「斬ったら増える」と分かっていながら、斬らざるを得なかった。


 俺達はひたすら斬った。その度に、蛇の頭が増えた。最終的に、百を超えていただろう。その頃になって、急に土人形達が動かなくなった。


 土人形の変調。それをミアに告げた瞬間、直ぐに答えが返ってきた。


()()()()――だな」


 魔力が切れた土人形は、蛇の餌食になった。噛み付かれ、粉々に砕かれた。その様子は、俺の視界に映っていた。しかし、どうすることもできなかった。


 俺もまた、体力、気力が尽きていた。それでも斬った。その行為は愚行である。それが分かっていても、それしかできなかった。

 その事実を目の当たりにして、俺の脳内に最悪の可能性ばかりが閃いた。


 このままでは、俺も蛇の餌食になる。


 時間の問題だった。それでも、俺は最後の最後まで足掻(あが)いた。全くの徒労だ。しかし、徒労で終わらなかった。

 蛇との戦闘中、思わぬ伏兵が現れたのだ。


 鷲と鷹の体を持つ合成魔獣「グリフォン」。奴の出現は、俺にとって有利に作用した。


 蛇との戦闘中、頭上からグリフォンが割って入った。しかも、何を思ったのか蛇の方に攻撃を仕掛けている。戦況は、俺の方に圧倒的に不利であったにもかかわらず。

尤も、それは飽くまで俺視点の話だ。


 グリフォンの視点では、蛇が死に掛けているように見えたかもしれない。何しろ、血を吹き出しているのは蛇の方なのだ。辺り一帯を染める赤は、奴の体から出たものだ。俺の体も、奴の血で塗れている。

 もしかしたら、俺の体は周りの景色に紛れていたのかもしれない。何れにせよ、俺はグリフォンのお陰で命拾いした。


 俺は急いで土人形の体を掻き集めた。それを荷車に乗せて、一目散に逃げ出した。その行為、武士としては恥ずべきものだろう。

 その事実をミアに告げた際、俺の口が歪に吊り上がっていた。


「笑ってくれて良いぞ?」


 俺は自嘲していた。態とミアを怒らせるような態度を取ったのだ。

 俺は自分を許せなかった。ミアから、より厳しい叱責を期待していた。ところが、ミアの反応は意外なものだった。


「いや、誉めてやろう。英断だ」


 ミアは、真っ直ぐ俺を見詰めている。その表情は真剣そのもの。真一文字に結ばれた口は、吊り上がる気配など微塵も見えない。その反応を見て、俺は自嘲を止めた。


「そうか」


 俺も、本当は分かっていた。自分が最善を尽くしたことを。それでも、敵わなかった。その事実が受け入れ難いのだ。


 俺は、あの化け物に負けた。


 今更ながら、俺は敗北を認めた。俺の技量では、あの化け物を倒せない。どれだけ技量を上げても、絶対に倒せないだろう。認めるしかない。


「どうすれば良い?」


 俺はミアに頼った。ミアへの借りは、一生懸けても返せないほど有る。それなのに、また頼ってしまうとは。

 俺は奥歯を強く噛み締めながら、ミアの反応を待った。

 暫くして、見詰める先の可憐な口が開いた。そこから、俺の期待通りの言葉が飛び出した。


「策は有る。私に任せろ」


 ミアは、その意外な豊満な胸を張った。その反応を見て、俺の胸が熱くなった。その刺激のせいで、目の端に涙が滲んだ。それを右手の甲で拭いながら、俺はミアに向かって頭を下げた。


「有難う」


 俺が礼を言うと、ミアは直ぐ様返事をした。


「お互い様だ」

「!」


 ミアの言葉が、俺の胸を一層熱くした。そのせいで、俺の目から涙が溢れた。

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