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第二十八話 土人形の気遣い

 樹木網の大広間、居間兼、食堂兼、台所。その中央に、直径三メートルほどの大きな円卓が有る。椅子は八脚。今は、たった二人の男女が並んで座っていた。


 魔王ウィルミア・デストランド(私)と、私の王子様、愛洲来寿(アイス・ライス)様である。


 二人とも、白銀に輝くアシハラの着物をまとっている。私達の普段着である。

 アシハラの着物は、着心地が(すこぶ)る良い。ただ、全く不満が無い訳ではない。


 (すそ)が邪魔だな。


 スカートの丈と比べれば短い。しかし、着物の裾は大きく広がっていないのだ。動き回る度、裾が足にまとわりつく。

 この問題を解決する為には、裾を切り詰める必要が有るだろう。私としては、膝、或いは太腿の辺りまで詰めておきたい。来寿様に頼んでみようかな? しかし、今は駄目だ。裾のことなど気にしている場合ではない。


「では、話を聞かせて貰おうか」


 謎多き天才剣士、愛洲来寿様。その生涯に迫る機会を得た。それが如何(いか)なるものか聞いておきたい。近未来の伴侶(はんりょ)として、或いは来寿様と未来永劫添い遂げる唯一無二の女性として、是が非でも知っておくべき。

 私は前傾姿勢をとって、来寿様の薄い口に意識を集中した。それが開く機会を、一日千秋の想いで待った。しかし、そこに意外な邪魔が入った。


 私が声を上げた直後、私達の席に三体の土人形(クレイ・ゴーレム)が現れた。そ奴らは、私が最初に作った下僕である。適当な外観をした、()()である。

 しかし、今の土人形は、より人間らしく進化していた。

 

 より詳しく言うと、顔と首の判別が付く。服を着ている。関節と思える箇所が有る。目と鼻と口が、それっぽい形をしている。以上。


 土人形達を遠目に見れば、人間の子どもと錯覚するだろう。そうなるように、私が加工創造プロセス・クリエイションで手を加えたのだ。


 人間然とした人形達が、テーブル付きワゴンを押して現れた。ワゴンの上には、ガラス製のポットと、二個の陶器製カップが乗っている。それらの食器類もまた、私が創ったものである。エッヘン。

 しかし、ポットの中身に関しては、私の預かり知らないことであった。


 ポットの中身は、茶色い液体で満たされていた。その中で、乾燥した葉っぱが上下にグルグル旋回している。その光景を見た瞬間、土人形達の意図を直感した。


 こ奴ら、お茶を入れてきたのか!?


 私は頼んでいない。来寿様も頼んでいないだろう。土人形達が自分で考えて気を利かせたのだ。


 偉い。元の世界に戻ったら、私付きの侍女達の代わりに仕えて貰おう。


 土人形達は、私達の席の近くで立ち止まった。続け様に、一体がポットを取り上げた。それと同時に、他二体がカップを一個ずつ持ち上げる。カップが卓上を離れた瞬間、前者の土人形がポットを傾けた。

 ポットの注ぎ口から茶色い液体――茶が流れ落ちていく。それを、後者の土人形達が上手くカップ受け止めていた。

 見事な連携である。思わず拍手したい衝動に駆られた。しかし、私が動くより先に、土人形達の偉業の成果が表れていた。

 私の鼻腔が、清々しい香りで満たされていく。


 ああ、これは――カモミールだな


 森の薬草で作ったハーブティである。

 土人形達は、ハーブティを並々湛えたカップを私と来寿様の卓上に置いた。

 カップから湯気と香気を吹き上がる。それが鼻腔に入る度、全身に清水のような清涼感が突き抜けた。


 何と心地良いのだろう。


 香気がもたらす快感が、溜まった疲労を軽減していく。脳味噌スッキリ全快である。これで一層来寿様のお話に集中できるだろう。土人形達の気遣いのお陰である。心優しい造物主(私のことだ)としては褒美の一つも与えたいところ。

 私は土人形達に向かって声を掛けた。


「ご苦労」


 ちょっと、素っ気ない? いや、魔王の威厳を保つ為である。これくらいが普通だろう。それに、効果はてき面だった。

 私が(ねぎら)うと、三体の土人形は右手で鼻を掻いた。その仕草は来寿様を彷彿とさせる。可愛い。思わず頭を撫でたい衝動に駆られる。しかし、それは堪えた。


 軽々に頭を撫でては、魔王の威厳が損なわれるからな。


 私はお安くない。その意思を表すべく、土人形達に背を向けた。

 その直後、私の背後で土人形達が退出する気配が伝わった。その感覚を意識した瞬間、私の眉が少し歪んだ。しかし、それだけだ。

 偉大な魔王は素っ気ないもの。私も、その内の一人として全力で威厳を見せ付けたのだ。「さすわた」である。だからと言って、土人形達の気遣まで無碍(むげ)にする気は毛頭ない。あ奴らの想いに応える為、一滴残らず飲み干してやる。


 私は右手にカップを持ち、土人形達が淹れた茶を一口啜った。その瞬間、一層清々しい感覚が、私の口から全身に広がった。


 ああ、まるで空を飛んでいるみたいだ。


 思わず目を閉じて、空のイメージを想起した。その直後、私の口が「へ」の字に曲がった。このとき、私の脳内には()()()()()()()()()()()が閃いていた。


 今の私にとって、空とは「封印世界の空」だ。()()()()()を想起したら気分も沈む。


 私は最悪のイメージを払拭すべく、頭を左右に振り乱した。その最中、掠れた声が耳に飛び込んできた。


「さて――」

「!」


 来寿様の声。それを直感した瞬間、私は頭を振るのを止めた。超速で背筋を伸ばして、居住まいを正した。その際、私の視線は来寿様の薄い口に集中した。五寸釘で打ち付けたような釘付けである。

 ジッと見つめていると、私の視界に映った薄い口が開いた。


「何から話そうか?」


 何から。その質問は愚問である。答えは前から――そう、私達が生まれる前から決まっている。


「全てだ。可能な限り全て話せ」


 私は欲望と好奇心に駆られるまま、思いの丈をぶち撒けた。その想いに、来寿様は全力で応えてくれた。


「では、生まれたときのことから――」

「是非」


 来寿様の生誕の記録。それを知ることができる。その為ならば、私は喜んで世界を滅ぼそう。

 私は大いなる覚悟を胸に秘めながら、食い気味に即答した。


 さあ、来寿様。貴方様の出番でございます。張り切って、どうぞ。

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