表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/42

第二十四話 魔王の機織り

 化石の森の散策中に発生した来寿(ライス)様誘拐事件。

 迷宮入り必至の難解な事件も、名探偵|ウィルミア・デストランド《私》の名推理によって、無事解決した。その際、報酬としてアラクネの氷漬けを得た。

 蜘蛛女の氷像は、極上の糸を吐き出す永久紡績機関である。早速、我が城の紡績工房の壁に埋め込んだ。


 複雑に絡み合った樹木の隙間から、蜘蛛(アラクネ)の尻だけが突き出ている。その様子を見ていると、私の脳内に創世記に記された(ことわざ)が閃いた。


 これこそ、(まさ)に「頭隠して尻隠さず」だな。


 アラクネの尻は、今も白銀の糸を吐き出し続けている。放っておくと、床が糸塗れになるだろう。何とか工夫して、調整する必要が有る。しかし、今は後回しだ。


 私は土人形に命じて、桶を持ってこさせた。それをアラクネの尻の傍に置いた。すると、桶の中に糸が溜まっていく。一先ず、これで良し。

 私は応急処置を済ませるや否や、次の作業に取り掛かった。


 織機(しょっき)を創ろう。


 私の記憶には、書物で見た織機が閃いている。それを参考に、魔法で具現化する。

 最上位の創造魔法であれば、素材が無くとも創れるだろう。しかし、私は敢えて素材を必要とする魔法、「魔法の加工創造マジカル・プロセス・クリエイション」を使うことにした。

 何故なのか? その理由が、私の脳内に閃いていた。


 織機なんて、創ったことがない。真面に動くか――自信が無い。


 最上位の魔法は、それなりに魔力を失う。何度も挑戦することができない。故に、下位互換を選択した訳だ。

 私は来寿様を伴って、素材集めの旅に出た。


 私達は朝(暫定時間)に出発して、昼には帰っていた。その際、私達は二人ではなかった。一人の奇怪な随行者がいた。


 樹木である。それも、歩く樹木である。より正確に言えば、「私の魔法で歩かせている」となる。運ぶのが面倒なので、自ら歩いて貰った訳だ。


 この奇怪な樹木に対しては、実はそれなりに思い入れが有った。来寿様が「これが良いのでは?」と選び、私が運んだものだ。

 言うなれば夫婦(予定)の共同作業の産物。「私達の子」と言っても過言ではない。


 私達親子(妄想)は、魔王城の前に並んで立った。そこで、私は愛しの我が子(樹木)に魔法を掛けた。すると、我が子(樹木)が変形して、立派な織機へと変貌した。

 かくして、私達は服を作る道具を手に入れた。


 織機の外観は、一般的な手織り機のそれだ。縦糸を真横に並べる水平織機である。そこに何の変哲も無い。

 織機を見た来寿様も、苦笑しながら「人力か」と呟いた。しかし、来寿様の直感は大ハズレだ。


「まあ、使ってみればわかるさ」


 私は口許にシニカルな笑みを浮かべた。

 魔王の微笑の意味は何なのか? それを来寿様が知ったのは、紡績工房に織機を運んだ直後であった。


 出来上がった織機は、土人形達を使って紡績工房に運んだ。

 樹木を編み込んだ部屋には、今は何も無い。精々、壁から蜘蛛の尻が生えているだけだ。織機の置き場所など、幾らでもあった。

 しかし、私は敢えて隅っこ、壁際、それも蜘蛛の尻が生えている直前に置いた。蜘蛛の尻が、織機に触れている。その様子を確認した後、私は来寿様に向かって声を上げた。


「まあ、見ていろ」

「ああ」


 来寿様は、私の言いつけを守って、ジッと織機の方を見ている。その様子を確認してから、私は右手を掲げて織機に触れた。


 魔力注入。


 私が触れた個所から、織機の中に魔力が流れ込んでいく。すると――


「ぎったん、ばったん」


 織機が勝手に動き出した。アラクネが吐いた糸を吸い込みながら、白銀の布を織り上げていく。すると、来寿様は細い目を一杯に開いて、


「これは凄いな」


 手放しで称賛した。

 来寿様の反応は、私の期待通りのものであった。正直、とても嬉しい。私は「どや」と胸を張った。続け様に、脳内に閃いた織機の名称を告げた。


「『全自動魔力織機』だ。これを使うときは、私に頼むが良い」

「ああ、頼む」


 私の言葉に、来寿様は嬉しげに微笑んだ。その笑顔を見ると、私の心臓が激しく弾む。顔に熱を帯びる。思わず、来寿様に抱き付きたくなる。しかし、私は堪えた。


 私は魔王ウィルミア・デストランドであるぞ。


 例え私の王子様になる者であろうとも、臣下に軽々に本音を明かしたり、醜態を晒したりする訳にはいかない。


「ふん」


 私は鼻を鳴らしてソッポを向いた。そのままソッポを向き続けた。その間にも、織機は全力で機を織り続けている。


「ぎったん、ばったん」


 私の耳に、小気味良いリズムが入ってくる。それを聞いていると、何だか眠くなってくる。このまま寝てしまいたい。しかし、私も、来寿様も、やるべきことが沢山有った。


「私は研究室に籠る」

「では、俺は食事の準備をしよう」


 私達は、それぞれの作業を行うべく紡績工房を離れた。


 夕食後、私達は再び紡績工房を訪れた。部屋の中に入った瞬間、私達は――絶句した。


 私達の視界には、白銀に染まった床が映っていた。


 紡績工房の床は白銀の布に埋め尽くされていた。その様子を目の当たりにして、私も、来寿様も、無言で立ち尽くした。


「「…………」」

「ぎったん、ばったん」

「「…………」」

「ぎったん、ばったん」


 暫くの間、機織りの音だけが鳴り響いていた。そこに異音を挟んだのは、来寿様であった。


「これは――頑張り過ぎだな」


 私は反射的に頷いた。

 大量の布。これだけあれば、幾らでも服を作ることができる。しかし、置き場に困る。紡績工房に置いておきたいが、既に足の踏み場すら無い。私の脳内に「廃棄」の二文字が閃いた。その可能性を思うと、眉間に皺が寄る。私は恨みがましく織機を睨んだ。


「…………」

「ぎったん、ばったん」


 私の鋭い視線が織機に刺さっている。しかし、織機は「お前の都合など知ったことか」とばかりに、未だ機を織り続けている。魔王に対してその態度、度が過ぎる不敬である。

 私は直ぐ様織機から魔力を奪った。すると、


「ぎったん――ばったり」


 織機は停止した。これで、布が増えることは無くなった。織機の出番は暫く無いだろう。


「役目ご苦労。休め」


 私は織機に労いの言葉を掛けた。すると、織機は――片方の踏み木をピョコッと上げた。その反応を見た瞬間、私は創世記に記された伝説のサインを想起した。


 これが「サムズアップ」というやつか。


 私は織機に向かって右拳を掲げ、親指を上向きに立てた。その行為は、来寿様の視界にバッチリ映っていた。


「何をしているのだ?」


 私は直ぐ様右手を下ろした。続け様に、


「ふん」


 鼻を鳴らしてソッポを向いた。


 全自動魔力織機の活躍により、私達は上質の布を手に入れることができた。後は、裁断と縫合である。さすれば、服が手に入る。


 次はどんな道具を創ろうか? 何だか楽しくなってきたかも。


 魔法の加工創造など、元の世界(ネフィリム)では不要であった。我が国に必要なものは、殆どウィルリル様(偉大な祖母)が創っている。故に、私は遠慮した。我慢していた。

 しかし、今は好きなだけ創造することができる。その事実を思うほど、私の口角が吊り上がっていく。

 私はソッポを向きながら、脳内で新たな魔法道具のアイデアを練っていた。それが閃く度、私の顔に邪悪な笑みが浮かんでしまうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ