第二十話 魔王の敗北
新緑と、石化した樹木が混在する樹海。その名称を「石化の森」という。
元々そのように呼んでいた訳だが、敢えて言おう。私、魔王ウィルミア・デストランドが命名である。
その奇怪な森の中には、巨大な湖が有った。その湖畔には、無数の樹木を編み込んだ巨大木造建築物が有った。
魔王の居城。即ち、私達――ウィルミアと、我が近衛騎士、愛洲来寿様の愛の巣である。
その名を「封印魔王城」という。
城名の意味は、「この世界の魔王の城」である。我ながら、機知に富んだ素晴らしい名前である。しかし、来寿様は不満げであった。
「もう少し、他聞を憚った方が良い気もするのだが」
他聞を憚る。笑止である。恐らく、この世界に私達以外の人間はいない。誰にも憚る必要は無い。風雲た〇し城? 何だそれは? 知らん。
「ふっ、無用な気遣いだ」
私は来寿様の意見を一笑に付した。すると、来寿様は「はぁ」と盛大な溜息を吐いた。
「まあ、好きにしろ」
来寿様は、アッサリ折れた。分かって頂けて何よりである。この事実は、私に大きな自信を与えてくれた。
何事も、私の思惑通りに進むに違いない。
私は「来寿様は何でも言うことを聞いてくれる」と思った。それを期待した。
ところが、私の考えは甘かった。その事実を思い知ったのは、城内の部屋の割り当てを決めたときのこと。
王城が完成した後、私は直ぐに作戦会議を開催した。
作戦会議室として、城の中央部に位置した大広間を使用した。その中心には巨大な木製円卓を造った。そこに、私を含めた臣下達が勢揃いした。
私、来寿様、三体の土人形達である。
会議の参加者は五人。しかし、発言権を持つ者は、私と来寿様だけ。土人形達は――只の賑やかしである。少なくとも、来寿様はそのように思っただろう。
しかし、実は土人形達には大事な役目が有った。それを十全に果たしてもらうべく、私は全員揃うのを待った。
全員、切り株の椅子に座った。私の対面に来寿様、私の左右に土人形達(左側に二体。右側に一体)である。
それぞれの姿を視認したところで、私は早速本題を切り出した。
「部屋の役割を決める。私が思うに――」
部屋の役割。私達の魔王城には、幾つかの部屋が有った。全部で八室。
現在地《中央大広間》から、七つの部屋に分岐する。それら一つひとつに、私は必要と思われる役目を割り当てた。
中央大広間は居間兼、作戦会議室兼、台所。
他七つの部屋は、それぞれ素材資材保管庫、食料貯蔵庫、縫製工房、武器防具製造工房、魔王の研究所、剣の鍛錬場、そして――寝室。
私は想像してた部屋割りを告げた。その直後、来寿様の右手がスッと伸びた。
「一つ聞きたいのだが」
「何だ?」
来寿様は、実に奇妙な質問をした。
「寝室は一つしかないのか?」
寝室が一つだけ。その質問を聞いて、私は首を傾げた。その反応の意味が、私の口から飛び出した。
「どういうことだ?」
私にとって、来寿様の質問は意味不明であった。その理由が、私の脳内に閃いていた。
私達以外の寝室など、必要ないではないか?
私と来寿様と同衾する。そういう関係にある(思い込み)のだから当然だろう。だからこそ、来寿様の意見は意味不明なのだ。
私が首を傾げていると、来寿様は再び声を上げた。
「いや、我が儘を言える立場でないことは重々承知している」
「? うむ?」
「それでも、これだけ部屋が有るのだから――」
来寿様は、続け様に不可解な言葉を告げた。
「俺の寝室が有っても良いのでは?」
全く意味不明である。私の首は一層傾いだ。その反応の意味が、私の口から飛び出した。
「有るではないか」
「え?」
「さっき言った寝室とは、其方の寝室だ」
「え? そうなのか?」
「うむ」
「では――」
来寿様が続け様に告げた言葉に、私の首はより一層傾ぐ羽目になった。
「お前さんの寝室は?」
「???」
全く意味不明である。脳内に閃いていた「?」が、頭上にまで溢れ出した。その反応の意味が、私の口から飛び出した。
「有るではないか」
「え?」
「さっき言った寝室が、私の寝室だ」
私はハッキリ断言した。これ以上分かり易い回答は無いだろう。しかし、何故か来寿様の首は斜めに傾いでいた。
何なのだ? その反応は?
来寿様は、眉根を思い切り曲げながら「まさかなあ」と零した。一分ほど経ったところで、来寿様の言う「まさか」の内容を告げた。
「もしかして、俺とお前さんの寝室は同じなのか?」
来寿様の回答に、私は即応で首肯した。
その直後、来寿様の口から全く予想外の回答が飛び出した。
「却下だ」
来寿様は、私との同衾を拒否した。有り得ない。そう思う。だからこそ、
「これは魔王の決定だ。否など無い」
私は直ぐ様反論した。
私が我を通せば、来寿様はきっと折れてくれる。今までそうであった。
しかし、今回は違った。来寿様は全く折れなかった。故に、私は最後の手段に打って出た。
「ならば、多数決で決めよう」
多数決。その為の土人形である。しかし、来寿様は頑なだった。
「ふざけるな。駄目なものは駄目だ」
民主主義、暴君の前に破れたり。結局、話し合いは平行線を辿った。
決着まで、かなりの時間を要した。一昼夜ほど掛っただろう。その果てに、何と、何と、何と――
「もう、いい。好きにしろ」
私が、この魔王ウィルミア・デストランドが折れた。来寿様は、剣の鍛錬場に布団を敷いて寝ることとなった。
まさか、この魔王が敗れるとは。ちくせう、ちくせう、おうまい、がでぃす。




