表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/40

第十九話 樹木の館

 規格外の魔物、女神の失敗作コカトリス。石化の森の絶対君主は、物言わぬ(むくろ)と化した。その命と立場を奪った簒奪者(さんだつしゃ)は、新たな森の王となった。

 

 その新王こそ、私、ウィルミア・デストランド。それから、我が騎士、愛洲来寿(アイス・ライス)様である。


 化石の森は我らの領土となった。しかしながら、直ぐに居城を構えることはできなかった。


 私の魔力は枯渇した。来寿様も、私を助ける為に無理をしていた。この場に留まることは、二人で心中するに等しい愚行だ。その為、私達は泣く泣く報酬を放棄した。後ろ髪を引かれながら、ケルベロスの巣穴に帰投した。


 洞窟で養生すること、凡そ二日。その間、ケルベロスの解体作業は完了していた。土人形達のお手柄である。そのお陰で、それなりに素材が手に入った。

 肉、皮、骨。これを使って、何か作れるだろう。しかし、私は全て後回しにした。その理由を、私は高らかに宣言した。


「新居を手に入れる」


 私達は十分回復してから、再び石化の森に足を踏み入れた。毒々しい色が渦巻く空の下、樹海の奥へ奥へと突き進む。

 このとき、私達の格好は未だにゲンベソンと襤褸(ぼろ)であった。私は兎も角、来寿様の格好は何とかしたい。しかし、それも今は後回しだ。


 安全な場所を確保。全てはそれから。

 

 必要な施設や設備は無数にある。それら一つひとつを想像しながら、私達は森の奥へ奥へと突き進んだ。

 その果てに、終に私の想像を具現化する場所に辿り着いた。


 嘗ての決戦の地、湖。


 化石の森の王座は、今はとても静かだ。嘗ての王は、今も玉座(湖畔)に横たわっていた。しかし、その閉じた目は、二度と開かない。

 コカトリスは、既に死んでいる。私達は、それを放置していた。叶うならば洞窟に運びたかった。しかし、当時の私達には余力が無かった。

 折角の得物を放棄した。その事実を想起する度、私の奥歯がギシギシ鳴った。しかし、どうやら私達の判断は正しかったようだ。


 コカトリスの躯には、(魔物)除けの効果が有った。その威光は、死して尚健在。このまま放置しておいても良いように思う。しかし、その選択肢を選ぶつもりはない。


 ああ、鶏料理。食べたい。


 私のお腹が「ぐぅ」と鳴った。すると、来寿様が苦笑した。どうやら、来寿様に聞かれてしまったようだ。恥ずかしい。恥ずかしいので、私は全力で誤魔化すことにした。


「ここに我らの城を立てよう」


 私は高らかに宣言した。すると、来寿様は(おもむろ)に拍手をした。褒められているのか、馬鹿にされているのか、よく分からない反応である。行為の糸を尋ねてみたい気持ちも沸く。しかし、私は敢えて無視した。


 私の魔法を見れば、来寿様は度肝を抜かすに違いない。


 私の脳内で、来寿様が手放しで私を称賛する姿が閃いていた。それを具現化すべく、私は女神の大魔法「魔法の加工創造マジカル・プロセス・クリエイション」を唱えた。すると、湖畔の樹木達が蠢き出した。


 樹木群は自ら根を引き抜いた。その歪な()を蠢かせながら、湖畔の一点に集まっていく。その樹木の数は、最終的に百を超えた。


 樹木群は、互いに身を寄せ合い、互いを抱き締めるように絡み付く。次々結合して、一つに溶け合っていく。

 最終的に、一個の()になった。そこまでの過程、及び結果は、来寿様の視界にシッカリ刻み込まれていた。

 来寿様は、その細い糸目を一杯に開いて声を上げた。


「これは――凄い」


 来寿様は再び拍手した。しかし、今度は全力超速である。その反応を見て、私は「どや」と大きく胸を張った。その際、私の鼻が天に向かって伸びた。口許もだらしなく緩んだ。その表情は、来寿様の視界に――入れる訳にはいかない。


 しっかりしろ。魔王ウィルミア・デストランドっ!


 私は魔王の威厳を全開にして、居丈高に声を上げた。


「これが私達の城だ」


 私達の城。即ち、私と来寿様の愛の巣である。

 この樹木群の王城で、私と来寿様は愛を育むのだ。その様子を想像すると、私の口は勝手に吊り上がった。私の眉も勝手に下がった。そのだらしない表情を直感した瞬間、掠れた声が耳に飛び込んできた。


「まあ、宜しく頼む」


 来寿様が、私に向かって右手を差し出した。それに対して、私は――


「ふん」


 鼻を鳴らしてソッポを向いた。その態度は、我ながら失礼とは思った。しかし、今の間抜けな表情を、来寿様に見せる訳にはいかない。

 私は魔王にして来寿様の主。威厳を保たねばならない。故に、私は全力で虚勢を張った。そこに、再び来寿様の声が響き渡った。


「いやはや、流石(さすが)だな」


 来寿様は、引き続き私を賛辞した。とても嬉しい。だが、その感情を面に出す訳にはいかない。


「ふんっ」


 私はソッポを向いたまま、鼻を鳴らして返事をした。その直後、再び来寿様の声が上がった。


「助かるよ」

「ふんっ」

「偉い、偉い」

「ふんっ、ふんっ、ふんっ」


 来寿様は、延々私を褒め称えた。それに対して、私は延々鼻を鳴らし続けるのでああった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ