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第十七話 アシハラの打刀

 封印世界。(ようや)くこの世界の名称が決まった。目出度し、目出度しだ。だからと言って、それで何が変わったという訳でもない。

 光り輝く洞窟の中、ゲンベゾン姿の美少女、私、ウィルミア・デストランドは、襤褸(ぼろ)をまとった痩身長躯の異国の剣士、愛洲来寿(アイス・ライス)様と一緒に首を傾げていた。


「「どうしたものか」」


 目下最大の懸案(けんあん)は、石化の呪いを持つ魔物コカトリス。討伐せねばなるまい。その最大の障害となっているのが、コカトリスの口から吐き出される「石化ブレス」である。

 石化ブレスを浴びれば瞬時に石化する。その効果が及ぶ範囲で戦うことは死を意味する。ならば、取るべき選択肢は一つ。


「私が遠距離から攻撃する。だが――」


 ブレスの範囲外からの一撃必殺攻撃。しかし、それを実行する為には、解決しておくべき問題が幾つか有った。


「今の私は、魔力を回復し切れていない」


 我ながら曖昧な物言いである。ハッキリ言えば、私の魔力は通常時の半分以下まで落ち込んでいる。しかしながら、それを来寿様に伝えることは躊躇いを覚える。その理由が、私の脳内に閃いていた。


 来寿様の蘇生で無理をしたから。


 魔王と言えど、蘇生魔法「魂の回帰(ソウル・リカージョン)」の使用は一日一度が限度。それを使ったばかりか、回復魔法を併用している。

 無茶をした。そのせいで、生命力が枯渇するほどに消耗した。今も生きていることが不思議な状態である。完全回復するには、それなりの時間が必要だ。


 要するに、今の私はクソ雑魚ナメクジ百歩手前である。


 情けない真実を、来寿様に知られたくない。きっと、来寿様は「えっ、俺の主君弱すぎ」と言って、失望されるに違いない。そのような事態は是が非でも避けたい。その為に、私は敢えて曖昧な物言いをした。その辺は、上手く胡麻化ませたと思う。

 しかし、全ての弱みを誤魔化す訳にはいかない。どうしてもハッキリ言わなければならないことが、一つ有った。それが、私の口を衝いて出た。


「一撃必殺の魔法。今の私では、一度限りだろう」


 一度限り。勿論、回復すれば二度、三度と放てる。しかし、現況は女神の失敗作が跋扈する封印世界。私の回復を待ってくれるなどと、甘い考えは持てない。

 今、できることを、可及的速やかに実行する。私の想いに、来寿様は即応した。


「外せない。と、いう訳か」

「そうだ」


 確実に魔法を命中させる。その為に、攻撃目標を固定する必要が有る。その役目は、私には担えない。

 私は眉根を歪めながら来寿様を見た。


(おとり)役、頼めるか?」


 危険な任務である。コカトリスの注意を引けば、どうなるか? 石像になる可能性は否めない。それでも、来寿様は――


(うけたまわ)った」


 即応で首肯する。続け様に、右手に曲刀(打刀)を握って、静かに立ち上がった。


「では、行こうか」


 来寿様はヤル気になっている。その即実行の心意気は頼もしいことこの上ない。しかし、来寿様を見詰める私の眉は一層歪んだ。

 私の目には、来寿様の姿が「消えゆく寸前の蝋燭(ろうそく)の炎」のように映っていた。


 来寿様は、ご自分の命を軽んじておられるのでは?


 今にして思えば、来寿様の戦い方は無謀なものばかり。魔王()に対しても、地獄の番犬(ケルベロス)に対しても、常に単身で挑んでいる。その事実を想起するほどに、脳内で「今生の別れ」という言葉が存在感を増す。


 このまま行かせてなるものか。


 私は、今の私にできる、最高の防衛手段を講じた。それは、


「お前の武器に、魔法付与を掛けてやる」


 来寿様の攻撃力の強化である。創世記にも「攻撃は最大の防御」という(ことわざ)が有る。必要で有れば、それを引用して来寿様を説得するつもりだ。

 しかし、その気遣いは無用だった。


 来寿様は、再び私の対面に腰を下ろした。続け様にグイと身を乗り出して、私に向かって掠れた声を上げた。


「頼めるか?」


 来寿様は私の提案に乗った。その事実を目の当たりにして、私は心中で安堵の溜息を吐いた。しかし、表面上は平静を装った。

 魔王である私は、軽々に本音を漏らさないのだ。


「ああ」


 私は素っ気ない返事をした。すると、来寿様は右手に握った曲剣を掲げた。続け様に、左手の人差し指で曲剣の刀身を指差した。


「これを、お前さんに渡すのか?」

「ああ。直ぐに済ませる」


 私は右腕を伸ばした。すると、来寿様も右手を前に突き出して、私に曲剣を預けた。その瞬間、私の右手にズシリと曲剣の質量が伝わった。その瞬間、僅かばかり違和感を覚えた。


 何だ? 普通の金属ではないような?


 知的好奇心騒ぐ。私は左手で鞘を握り、右手で曲剣の柄を掴んで引き抜いた。その瞬間、眩い白刃が目に飛び込んだ。


「これは――」


 後に続く言葉が出なかった。賛辞の言葉を忘れるほどに美しい。

 大まかな形状は、私が知る曲剣である。片刃で、刀身が反り返っている。しかし、全く別物だ。

 来寿様の曲剣は、刃の部分に細波のような模様が入っている。異質な金属(硬鋼と軟鋼)を組み合わせているのだろう。その上、刀身が無数の層で構成されているようだ。それぞれの金属純度が異様に高い。製造の際、何度も折り返しているのだろう。その行為によって、鋼の中の不純物を除去したようだ。


 こんな刀剣、今まで見たことがない。


 未知の刀剣、未知の製造方法。それを目の当たりにして、私の好奇心が一層騒いだ。その衝動が、言葉となって、私の口から飛び出した。


「この曲剣は――何なのだ?」


 私の問いに、来寿様は即答した。


打刀(うちがたな)だ。こいつは()()()だがな」


 打刀。それは、アシハラの戦士《武士》達の主要武器である。その特異な構造は「刀匠(とうしょう)」と呼ばれる鍛冶師達が作っているのだとか。その中でも、来寿様の打刀を造った鍛冶師は「稀代の名工」と呼ばれる伝説的存在だった。


村正(ムラマサ)。それが、この打刀を打った刀匠の名前だ。この打刀の名前でも有る」


 ムラマサ。名工が打った、「名刀」と呼ばれる希少な武器である。そのような貴重品を、来寿様は如何にして手に入れたのか? 気になる。気になるから聞かずにはいられない。


「そんなものを、どうやって?」


 私が尋ねると、来寿様はニヤリとシニカルな笑みを浮かべた。続け様に、吊り上がった口を僅かに開いて、少し弾んだ声を上げた。


「国内の剣術大会で優勝したのさ。これは、その褒美だ」


 来寿様はアシハラ随一の剣術使いのようだ。流石は私が王子様と見込んだ男である。その妻(自称)である私も鼻が高い。思わず胸を張った。

 しかし、直後に私の首が斜めに傾いだ。その反応の意味が、私の口を衝いて出た。


「それほどまでの剣の使い手が、何故?」


 何故、来寿様はアシハラに留まらず、シグムント王国の刺客になったのか? 不思議で仕方がない。気にもなる。故に、直ぐ様尋ねた。それにも答えてくれることを期待した。ところが、


「まあ、色々有ってな」


 来寿様は曖昧な物言いで誤魔化した。その回答、実に不満である。私の眉が吊り上がっていくのを自覚する。その反応は、来寿様の視界にもバッチリ映っていた。


「その内教えてやる」


 来寿様の顔に笑みが浮かんだ。眉が曲がっているので苦笑である。しかし、それを見詰める私の胸はトキメかなかった。むしろ、痛かった。


 何て悲しそうな顔。


 私の目に、来寿様が涙を流して泣いているように映っていた。その表情の理由は何なのか? とても気になる。今直ぐ聞きたい、尋ねたい。

 しかし、その機会は与えられなかった。


「俺のことは良いから。始めてくれ」


 来寿様は、私に魔法付与を要求した。それに対して、私は――


「ああ」


 眉を曲げながらも、「仕方ないな」と首肯した。

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