第百五話 この世界が有る理由
私は――えっと、今は「ネフィリア」って言うんだったか? うん。私、創世の女神ネフィリアは、元は「地球」という星に住む人間だった。
当時の地球は「創造力」という、想像を具現化する能力の研究が行われていた。ネフィリムで言うところの「魔力」だ。
その被験者の一人に、私が選ばれた。
私を指名した人物は「創造力の第一人者」と言われる高名な科学者だった。その事実が知らされた際、私は世間から「名誉なこと」と盛大にもてはやされた。私も「選ばれた人間だ」と優越感を覚えた。しかし、そんな想いは直ぐに吹き飛んだ。
私は未知の研究に捧げられた人身御供だった。
研究の内容は、所謂「人体実験」だ。私の体は散々に弄繰り回された。
脳に、脳波を強化する装置が付けられた。
腹に、脳波に反応する物質(魔力)を生成する機能が組み込まれた。
諸々の改造手術を受けたせいで、人間本来の機能が幾つか失われた。
私は人間ではなくなった。その為、人間として扱われなかった。他の被験者も同様だ。その境遇に耐えられない者がいたとしても、私は彼らを責める気にはなれない。
私が所属していた研究施設には、百を超える被験者がいた。しかし、最後まで残っていた者は、私一人。
私は、たった一人で、最後まで実験に付き合わされた。その果てに、終に創造力を獲得した。その成果は、全人類の中でも希少だった。
創造力を得た人間は、私を含めて三人。その三人が、現世に於ける神となった。
私達は数多の奇跡を起こした。それを目の当たりにした人々は、私達を賞賛した。私達を崇め奉った。しかし、持てはやされたのも最初の頃だけだ。
私達は人々に望まれるまま、様々な奇跡を起こし続けた。それを望んだ者は、大いに喜んだ。
ところが、世界中から上がる称賛の声は少なくなった。むしろ、真逆の声が増えていく。
「何で、あんな願いを叶えた?」
「何で、あんな奴らの願いを叶えた?」
「お前らのせいで、俺達は大変な目に遭っている」
私達が奇跡を起こす度、世界中から恨み言が上がった。
私達が奇跡を起こす度、世界中に憎悪の念が溢れた。
いつしか私達は「全人類の敵」と呼ばれるようになっていた。
私達にとって、敵対者を排除することは容易ではあった。しかし、私達は実行しなかった。
敵対者の数が余りに多い。それこそ全人類と錯覚するほどに。
全人類が敵。その事実を目の当たりにして、私達は――絶望した。
私達は地球を離れることを決意した。肉体を捨て、より高次元の精神体、所謂「魂」となって宇宙に飛び出した。
私達は、時間にも、空間にも縛られなくなった。それぞれが、自分の思うまま、好き勝手に宇宙を駆け巡る。
宇宙の旅は楽しかった。宇宙は無限と錯覚する広大な遊び場だ。その中で、私は様々な星に赴き、そこで様々な奇跡を起こした。気紛れだ。
しかし、現地の人間にしてみれば神の所業そのもの。多くの人間が、私を神と崇めた。私も、自分が神であるように錯覚した。
しかし、私は神ではなかった。私の心、精神は、未熟な人間のままだ。その事実は、宇宙を旅する間に「嫌」というほど痛感させられた。
宇宙の旅に浮かれていられた時間は、凡そ一万年くらい。それを過ぎた辺りから、私は旅を止めた。その理由が口癖になっていた。
「詰まらん」
私は、存在していること自体を疎ましく思うようになった。その感覚を意識するほどに、自分の未熟さを思い知る。
真の神になる為には、心を鍛えねばならない。
心を鍛える。その対象が人間であったなら、幾らでも思い付く。しかし、神の如き存在となると、私には一つしか閃かなかった。
それは――生まれ故郷、地球の神の模倣。
「新たな世界を創造し、自分の魂を分けた存在に試練を課す」
かくして、私は「私流の剣と魔法の世界」と称してネフィリムを創造した。その中に、自分の魂を分けた「人間」を送り込んだ。
その際、人間には能力を抑える封印を施している。簡単に試練を乗り越えられては、魂を鍛えることができない。
人間には寿命を与えた。
老いを与えた。
能力に限界を与えた。
魔物という天敵も与えた。
それらの試練を乗り越えてこそ、魂が鍛えられる。
鍛えられた魂が、輪廻転生を繰り返し、より高次元へと昇華する。
これが、私がこの世界を創った理由だ。
全てが私の目論見通りに機能していたならば、私の願いは叶う。そのはずだった。
ところが、私の創世は中々上手くいかなかった。幾つかの障害が立ちはだかった。
その中で最大の要因が、私自身の《《性格》》だ。
「気に入らない」
不満を覚える度、私はネフィリムを破壊して創世をやり直した。その際、お気に入りの作品だけ別の場所、「封印の壺」に保管している。依怙贔屓だ。
私は、既に七つの世界を破壊した。今回で八度目。これだけやり直していると、創世も億劫にもなる。
私は「やり直しの最大の要因」を封じることを決めた。
「暫く放置する。私は――寝る」
私は自分自身を封じた。
外界との繋がりを断つべく、受肉した上で、自分から封印の壺に入った。更に、壺の底に神秘真鍮製の巨球を造って、その中に入った。
私が望まぬ限り、誰も私に近付けない。そのはずだった。ところが、私の予想は外れた。
私の封印を突破する者が現れた。そいつは、今の体の参考にした試験体の子孫。
試験体は、私の都合で魔力量の封印を解除している。尤も、その資質は次世代には受け継がれない。一代限り。私が開封しない限り、人間の能力は封印されたまま。そのように創ったはずだ。
ところが、その資質を受け継いだ人間が現れた。その名前は――
「ウィルミア。まさか、こんな人間が現れるなんて」
これもまた私の失態か? 想定外の存在を目の当たりにして、私の脳内に二つの選択肢が閃いた。
封印しておくか? 解放するか?
選択に迷いは無かった。私は即断即決した。




