第百話 想いのチカラ
真っ暗闇の中、黒と金の鱗が煌めいている。それぞれ、ドラゴンの鱗から作った鱗鎧だ。それをまとった十一名の男女が、武器を片手に横一列に並んでいた。
周囲に灯りは無い。しかし、それぞれの姿形はハッキリ視見える。
五名の女と、六名の男。
全員、真正面を見詰めながら鼻息を荒げている。ヤル気満々だ。その気迫だけで魔物を倒せそうな勢いである。
しかし、未だまだ甘い。皆の首魁である私、ウィルミア・デストランドのヤル気には遠く及ばない。
横列の中心、ど真ん中で、私は可視化できるほどの闘気を吹き上げていた。
私は今、かつてないほど絶好調である。興奮の余り、全身の血が沸騰しているように錯覚する。その熱に浮かされて、最高潮に高揚中だ。今尚、天元突破で昂り続けている。
止まらない。止まるはずが無い。私が興奮する原因が、直ぐ傍にいる。
私の左隣に、黒い鱗鎧をまとった痩身長躯の侍が立っていた。
私の王子様(仮)、愛洲来寿様である。
つい先ほど、来寿様から「お前が好きだ」と告白された。相思相愛である。その事実が、私に無限の勇気とヤル気を与えていた。
序に言えば、今の私は魔力回復薬の副作用で酩酊中。脳内は全力暴走中である。
目の前に有る障害をぶっ飛ばした後、私達は結婚する(勝手な予定)。その前祝として、今から造物主の寝床を破壊する。
二人の門出を祝う祝砲、魔王の超電磁砲。
これを放つのは二度目になる。初回は危うく未亡人になるところだった。しかし、今回は絶対に成功する。絶対に、破壊、消滅させる。
私達の破壊対象は、私の血走った視界の中に収まっていた。
直径百メートルの巨大黒球(半球)、神秘真鍮の繭。その中に、世界の造物主、創世の女神ネフィリアが眠っている。
女神の寝床だけあって、異次元の防衛機能を備えている。初檄で消し飛ばすことはできなかった。しかも、今は殆ど元通りに修復している。神秘真鍮の自己修復機能は健在。しかし、完全修復ではない。
漆黒の球面に、長さ三センチメートルほどの傷が有った。その毒々しい色の筋こそ。初檄で穿った「足掛かり」だ。
僅か三センチ。その傷跡に、魔王軍の最大最強攻撃、魔王の超電磁砲を叩き込む。その覚悟と想いが、私の口から迸った。
「攻撃を開始する」
私は全軍に攻撃を命令した。続け様に、超高速二重詠唱を開始した。
「「メソポタミアの神々の王――(中略)、風の支配者の竜巻っ!」」
二本の竜巻が飛び出した。その事実を直感した瞬間、魔王軍の両端から黒い炎、及び金色の光の奔流が飛び出した。
アトゥルムとアウルム。ドラゴン達のブレス攻撃。
竜巻、炎と光。それぞれの攻撃が巨大黒球にぶち当たる。それによって、黒い球面が歪み出した。
その瞬間、神秘真鍮の自動反撃機能が作動した。
黒い球面に無数の突起が浮き出した。それら全てが、こちらに向かって飛び出した。触手攻撃である。
球面から生えた無数の触手が、大瀑布となって、私やドラゴン達に向かって押し寄せる。
しかし、私達は躱さない。躱す必要が無い。
私達に迫った触手は、私の前に出た来寿様と、真銀人形達によって斬り刻まれた。守りは万全だ。
ドラゴン達は、引き続きブレスを吐き続けている。私は――次の呪文を詠唱した。
「「地獄の窯よ、開け――(中略)、絶対零度の吹雪っ!」」
先に放った竜巻が、旋回する氷柱と化した。その現象は、当然私の視界に映っている。
後一つ、最後の呪文を唱えれば、魔王の超電磁砲が発動する。
その事実を直感した瞬間、私は正面にいる来寿様に向かって声を上げた。
「来寿様っ、こちらへっ!」
「応っ!」
来寿様は、超速で私の傍にやって来た。続け様に、逞しくもしなやかな右手で私の腰を抱いた。その感触を直感した瞬間、私の顔が緩んで――蕩けた。
「ふにゃ~」
変な声が口から出た。今の心境を問われたならば、「温泉に浸かってノンビリ寛いでいる」と答えただろう。このまま浸かっていたい気持ちも沸く。しかし、全て後回しだ。
私は「ふにゃ~」と言った後、直ぐ様最後の呪文を詠唱した。
「「ギリシャ神話の最高神のお力、お借りいたします――(中略)、天帝の雷霆」っ!」」
私が創った氷柱が、眩い光を放ち出した。その瞬間、氷柱の間に強力な磁場が発生した。その力によって、私と来寿様の体が――吹き飛ばされた。
魔王の超電磁砲、発動。その事実を直感した瞬間、私達は声を揃えて叫んだ。
「「ちぇすとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」
私達は、村正を前に突き出して、黒い球面に向かって一直線に突っ込んだ。その攻撃、及び弾の軌道は、神秘真鍮の繭も感知している。
無数の触手が、私達に向かって突っ込んでくる。私達の正面、上下左右、背後以外のあらゆる場所が触手で埋まった。
しかし、どれも私達に届かない。
真正面の触手は、村正で斬り刻んだ。上下左右の触手は遅い。遅過ぎる。私達の速度に全く追い付いていない。
私達はアッサリ打刀の間合いに入った。その事実を直感したときには、村正の切っ先が黒い球面にズブリと埋っていた。
刺さった個所は、初檄で付けた傷。寸分の狂いも無い。来寿様の神技である。
神秘真鍮の抵抗も無く、村正は鍔の辺りまで減り込んだ。後は、この黒いウェディングケーキを切り分ける、いや、跡形も無く消滅させるだけだ。
その事実を直感した瞬間、私の脳内に掠れた声(幻聴)が響き渡った。
「俺は、お前が好きだ。大好きだから、お前を守る」
「――――――――っ!!!」
来寿様の告白。攻撃前に聞いた言葉(第九十九話)を想起した瞬間、私は声にならない叫びを上げた。
それを要約すると、「私も、来寿様が」である。他の者には意味不明だろう。しかし、理解できる言葉も有った。
意味不明の絶叫の後、真面な言葉が私の口から迸った。
「好きいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!」
偽らざる本心。それを叫んだ瞬間、私は魔力を放出していた。
今、私の中には魔法回復薬三本分の魔力がある。そのはずだ。ところが、放った魔力はそれ以上。それも、自分の最大容量を超える膨大な魔力量だ。
もしかして、私の想いの分だけ膨らんでいる? 少なく見積もって――無限大。
錯覚とは思う。しかし、効果はてき面だった。
私の魔力を有りっ丈叩き込んだ瞬間、私の視界から巨大黒球が消えた。
神秘真鍮の繭、消滅。
私の視界に、村正の刀身、その全てが映った。その毒々しい色を目にした瞬間、私は勝利を直感した。それを確認しようと、直ぐ様周囲を見回した。
神秘真鍮の自己修復能力は、一瞬で全体を復元する。一片でも残っていたら、それを起点に巨大黒球が復活する。
私は目を皿のようにして、隈無く辺りを確認した。
私の視界には真っ黒な空間しか映っていない。神秘真鍮の欠片は――無い。その事実を直感した瞬間、私の口の端が吊り上がった。しかし、それは途中で止まった。
私の視界に、黒以外の色が入り込んでいた。
白と――花柄。
謎の物体が見えた位置は、神秘真鍮の繭の中心、巨大黒球の中点。一体、あれは何なのか?
私は目を凝らして謎の物体を観察した。すると、直ぐに分かった。そもそも、私にとっては既知の物体だった。
白と花柄の物体は寝具、「布団」であった。




