第35話 初仕事
「とりあえず、明日香、ひとまず夢幻の神をよろしく頼んだからのぉ。」
「ほ、本当に私、前世が神様だったんだ」
「今更ですね」
「だ、だって、こんなことある??」
「それを言うなら鳥から人型になった私がいるよ」
「——はっ」
和気あいあいとしているところ、主君が咳払いをする。
一同はピタリと会話をやめ、主君の方を見る。
「それと、一つだけアドバイスじゃ。不幸の先に幸福が目の前に転がるかもしれないが、よくよく考えなさい。逆かもしれないから。きちんと自分で選択しなさい。君達に幸があるように」
「かしこまりました」
私とハクも続けて「か、かしこまりました!」と言ってその場を去った。
さて、次は……確か信者達の願いを叶えることだよね。
「あの、次はどこへ?」
「願いを叶えに行く信者の家です。これに関してですが、正直人力でなんとかするしかありません」
「宗教団体としてあるまじき発言」
私は笑いながら母にツッコんだ。
「人力でなんとかなる願いを選んだんだね?」
ハクは母に質問してくれた。
確かに……気になるよなぁ。
実際どうなんだろ。
「そうですね……ただ、宗教団体の仕事ですからね。一筋縄ではいかないと思っていてください」
母の車に乗り遠くへ旅立つ。
道は舗装されていて、下は崖だった。
何気ない道ではあるけれど怖い。
だって……整ってる道ってどこか崩れそうだからだ。
「というか、崖の上に家なんてあるんだ……」
「不思議ではあるね。ただ、少しおかしな家のようだけどね」
「……え?家なんてまだ見えないけど」
曲がり角を通り過ぎてもまだ家は見えなかった。
「障害物を貫通して見てるからね」
ハクは得意げに言う。
「ハク、よく分かりましたね。貴方の言うとおり、少し変わった家だとは聞いていましたね」
少し母も驚いていたが、どこか澄ましている。
「……そろそろですね」
と、やがて家が見えてきた。
——え。ここって……。
何かがよぎった気がしたが、すぐに忘れてしまった。
とにかく、初仕事を頑張らないと。
忘れるってことは……きっとどうでもいいことだ。
「……和風の屋敷だけど、崖の上に建てるのかぁ」
家自体は確かに立派だし風情もある。
ただ、崖の上にマッチしていない。
どうしてこんなところに建てたんだろう。
「変わった家だっただろう?」
「確かに」
今思えば、願いの外交官らしいことをやろうとしていたのでは?
なるべく力に頼らず、人々の願いを叶える。
人を救う……そんな仕事。
母に感謝しなくては。
母達と共に車から降りて私がチャイムを鳴らす。
すると、返事が返ってきてドアが開いた。
「あらぁ、こんにちは〜。さぁ、入って入って」
親しみやすい人物のようだ。
母——明日香を見て、嬉しそうな顔をしていたから、信者の1人ってことを実感する。
なんなら私って期待されてなさそう……まぁ、まだ仕事したてのひよっこだもんね。
自分で納得しつつ、家の中に一同は入る。
何もおかしなところはなさそう。
風もないのに勝手にドアが閉まったことを除けば。
……大丈夫かな、私。
ぶっちゃけ帰りたくなってきた。
「大丈夫だからね……」
ハクはそんな私の気持ちに気づいたのか、小声で慰めてくれた。
「ありがとう……」
ハクは微笑んでくれた。
柔らかな、神様の優しさだった。
こんな、不安になってる場合じゃない。
しっかりしなきゃ。
信者の人が障子を開け、中に入る。
座布団付きの椅子に座る。
「……依頼の内容はなんですか?」
母のように私は聞いてみた。
「……そうねぇ。色々あるけれど……まずは家族と仲直りしたい、かしらねぇ」
「家族と仲直りしたい、ですか」
私に……出来るだろうか。
『——何も知らないくせに勝手なこと言わないでよ!?』
……え?
何か今、いやいや、幻聴や幻覚だろう。
でも、懐かしい……そんな感覚を覚える。
「で、私は……どうしたらいいかしら」
「何があったのかお聞かせください」
すると、信者の人——もとい婦人は途端に顔が曇る。
「調べてないのね……?」
「あぁ、それは——」
「明日香様から何か聞いてない?」
……怖い。
なんだろう、初めて接客業してる感じがする。
「す、すみません。何も聞いてないです」
「……そう。じゃあ、話すから、ちゃんと聞いていて」
ていうか母やハクは?
何も喋ってないけど……。
「貴方、どうして私から逃げたの……?」
「逃げてないですよ」
ちゃんと正面から向き合ってます。
「貴方ねぇ、実の母親の顔すら覚えてないわけ……?」
「ええ?」
なんだろう。
なんで新人にこういう人の相談回してきた!?
ここは、上司が受け持つやつじゃないの?
——いや、落ち着け私。何のための1週間の研修だったんだ。今こそ、お母さんとハクに叩き込まれたスキルを発揮する時!
「私の本当の母親は、ここにいる明日香って人なんですけど……」
心臓のバクバクを抑え、なんてことないように落ち着いて対応してみせる。これが研修の成果!
「あら。ごめんなさい。似ていたものだから……」
「私に、似ているんですね」
私なりに冷静に返す。
というか、母は私が娘ってこと伝えてなかったのか。
まぁ、そんなものか。
「家族について……だったわね。あらやだ、私ったらごめんなさいね。てっきりうちの娘をついに明日香様が連れてきたのかと思っちゃって」
「それは……つまり、娘さんと何かあったのですか?」




