第33話 人助け
大学の定期試験がようやく終わったので投稿を再開します。遅くなってすみません。
「実は友香里に話したいことがあったんだ」
ハクは真剣な眼差しで私をじっと見つめ、そのまま口を閉ざした。
よほど大事な話があるのだろう。
朝だというのに窓の外はどんよりと曇り、冷たい強風がガラスを打ちつけている。
昨日まであったたんぽぽの綿毛が、いつの間にか散っていた。
ハクはいつも私を守ってくれた。
だから、私にできることがあるなら、今度は私が彼の力になりたいんだ。
肌がひりつくような沈黙の中、私はまっすぐハクを見つめ返した。
「……なんですか? その話したいこととは。私、何も聞いていないのですが」
遮るように響いた母の声には、いつもの笑顔が消えていた。
横目でハクを睨みつける母の瞳には、冷酷なほど光がない。
『大事なことは先に言ってください』が口癖の母にとっては心配なのだろう。
「……友香里の力には、代償があるんだ」
ハクは母の視線を無視して、静かに、意を決したように言葉を紡いだ。
代償。その単語を聞いた瞬間、じっとりと手汗が滲む。
深刻になりたくないのに、恐怖が勝ってしまう。
「え……?」
「そう、だから友香里に話しておきたいのは……友香里の場合、神の力を振るった分を返さなきゃいけない。いわば、借金がある状態なんだ」
どうして皆、こんなに強いんだろう。
一般人の私だけが、ここで怯えている気がして、自分がひどくちっぽけだ。
負けたくない、成長したい……。
私は震える声を必死に抑えて、恐る恐る尋ねた。
「……どうすれば、その借金を返せるの?」
「それはね、人々を救うこと。それが条件になる」
「そ、それなら!」
「ただし……力を使わないで、だよ」
ハクは、私の淡い期待を打ち砕くように、はっきりと言い放った。
「……何故、そのような条件があるのですか?」
口を挟んだ母の表情には、怒りよりも困惑と疲れが見えていた。
「それは分からない」
ハクは静かに首を横に振る。
「……そうですか」
母は悔しそうだった。
私はお茶の入った湯呑みをいじりながら、救う……か、と頭の中で考えてみる。
「救うって言っても、困ってる人なんてそう簡単に見つからないというか……どうすればいいか分からないよね」
私が言うと母は思い当たる節があるようだった。
「……それなら、ちょうどいい仕事がありますよ」
あるんだ。
「ほ、ほんと!?」
母は人差し指を口の前に置く。
「三船連合の仕事です。我々の神として、責務を果たしてもらいます。それは……発展途上国の支援ですね」
私はキョトンとしてしまった。
「それって……私には難しいような……」
私のこと……信じてくれてるのかな。
「一旦、別の仕事を先に頼むつもりですから大丈夫ですよ」
……良かったぁ。
「その仕事って……一体なんだろう」
「三船連合の信者の悩みを聞くことです。私としては、是非主君にも会っていただきたくて」
どっちにしろ、大役だ。
「え?緊張する……ど、どうしよう」
「そうは思わないね。友香里にとって丁度いい練習になると思うからね」
「そうですよ、友香里。貴方ならきっと出来ますよ。もちろん、私もいますから」
「明日香が良ければ私もいることにしようか?」
「構いませんよ」
母は力強く頷いた。
「わ、分かった。やってみるよ。上手く出来るかなぁ」
「いずれ出来るようになると思いますよ」
「えっと、いつからなの?その仕事は」
「そうですね……1週間後にしましょうか」
「研修はある?ま、まぁ、お母さん達がいるから大丈夫だろうけど」
「作りますよ。一緒に頑張りましょう」
「はーい」
私、願いの外交官なんてなれるのかな。
——1週間後
お母さんとハクによる即席の研修を終えたものの、私の緊張がほぐれることはなかった。
「なんということだ……来てしまったよ、この日が」
内心は心臓の音がうるさかった。
「大丈夫。私達がいるからね」
「その通りですよ。大船に乗ったつもりでいてください」
私の心を察してくれているのだろうか……?
母の車に乗せてもらい、着いた先は。
「おお……ここが三船連合かぁ。でかぁ〜」
素直に感心してしまった。
建物は一面真っ黒で、どこか異質な雰囲気が漂っている。例えるなら、古い迷信がそのまま形になったかのような、不気味な気配だ。




