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願いの外交官  作者: トコトコ


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第31話 霧が晴れる

 夜に、ベッドに身を沈めた。

 今日という日は、何だったのだろう。

 暗い天井を見つめたまま、動けなかった。

 この家が、息苦しくなったのはいつからだった。

 お母さんの声だけが、私にとっての世界だった。

 雪崩れることもなく、永遠の夜が訪れていた。

 涙が、頬を落ちた。

 眠りに沈んだ。




 どこまでも草原が広がり、遠くに川が光っていた。

 ここは夢だ、と静かに思った。

 水面に引き寄せられるように、歩き出していた。

 自分の顔が見たくて、そっと水面を覗き込んだ。

「嘘、でしょう……?」

 水面に私がいた。

 そして隣にいた。

 見知らぬ老人が、最初からそこにいたように、私を見ていた。

 口が動いていた。でも何も聞こえない。

 じっと水面を見つめ、言葉を読もうとした。

 口の形を追うけど読めないし、届かない。

 風が吹き荒れ、目を開けていられなかった。どのくらい経っただろう。ゆっくりと、目を開けた。

 老人が口を開いた。

「おぬしは子供だ。この家に囚われたままでは、先へは進めぬ。次はうまくやりなされ」

 ドアを叩く音で、目が覚めた。

 ――昨日と同じだ。

 ドアを開けた。

 私と同じくらいの男の子がいた。

「ハッピーハロウィン。お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞー」

「……ハロウィンって、何?」

 男の子が目を丸くして、カゴを突き出した。

「お菓子……くれればいいから」

「は、はぁ。いいけど……」

 家に戻ろうとすると、彼は私の袖を掴んだ。

「な、なに?」

 振り返った。

「君を1人にさせない……ようやく会えた……」

 突然、さっきと声が変わっているような気がした。

 まるで乗っ取られたかのようだ。

 愛おしげに見つめてくる。

「いや、なんなのですか?」

「明日香……今度は僕が君を救う番だ」

「……は?」

「僕は……一ツ橋倉。未来から来たんだ」

「どうして……私は貴方と面識なんてありませんよ」

「未来で会ったじゃないか」

「意味がわからないです。お菓子が欲しいんでしょう?」

「……なるほど。君のような子を助けるよう、とある人物から頼まれてね」

「……どういうことですか?」

「僕は……こう見えても正確にはパラレルワールドからやってきている。だから、君に言ったところで……ではある」

「いえ、誰がそんなことを?」

「僕の嫁さんが、言ったんだ」

「いい奥様ですね……」

「君のことだが」

「またまたご冗談を」

 怖い。

 何言ってるんだ、この人は。

「ふむ。君だって、覚えてるんじゃないか?記憶から取り出せなくなっただけで」

「……」

 記憶の奥が、ぐらりと揺れた。霧がかかったように見えなかったものが、輪郭を取り戻してきた。

「すまない。僕はただ、君を助けにきたんだ」

「分かりませんが……証拠はないのですか?貴方の言ってることを証明できることは」

「君が昔きな粉味のせんべいを食べていたことと、母親が君を家に閉じ込めていたが、襲撃され外に出れたことだ」

「ちょっと……待ってください」

 霧が晴れ渡る。

 思い出した。

「合っているだろう?」

「合っていますが……お母さんは亡くなったのですか?」

「君の母親は生きているかもしれないし、死んだかもしれない。どちらにせよ、ここを抜け出そう、明日香」

「……はっ。貴方の手は借りませんよ。本当に未来から来たのなら、母親から離れる日はいずれ来ます。貴方が言ったのですよ」

「明日香、待っている。僕はいつでも君の味方なのだから。もっとも、他にも君の味方がいるようだが」

「……もう行きましたよ。お母さん。そんなに私を睨まないでください」

「あんた、いつからそんな大人びた?」

 私はいつものように振り向き、静かに、母親を見据えた。

「別に、いつも通りですよ」

「お菓子渡さなくてよかったわけ?帰っちゃったよ、あの子」

「大丈夫です。私は、三船連合の使者ですから」

「は。それってうちの敵組織のこと?随分と、大人になったのね。まさか……未来の明日香?」

「大したことではありませんよ。お母さん、お久しぶりですね。挨拶に来たのですよ。皆貴方のことを探していたんですよ」

 どこかで息を潜める気配がする。

「襲撃って……あんたの仕業か」

「さぁ。分かりません」

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