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願いの外交官  作者: トコトコ


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第29話 帰還

「私は、母のいた世界を知りたかっただけなんです」

 母はそういって私に写真を見せた。古びたほこりを払うと幼い母が写っていた。黒服の強そうな男性も写っている。

「私はいつも守られてばかり。裏社会は案外大丈夫なのだと。そう思って、母の背中を追いかけていました。ですが、三船連合に来た時やっと夢が叶ったと。そう思いました」

 母は虚ろな目をこちらに傾ける。

「けれど、実際は酷いものでした。いつも母は綺麗な部分だけを見せて肝心な部分は見せていなかったんです。気づけば後戻りできなくて。旦那にも迷惑をかけて、だからもうやめて欲しくて。旦那には冷たい態度を取ってしまいましたが……」

 母は真剣にゆっくりと言葉を話す。

 いつの間にかお茶が淹れ終わっていた。

「その話を聞くに、友香里を裏社会と関与させなかったのは同じ道を歩ませないためだったんだね」

 ハクは明日香に確認する。

「そうですね。大体、友香里には向いていないかと」

 確かに。

 私は咳払いしつつ、母の様子を伺う。

「こんなところで説明を終えましょうか。何か質問はありますか?」

「無いよー」

 私が返事し終えるとハクも同じく、と答える。

「というかさ、思うんだけど、お母さんは裏社会やめたいなら私が書き換えれば良くない?」

「やめるつもりはありませんよ。もう戻れませんし、友香里に何かあったら大変です。だから大丈夫です」

「そっか。仕方ないね」

 ……このままではだめだ。

 母に守られる私では。

 そうだ……私は母に迷惑をかけない形でやってみよう。

 そのためには、自分の力を使おう。

 自分の手を汚さず、直接関わらなければいい。




 ――とある神界の取引現場にて。

 銃弾の音が聞こえる。

 視界がぐらつく。

 いつの間にか取引現場はもぬけの殻になった。

 他にも数十件同じように狙撃され、いずれも夢幻の神に危害を加えた者ばかり。

 神界の者はその様子を見守り、こう悟った。

 ――夢幻の神が帰ってきた、と。

 

 ◇◇◇

 

 ……友香里には言えていないことがある、とハクは思う。

 明日、伝えようと決心する。

 明日香の様子はどうだろうか。

 なにやら元気がなさそうに見える。

 それはそうだろう。

 ハクはただ、友香里が幸せであればそれでいい。

 何もかも、ハクにはお見通しだ。

 見えすぎて分からなくなる時もあるが。

 風がそよぐ。

 冷たい風が頬を掠め、部屋の窓を閉じた。

 薄暗い部屋は月明かりだけが照らしていたが、ハクはカーテンを閉じた。

 今日はいい月が見える、とハクは感じていた。

 もう閉じて見えないのに。

 ふかふかのベッドに入って眠りについた。

 これからのことは考えないように。

 だって、もうどうでもいいから。

 運命は決まっている。

 未来が変わるなら、はたからそういう運命だった。

 なのに、何故……ハクはここにいるのか。

 分からないことだらけだ。

 光がないけれど、ここまで来た。

 友香里の成長が楽しみで、何よりハクは神として復活させたいと笑みが溢れる。


 ◇◇◇

 

「出たよ。探偵様が。今回はどんな弱みを握ろうとしてくるのかしら。本当に誰に似たのやら」

 これは……元使用人だ、とハクは思っていた。

 彼女はよくハクのことを嫌っていた。

 元使用人もまたハクが弱みを握って雇った人間だった。

 彼女の秘密を知って全てを知った気になっていた。

 自分は相手の優位に立ったんだって。

 でも、ハクは気づいた。

 誰も他人のことなんて分かりやしない、と。

 部屋から出た直後の元使用人のセリフを聞いたハクは、にこやかに笑った。

 この時は、確か外に出たはずだ、とハクは思い出していた。

 外に出たら、屋敷が火事になっていた。

 既に火はかなり回っており、二階から一階まで火が見えた。

 何が起きたかは覚えていない。

 外に出ただけ、のはず。

 後ろから誰かに殴られ。

 結局、気づけば病院にいた。

 喪失感が自分を襲っていた。

 看護師はハクが起きたことに気づき、急いで病室を出た。

 

 ◇◇◇


 目覚ましのけたたましい音が部屋中に響く。

 カーテンの外には美しい青空が広がっている。

 ハクの鳥の姿を見ると、もふもふしたくなる。

 というか、抱きしめたくなる。

 恋人がいたことない私にとってはハクは珍しい存在だった。

 ただ、それだけではあるが。

 正直、恋愛をしたいお年頃ではあるけど、だからって恋愛脳はどうなのだろうか。

 下心があるのはちょっとなぁ。

 まぁ、仲良くしてればいいでしょ。

 階段を一段ずつ下がりリビングのドアを開けて。

 椅子に座る。

「そういえば、友香里は恋愛したいとかないんですか?」

 母からの言葉に思わず生きた心地がしなかった。

「うーん。したいけど、下心がある状態で接するのはよくないなって」

「そうですね。友達として仲良くしていればいいだけだと思いますが」

「まぁ、それはそう。どんな感じなのかは経験したことないから分からないけど……楽しいもんなのかなぁ。相手にもよりそうだけどさ」

 母はどこか落ち着いた所作でお茶を飲む。

「大丈夫ですよ。きっと友香里は素敵な人が見つかりますからね。それに……友香里がちゃんと友達として仲良くしようって考えているみたいでそこが素晴らしいと私は思いますよ」

 私は思わずにこにこ。

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