第27話 国境
友香里達が大学に行っている間、明日香は情報網を駆使して調べていた。
古道という男にはなんやかんやで手伝ってもらえた。
そのことに明日香は便利だと思っていた。
「明日香さん、この人……旦那さんですか?」
「敬語じゃなくていいですよ。それに……」
明日香は目つきが鋭くなり、確認する。
――確認した。
ふー、とため息をつきながら書類をさらに詳しく見る。
『一ツ橋倉。生死不明だったが、最近になって裏社会に再び姿を現すようになった。現在はレガシー所属。明日香の正体を知っている珍しい存在である。』
「……へぇ。何も知らなかったです。ありがとうございます。調べてくださって」
「大丈夫。このぐらいどうってことは……」
「貴方、良い人ってよく言われるでしょう?」
「え?まぁ、はい」
「どうして裏社会に関わっているのですか?」
「それは……金が無くて仕方なく」
明日香は彼のことを物をみるような目で見つめていた。
「そう……よく、分かりました。構いませんよ。貴方の選択ですから」
明日香は書類を置く。
「とにかく……私の旦那が生きていることが分かり、良かったです」
明日香はそんなお世辞を古道に告げる。
「なら、良かった」
古道は純粋に喜んだ。
明日香のお世辞であることに気づかずに。
彼にとっては、明日香はヒーローだ。
ヒーローは嘘をつかない。
そんなありふれた理想を明日香に押し付けているのだろう。
彼女の本当の姿を見ようともしない。
古道は……本当に、彼女は味方だと信じている。
彼女はただの人間だ。
良い面も悪い面もある。
それでもなお彼女のことを神聖視してしまう。
「ニュースでは、レガシーについて報道されてる。レガシーの本拠地の国なんて強調されて。何かあるのかな」
「……」
明日香にとってレガシーは懐かしい思い出だった。
レガシー。
元々はなんの変哲もないただの一般企業だった。
それを変えたのは、他でもない明日香の旦那である倉だ。
彼は三船連合を終わらせたかった。
というよりも、明日香を連れ出したかった。
彼女を連れて逃げて幸せになれたら。
ただ、明日香は承諾しなかった。
彼女は三船連合の使者だ。
逃れることはない。
「どうして……貴方はいつもいつも、私を憐れむのですか?私が、間違ったことをしていますか?」
「してる。間違いなく。こんなことを君にさせるなんて、君の宗教の神はどうかしている。何故、従うのか僕には全く分からない」
「貴方は、私のことをそう思うのですか……」
「何人殺してきた?」
「さぁ……覚えていません。覚えておく必要がありますか?」
「君はどうして……。……何故こんなことを」
「はあ。もう良いでしょう。この話はもうやめてください」
明日香は出て行ってしまった。
「待ってくれ!明日香、話を」
こちらを向くことは無かった。
「貴方は……根本から間違っています。私は、この仕事をしていたいです。信者の方は救われていますし、何も貴方に迷惑はかけていないではありませんか。それではダメなのですか?」
「ダメに決まってる。裏社会とはもう関わるべきではない。君は死ぬのが怖くないのか?」
明日香は物悲しそうな目で倉を見つめる。
彼にとってみれば明日香は守るべき対象だ。
ただ、明日香の守るべき対象は他でもない三船連合、及び信者達だ。
彼女にとってみれば全てを捨てて逃げるということ。
それを了承するのは容易ではない。
明日香とは最近上手くやれていない。
倉はどうするべきか悩み、一つの結論にたどり着いた。
「そうだ……三船連合を終わらせればいい。そして、明日香と一緒に逃げればいい。失うものを無くしてしまえばいい。ずっと一緒に居られるように」
彼は、結構しつこいというのが明日香の見解だ。
重い、とも言える。
明日香からすれば刺されたくない、と思っている。
明日香は帰路を辿る。
視線を感じながら。
車から誰かが降りたが明日香の知っている人だ。
名前は漆井。
……教授だ。
「すみません。明日香さん、でしょうか。こちら、友香里さんの担任の漆井と申します。宗教団体に入っているのですかね。実は……うちの上司が貴方のことを探していましたよ」
……まずい。
明日香はそう予感した。
「宗教団体を復活させたのは明日香さんだそうですね。それって貴方なんでしょうか。せっかく、レガシーが潰してあげたのに。ああ、覚えていませんかね。何度でも、同じこと。このままじゃ埒があかないのも分かっています。交渉しましょう。出来るのであればですが」
漆井教授はとある神と似たようなことを告げる。
……出来るはずがない。
どう考えても彼の要求なんて分かりきっている。
「……貴方は、何者なのですか?」
明日香は恐る恐る尋ねる。
はったりなのかはよく分からないが。
仮に忘れているのなら。
レガシーが神像に宿っていた神の消息に関わっているのではないか。
「私は……貴方の味方だ、とだけ言っておく。好きにすればいい。やはり、友香里さんは貴方の隠し子らしい」
「……信用できません」
「なるほど。私は元々発展途上国出身でね。宗教に関する理解は人よりも多いつもりだ」
「外国人なのですか?」
全然そういう風には見えない。
「一応。そもそも私は……国からの使命を背負ってきた。戦争を終わらせたい。レガシーによる戦争を」
「随分と大胆に教えにきましたね……。それってつまり、レガシーのスパイ。それも国からのということになりますが」
「信じないのか?」
「そう簡単に信じるわけにはいきませんね……」




