第23話 予兆
リビングに向かうと、テーブルには既にハンバーグが置かれていた。
暖かみのある木の皿とスプーン。
ハンバーグの匂いは……私にとって特別だ。
慌てて椅子に座り、ハクと「いただきます」と頂く。
ハクは私のことを待っていてくれていたようで、食べながら私はにこやかに目を向ける。
美味しそうに食べているが、どこか哀愁が漂っている。
何かあったのだろうか。
あっという間に食べ終わり、「ごちそうさまでした」とリビングを後にする。
部屋に来て、ふとこれまでのことを思い出していた。
暇だからだろう。
今……思えば凄い体験をしていると自分でも思う。
ハクは、私達の味方だ。
神様が味方なんて、これほど嬉しいことはない。
ハクって寝るところあるのだろうか。
一応、鳥にも戻れる気がするけど……。
「神界に寝床があるから、そちらで寝る」
「え!?ハク、神界に行けるんだ……」
てっきり実体化してるから、無理なのかと。
「あくまでも、実体化できるようになっただけだからね。それに……わざわざこの家にいる意味がない。今までもそうしてたよ」
「そっか。……でも、それだと鳥籠はもうお役御免なの?」
「……やはり、鳥に戻るよ」
「いやいや、好きにしたらいいよ」
「鳥籠は……預かっておくよ」
「そ、そっか。ならバイバイだ」
「そうだね。また明日。一旦、自販機で買ったコーヒーは神界の家で飲むよ。それじゃあね」
「はーい」
行ってしまった。
夜は更けるのが早く、満月が不気味なほど明るい。
何かの前兆を伝えているかのように。
満月が一瞬赤くなり、静音が満ちていく。
暗い夜に、スマホで連絡をする者がいた。
路地裏に入っていき、繋がったようだ。
「私――漆井です。三船連合の様子はどうなっているか、確認を。……我々と敵対している組織の様子を聞いている」
静かに、だが力強い声で男は言う。
「……なるほど。では、早速、その神の力とやらを見せてもらおうじゃありませんか。実に、楽しみだ」
その日は、確実に迫っていた。
鳥のさえずりで目が覚めてしまった。
「友香里ー、朝ごはんが出来てますよー」
母の声がする。
いつも通りの朝だ。
なんとか起き上がり、ようやくリビングにたどり着いた。
……ハクがいない。
鳥籠も無くなっている。
「お母さん、ハクは?」
「神界の友人に会うと言って朝ごはん食べた後出かけましたよ。それと……鳥籠についてですが、その友人に渡すと言ってましたよ」
「確かに昨日預かると言ってた」
「そうでしたか……とりあえず、私達は朝ごはんを食べましょう」
友香里達は仲がいい。
きっと私が何かしたところで怒らせるだけだろう。
私は今神界の友人である、天罰の神に会うところだ。
しばらく歩いて、三つの道が現れた。
ここは、真ん中の道を行こう。
正しい選択をしないと迷子になってしまうからね。
分かっている。
過去は変えられなくて、過去の選択を選ばなきゃいけないことぐらい。
笛の音が近づいてきた。
昔の記憶を呼び起こす。
「探偵殿、お時間です。その屋敷はもう存在しないのですよ。……まさか自殺に追い込んでしまったことを悔やんでいるのですか。貴方が余計なことをしたからでは?」
笑われている。
「何がおかしい?」
「いや、貴方の悪趣味のせいでこんなことになったのに、気にするんだなぁ、と思いまして」
「君、私の執事だよね。クビにしていい?」
「はっはっは。相変わらず、ひどい扱いだ」
「君は、いい趣味しているよ」
昔の回想が終わったのか静かになる。
そして扉にたどり着いた。
ノックを三回し、魔力を込める。
うめき声のような音を立てながら重々しい扉が開いた。
目の前には神社があった。
すぐに建物がいや、空間そのものが歪み、屋敷に移動していた。
「お待ちしておりました。探偵殿。……調子はいかがですか?」
「元気だよ。それとこの鳥籠、引き取ってくれないか?」
執事は一瞬目を見開きすぐに落ち着き払った。
「分かりました……引き取りますが、この籠どうしたのでしょうか。それに……実体化しているようです」
「ああ、私が人間界に行く時、鳥の姿でしか現れることが出来なかったから、そのときのだよ。実体化は、功績が認められてね」
「なるほど……私の知らぬ間に大きな事件に巻き込まれていたようですね」
執事は……飲み物の準備をしていた。
おそらく紅茶だろうか。
「執事……明日香についてはどう思っている?」
少しだけ無言が続いた後、ニヤリ、としていた気がした。
「さぁ……天罰なんて下せばいいものではありませんから」
「そうなのか?」
「ええ……天罰を下すことで最悪の結果を招くこともあります。例えば、天罰のおかげで不誠実な恋人と別れられたとしても、その逆恨みで刺されたら意味がない。無理に神の力で裁くより、放っておく方が安全なこともある。そもそも明日香さんに関しては結構気に入ってます。個人的に」
私は怪訝そうな顔をすると、執事は嘲笑しているかのようだ。
「安心してください……私は贔屓しない主義なのです。ただ、仮に夢幻の神の生まれ変わりが私に交渉ができるのなら、乗っても構いませんが。……出来るなら、ですが」
「なるほど。ただ、私がそうさせない。友香里に……いや、誰にも交渉させるつもりはないからね」




