第19話 約束
ハクはこの話を聞いて、明日香に話しかけた。
「あのさ……友香里は、夢を見てたことがあってね。例えば……船の時とかも。まぁ、ただ全部でたらめだね。夢は夢だからさ。ただ、夢幻の神ってのは本当。……それに主君は嘘をついているよ」
「……何を、ですか?」
「死んだら、異界に行くのは人間だけ。神は人間に転生するんだよ」
「それって……まさか。夢幻の神が死んだ……?」
信じられない。
そもそも神が死ぬということに驚きだ。
それも三船連合に所属している神が。
なぜ、主君は嘘なんてついたのか。
「どうして主君は嘘をついているのですか?」
「さあね」
ハクが明日香の目をまっすぐ見る。
「嘘をつかない神なんていないよ、明日香。君が信じてる『娘への想い』だけは本物だ。……主君の駒になんてならないで」
私――明日香は……少し、考えていた。
今まで信じてきた。
でも、私のやってきたことが返ってきていたのかもしれない。
主君は私のことをよく、知っているようだった。
私の考えなんてお見通しだったのだろう。
私のことは駒としか見ていなかったんだ。
ハクは言いづらそうな様子で口を開く。
「明日香……君は主君と対等な関係にはなりたくないのか?」
昔の私は、主君とは対等な関係にはなれないと思っていた。
私は……どうする。
今まで、私の大切な人達は対等な関係でいたことがない。
母だって……いつも私のことを見てくれず、母が上……私が下だった。
いつも私のことを見下していた気がする。
皆のことを平気で裏切って、母はどんどん孤立化していっていた。
私は、そうなりたくなんてなかった。
ただ……私が上になれば皆が見てくれると思ったんだ……。
私にとって、主君はどういう存在なんだろう。
偽りの母を与えてくれた。
どうして主君の上になろうなんて思わなかったんだろう。
神様だからなのだろうか。
いや、きっと……。
「私は……主君と対等な関係になりたいです」
「明日香……君のことは助けるよ、約束する。主君関連以外で君にはやってほしいことがあるんだ」
ハクは一拍置いた。
「明日香には残りの二体の発見と保護。そして、友香里の死んだ原因を探ること。おそらく、裏社会の連中らか、もしくは神々とぶつかる可能性が高い」
「友香里は特にやることはないのですか?」
「友香里には小説家になってもらう」
「小説家……? そんなことがどう関係あるのですか?」
明日香の戸惑いに、ハクは不敵な笑みを浮かべた。
「ただの作家じゃない。神が作ったこの歪な現実を、別の結末へ書き換えるための『叙述者』だよ。彼女は夢幻の神。本物を偽物に変える力がある。友香里が書いた物語は、いつか神の法を上書きする力を持つ。神々が一番恐れているのは、自分の筋書き通りに進まない『別の物語』が生まれることなんだ」
ハクは明日香の肩を叩く。
「明日香は実力行使。友香里は運命の書き換え。二人が揃えば、きっとどれだけ恐ろしい存在もただの登場人物に格下げできる」
……友香里が、現実を綴る。
そのために、彼女の死の真相を知り、残りの神を保護しなければならない。
私は……娘を、ただ守られるだけの対象にするつもりはない。
「……分かりました。ハク、あなたを信じます」
「友香里にも話を通さないといけないね」
友香里は階段を降りていっていた。
リビングの扉を開き、ハクと母がいた。
母は何をしていたんだろう。
それにしても症状が酷くなったり、軽くなったりの繰り返し。
最近はだいぶ治ってきていたと思っていたけどなぁ。
母とハクはこちらを見ていた。
「お母さん、とりあえず寝て治ったよー。で、どうしたの、そんな顔して」
母は、こちらに駆け寄る。
「私、貴方に話があるんです。後で話しますが……とにかく、貴方がいてくれて良かったです……」
「んん?あ、ああどうもです?」
よく分からないけど……お母さんが喜んでるみたいで良かったよ。
母は、パソコンの方に行き、起動させていた。
何かのページを開いていた。
「パソコンは、明日届くそうです。執筆したらどうですか?」
「え……ほほほ本当?やったー」
よし、明日から頑張るぞー!




