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願いの外交官  作者: トコトコ


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第18話 機械のような声

 明日香は、椅子に座り暗い顔をしていた。

 自分の娘は大丈夫なのか……友香里の病気はなかなか治らない。

 教団にこのことを知られたら、友香里は普通の生活を送れないのではないか。

 普通の幸せから遠くなってしまったら。

 私の道が間違っていたのか。

 なんとしても、友香里は人間のままでいてもらわないと。

 そうすれば、きっと教団側も諦めてくれる。

 自分のために、なんてよく誤解される。

 友香里についてはそうじゃないのに。

 あの娘は、きっと分かってくれる。

 私の娘だから。

 あーあ……本当は、こんなはずじゃなかった。

 明日香は立ち上がり、棚からアルバムを取り出す。

 ハクに昔話を聞かせようと思った。

 明日香はゆっくり口を開く。

 私の本当の家系は……宗教団体に所属していた。

 祖母の家に行った時の人は主君が用意してくれた新しい家族だった。

 同じ宗教団体に所属している人らしい。

 結局、他人は他人だ。

 アルバムをめくりながら思い出す。

 私の母が所属していた所はそこまで危険な宗教ってわけではなかった。

 その代わり、どこかきな臭い人達が多かった。

 世間一般で言う金を巻き上げるようなことをやる宗教団体ではなかった。

 ただ、自由にお金を捧げられる宗教。

 本当は、ずっと逃げたくて。

 大学の頃は独り立ちをして縁も切った。

 これで宗教とは無縁でいられる。

 そう思っていたのに。

 ある日、老人に声を掛けられた。

「このままじゃ、また逆戻りじゃよ。君の母親が探しておる」

 目つきが鋭く只者ではない貫禄がある。

「誰ですか……何のことを」

 私は警戒していた。

 ついに母がとんでもないことに手を染めたのか。

「わし、三船連合に所属している神じゃよ。君の母親もわしのところとは違う宗教団体に入っておったじゃろ」

 蓋を開けてみれば聞いたことがない宗教団体で、神……?

「……え?どうして知っているのですか……」

 老人は少し考えていた。

「君の考え、当てようか……。母親を憎んで離れたのは、自分を見てくれなかったからではない。君自身が、母親を自分の思い通りに支配できなかったからじゃ。……当たっておるか?」

 図星だ。

「……本物ですか。意外です。私の所へ来るなんて。宗教への勧誘ですか?」

 私は、少しだけ期待していた。

「理解が早くて助かるのぉ。あぁ〜それと、君の望みは叶える。約束じゃ」

 なるほど……利用価値はある。

「……案内してくれませんか?」

 老人は一際優しい目をこちらに向ける。

「わしは主君と呼ばれておる。好きに呼びなさい。うちの宗教はあらゆる人間を救うことが目的じゃ。君のようなちょっと危ない人もいた方が楽しいじゃろ」

 バレているのだろう。

 それでも初めて……認められている気がした。

 私にとって何かが満ちていく気がした。

 対等な関係ではないのだろう……。

 それでも楽しそうな予感を前に笑みが零れる。

 「君は面白い子だなぁ。きっと気に入ると思うのぉ」

 ……そもそも何の目的で私を連れていくのか。

 この時の私には知る由もなかった。

 太陽を雲が覆い隠し、白い鳥が羽ばたいていた。

 影が鳥を黒く染めてしまうのにそれでももっと高く飛ぶ。

 鳥は機械のような低い声で鳴きながら翼をこれでもかと広げていた。

 別の同じ鳥の元へ合流し新たに群れを成していく。

 気づけば離れられないほどに大きな群れになっていた。

 私は口角を上げ、空を見上げていた。

 彼らは実に面白い、と。

 主君は真っ直ぐ見て、見た目と違い一定のリズムを刻んでいた。

 ピアノのようだ。

 空には興味がないのか一向に見る気配は無い。

 ただ、道を歩く。

 彼が神だから、上を見飽きたのか。

 いや、彼が上を見ることがあるのだろうか。

 どのくらい凄い神なのか。

 私がどうあがいても勝てないような相手だとしたら。

 実に面白いだろう。

 私は、彼に選ばれた。

 聞きたいじゃないか、目的を。

 神は我々をどうしたいのかを。

 ここまで楽しいことはない。

 主君は目を少しだけ細め微笑んでいた。

 主君の心境。

 それは実に不可解だった。

 案外彼もまた楽しんでいるのだろうか。

 この状況を。

 「君のことはわしの友人が気にかけておったよ。まさかこんなに上手くいくとはのぉ。夢幻の神が喜ぶわい」

 「夢幻の神とは?」

 「ああ、名前はカリンって娘じゃ」

 「質問の答えになってないですよ」

 「それは答えられないのぉ。教団の人間でもないしなぁ。ただ、一つだけ言えるなら……凄くしっかりした世話好きで心配性な神じゃ」

 「なるほど……どうして私を気にかけているのですか?」

 「確か……友達になりたいからだったはずじゃが……姿を消しておってな。わしはそういうの専門外でさっぱりじゃ。だから君に探してほしい。それだけじゃ。あやつは、こんな心配かける神じゃないんだがのぉ。なにかあったのかもしれん」

 正直、表情には出てないだろうが少しだけ驚いた。

 神が失踪するなんて大事件だ。

 確かに何かあった、と考えるのが自然だ。

 「居場所に心当たりは?」

 「まったくないのぉ。強いて言うなら彼女を狙っていた組織がいなかったか調査しておるところじゃ」

 なるほど……厄介そうな話だ。

 私を使えば現れる、ということでもなさそうだ。

 「死んでいたら……どうするんですか?」

 「その場合は異界に行っているはずじゃ。その場合は見つからないだろうなぁ……」

 彼は平然としており、高いトーンだった。

 

 

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