第15話 導き
昨日の、シチューは美味しかったことを思い出す。
朝の日差しが身に染みる。
リビングに顔を出すと、お母さんから今日は早いねと言われる。ハクは、明日香に最近警戒されてるから、なかなか友香里の夢に介入できないな、とため息をついていた。そんなハクを見て、友香里は『どうしたんだろう』と思った。
母は、そんな様子を見て、お茶をすする。友香里は、シチューに火をつけ、温める。ハクは『友香里、わたしがいるからね』と守ろうと決心していた。
「お母さんー、パソコンまだー?」
友香里は母親にそう尋ねると、お茶を置いた。
「そうね、メールが来てないから、まだじゃないかしら」
そっかー、と友香里はまだかなーと思っていた。
「そろそろ来るっぽいよ」
母は出かけた。
仕事だ。
「ハクー、お腹は空いてない? 大丈夫?」
大丈夫だよ……友香里、と返事をする。友香里には聞こえていない様子だ。
ハクは、あくびをしながら、友香里の様子を見守っていた。友香里は、スマホを手に持った。
「よーし!小説の執筆始めてみるかー!」
おぉ……とハクは感心しながら友香里の方を見ていた。
「まずは、調べることから。ふむふむ……」
ハクは神様パワーを使い鳥籠の扉を開ける。友香里のところへ行き、画面を覗くと、『やっぱり見当違いなことをしているね』と悟る。友香里はおっ、と反応する。
「ハク?いつの間に……どうかしたの?」
ハクは宙に舞い、窓をすり抜ける。
「えぇ……?お、追いかけないと……」
急いで玄関に行き、ドアを開ける。窓の方に行くと既に見当たらなかった。どこだろう……そもそもやっぱ神様とかってことなのだろうか。明らかにすり抜けていた。太陽に手をかざすと、空間が歪み、映像が浮かび上がる。……気のせいだろうか。ハクと周りの風景が映っており、どこかに向かっている。信じて行ってみるか。確かあそこらへんだ。それにしてもこれであってたら、私には特殊能力があるということだろうか。しばらく、走っていたらハクの姿を見つけた。あの映像の通りだった。こんなことが起こり得るのか。偶然、だよね。
「ハクー、お家に戻ろうよ。何かあったなら話聞くからさ。大丈夫、今ならまだ間に合う。私の体力もね」
精一杯強がる私を見て、ハクは憐れみの目を向ける。そんな……どうして。
「お願いだからさ、屋根の上を渡るのは、やめてね。追えなくなるし、別れるなんて嫌だよ」
必死の頼みも華麗にスルーされ、着いた所は運動公園だった。まさか、散歩したいってことだったのだろうか。それとも、私に運動して欲しいのか。結局一緒に歩き、ときには走った。普通に部屋着なため、恥ずかしい。幸い誰もいなかったのと、部屋着だけど、外に出てもおかしくない服だったため、命拾いした。というか、そもそもハクはなんで私のスマホ画面を覗いたんだ。その後にこの行動に出たわけで……となると、小説関連のことだろうか。しばらく歩くと、庭園に着いた。
「公園の中に、日本庭園……?ここに連れてきて何かあるの?」
ハクは、肯定するように返事する。視界の先には椅子と机、そして大量の紙束がある。ハクに付いていき、そこへ行くと小説の原稿らしきものだった。
「こんなところに置いていったのかな……。だいぶ経ってるよね、ここに置いてから」
しかも紙紐で結ばれている。捨てたのかもしれない。こちらに近づいてくる足音が聞こえる。ハクはそちらに目線を向ける。
「ああ、ちょうどいいところに。実は、何日も放置されていて……名前が書いてあったので連絡したのですが、取りに行くと言われていまして。結局、取りに来ないまま一週間経ってるんです。気に入ったなら持って帰っていいですよ」
「え? じゃあ持ち帰ります」
「そうですか。それならよかった。ありがとうございます」
運動公園を去り、無事に帰り道を歩く。ハクは疲れたのか、肩に乗っている。まさか貰えるなんて思わなかった。正直、原稿が重たい。体感は長い長い時間をかけており、ようやく家に着いた。母の靴がある。
「ただいまー」
母がこちらに駆け寄ると、すぐに目線を別の方へ向き、こちらを見る。
「おかえりなさい。どうしたのですか、その紙束は。まさかゴミ捨て場から取ってきてないでしょうね」
母は、怪しみながらこちらの様子を伺っていた。ハクは、首を傾げる。
「なんか、捨てる予定のものらしくて。貰ってきたんだけど……ほら小説家になろうとしているし、先輩の意見は大事かなって」
「それは……見せてくれませんか?」
母に原稿用紙を渡し、リビングに持っていく。私は緊張しながら母の後を追う。ハクは無表情だ。そもそも表情なんてあるのかな。母は、テーブルに置き紙紐をハサミで切る。
「これは……没原稿のようですが。名前も書いてありますし調べてみますね」
母は、パソコンを開き調べ始める。メトロノームのように均等なリズムで正確に速く打つ。ふと時計の針が聞こえ始めたころ、打つ手が止まる。母はスクロールし始めパソコンから手を離す。




