第11話 認識の断絶
「ここって、食堂!」
ハクは、まだ早いよ、と言いたげな様子だ。友香里は目を輝かせながら、ここにバイキングが、と涎が出そうな勢いである。ハクは、しょうがないな、と呆れたように翼をすくめた。
「えーと、こっちがショッピングか!」
友香里はショッピングエリアに向かう。ハクが見せた映像のことも頭の片隅に入れながら、早速楽しみ始めていた。ハクは、待ってと言ったのにどうしてこうなったんだ、と自分のせいであることに気づき、後で怒られないかを心配していた。
ショッピングエリアに到着する。淡い水色が特徴的な内装は、より高級感を引き立てていた。
凄いね、とハクは反応する。まさに上品さとはこのことだろう。友香里も同じことを思っていたのか、貧乏なわが家とは考えられないほどだと感動に浸る。
なんなら、友香里はこうも思っていた。こんな豪華な船のチケットなんて、本当にスーパーの景品になっていたっけ。だが、それには触れてはいけないと、ハクが必死で友香里の直感に訴える。結果、その思いは友香里に伝わり、彼女は気にしないことにした。
そこへ、前からぞろぞろと危なそうな連中がやってくる。
「よぉ……嬢ちゃん。一人かい?」
友香里は驚きつつも、冷静に対処した。
「はい! そうです。あの、何か用ですか?」
ハクは友香里の肩に乗りながら、じっと様子を伺う。
「いやぁ、珍しい鳥を持ってると思ってなぁ。嬢ちゃん、よければ俺らについてこないかい?」
どうやら彼らには、友香里が中学生くらいに見えているようだ。ハクはそれを察し、友香里についていかないようにと伝える。
「いえ……私、買い物するので」
ハクは、よかった、と胸をなでおろした。ハクからすれば、確かに友香里はまだ子供として通用しそうだった。若いし、何より背が小さい。そして何より母譲りなのか、顔が良い。
「ハクー、怖かったー。ま、とりあえず買い物買い物」
切り替えはやっ、とハクは心の中で突っ込みつつ、一緒に品物を見て回った。
やがてハクは、そろそろ母が帰ってくることを察し、友香里に伝える。結果、確かにお母さんに伝えたほうがいいよねと気づき、友香里はLINEを送った。母からは「分かった」と返ってきたので、ハクはほっとする。間違いなく、ハクにとって母は逆らってはいけない人になっていた。というか、あの「主君」が出てこられると非常にまずい。
「ねぇ、ハク。ショッピングに来たのはいいけど……なんだろう、あの列?」
わあ、と友香里の表情がパッと明るくなる。それも当然だろう、高級なお菓子が売られていたからだ。ハクも美味しそうだとテンションを爆上げさせる。友香里たちは、お母さんに買う時は相談だ、と息ぴったりだった。
LINEで「そろそろ部屋に戻るね」と返事を出し、一行は部屋に戻る。
「おかえりなさい、友香里、ハク。どうでしたか?」
明日香は二人の様子を見る。友香里の表情を見れば一目瞭然だった。ハクは友香里の方を見て、うんうん、と頷く。
「最高だったー! 美味しそうなお菓子とか、食堂も凄いし。お母さん大好きー」
友香里はキラキラとした目で訴える。明日香に目的があってここへ来たことなど、何も知らないのかもしれない。ハクはさっきから羽を大きく見せている。
本当にこの子たちはしょうがないわね、と明日香は思う。友香里もハクの様子を見て、凄いドヤ顔、と反応した。
「とりあえず……食事にしましょうか。もうそろそろ時間でしょうし」
やったー、と友香里とハクでハイタッチをする。私の知らない間に仲良くなったのね、と明日香も嬉しそうだ。
一行は移動し、食事の席に着く。煌びやかな食器や豪華なバイキングが並んでいる。友香里は、これで舌が肥えてしまいそうだ、と思った。ハクは、人の姿に化けて食べるか、いやしかし、と思案していた。明日香はハクの餌を持ってきていたため、本人に伝えるのを忘れていたな、と思い出す。
「ちょっと、ちょっと。食事の場に鳥を持ってこないでよ」
不機嫌そうな客が、見るからに嫌そうな顔をしていた。
「あ、すみません。って、あれ?」
ハクの姿が消えている。世界が青く染まった。
「……あれ?」
気づけば、お母さんと私だけになっている。
「ハクは?」
「え? 置いてきたでしょう。私が餌を持ってきてましたし、皿の上にのせた餌を零さず丁寧に食べてましたよ、ペットコーナーで」
また幻覚や幻聴だったのだろうか、不思議だ。とにかくバイキングを楽しもう。
明日香は、さっきのはおそらくハクが送った念でしょうね、と考えていた。一緒に行きたかったのだろうが、念を切るために無理やりあの不機嫌な客を登場させたのだ。
明日香はトングを取り、無音で料理を皿に盛る。友香里は急いで皿やお盆を持ち、料理を取っていく。
明日香は悩んでいた。本当にこれをするのか、と。いや、一石二鳥だろうし、ここはやろうと判断した。何より、わが娘のためだ、と割り切った。そもそも明日香にとってみれば、もう娘しかいない。……なにより、依存しているのかもしれない。本当の意味で娘と向き合ったことがあっただろうか。彼女には分からなかった。
一行はバイキングを終え、席に着く。
「お母さんは……大人って感じの料理だね!」
友香里は、わあっ、と感嘆の声を漏らした。
「そうかしら……ありがとう、友香里」
明日香は屈託のない笑みを浮かべていた。こうして二人のランチタイムは終わり、ペットショップでハクを出迎え、部屋に戻る。
「おやすみー」
友香里は寝る支度を整え、眠りについた。
明日香は「おやすみ」と告げ、ハクを連れて二人きりになる。
「どうして、ハクは……ついてきたのですか? 何かありましたか?」
優しい口調で明日香は話しかける。ハクからしたら、これほどまでに恐ろしいことはない。
「それは……この船が危ないからだ。見せてあげるよ」
ハクは母親に念を送り、やがて明日香の脳内に映像が流れ始めた。




