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お華の髪飾りⅡ  作者: 本隠坊
64/65

【64】新しい時代の始まり

(1)


 お華は朝方、姉小路に呼ばれた。

屋敷に行ったら、出掛ける用意をしていて、

「行くぞ」

 と、言われてしまう。

 さすがに来て早々だから、

「姉様? ど、何処へ?」

 と聞くと姉小路は真面目な顔で、

「回向院じゃ」

 と言い、そばの綾瀬は笑っている。

 お華は少々驚き、

「回向院? 何故?」

 と言うと、

「住職のお話を聞きに参るのじゃ」

 言うものだから、お華はガクンと首を落とす。


(朝から寺の説教か……)

 と思いながら、渋々、姉小路に付いていく。


 今もある、本所回向院の門を潜り向かって行く。

 回向院はお華の屋敷からも遠くはないのだが、特に信仰厚いと言う訳でも無く、相撲が行われていた寺で有名ではあるが、江戸時代、女性が観に行くのは禁止されていた事もあって、本格的にお参りしたのは初めてだった。

 回向院は浄土宗。

 姉小路にとっては、将軍家慶が眠っている増上寺も浄土宗だから。

 と言うのもあるのだろう。

 この寺は、明暦の大火~安政大地震の折の無縁仏を供養していることもあって、

 江戸人には縁深い寺でもある。

 そしてお華に取っては、「鼠小僧次郎吉」の供養塔もあるから、まあ妙な縁を感 じる事が出来た。


 ちなみに現在、寺には、某小坊主が、姉小路が回向院にお参りに遭遇し、住職の話を聞いていたと、話が残っているそうだ。

 さすがにこの頃は年を取っていて、単におばあちゃんなのだが、元大奥の年寄様だと聞いたその小坊主は、いかにも凜としたおばあちゃんを眺め、いかにもと感心したらしい。


 

 さて、並んでお参りし、一通り住職の話を聞き、 参道沿いの茶屋でお茶を飲む。

 一息つき、姉小路は、

「宮様がおいでになったと聞いたが」

 お華は頷き、少々笑顔で、

「最近は、お忍びしまくってらっしゃるようで」

 と二人は笑い、お華は、

「姉様、やはりお気楽になったと言う事なのでしょうか」

 と聞くと、姉小路は頷き、

「そうかもしれんなぁ」

 するとお華は些か笑いながら、

「初めはあれほど江戸に行かぬと仰っておられましたが、今となっては逆に京には行きたがらなくなって、ウチのお春連れてお忍びしまくってますから。多分次は、姉様のところにもいらっしゃいますよ」

 それには姉小路も微笑み、

「まあ、増上寺が無事だったからな。お気持ちは分からない事も無いわ」

 すると、お華が更に笑顔で、

「姉様と同じって事ですか?」

 これには、姉小路も、

「ふふ」っと笑うだけである。


 そしてお華は、

「そうそう、宮様が、近く、帝は江戸に移られるのではと仰ってられました」

 これには姉小路は驚き、

「それは誠の話か?」

「そういうお話をお聞きと仰ってました」

「では、朝廷も?」

「はぁ、その辺は良く分かりませんが、どうもそちらも終わってしまうと」

 これには、姉小路も空を見上げてしまう。

 そして、

「お上が潰れてしまったら、今度は京だとばかり思っていたが……」

 お華も頷き、

「そうなんでございますよ。あたしも里を守るって言って来ましたが、江戸が都となるなら守るも何も無いなと驚いております」

 しかし、姉小路は頷き、

「ただ、それは良い事かも知れぬ。そうなると、本当に将軍様に成り代わり帝が江戸城に入られるのなら、いらぬ怨みは消えて無くなるだろうしな」

 それにはお華も頷きながらお茶を飲む。

 姉小路も空を見上げ、

「その昔、鎌倉幕府を倒して、帝が天下を収めた事がある」

 お華は驚いて、

「鎌倉って、随分昔のお話ですねぇ~」

 と言うと、姉小路は笑顔で、

「しかし、それで武士を冷遇して公卿中心の政治をやってしまった。そうなると結局、侍の反乱を呼び、室町幕府に代わってしまった事がある。今は良いが、落ち着いて都がまた同じ事やれば同じ事が起こるだろう。それを考えれば、全て変わった方が良いのかもしれん」

 お華は「なるほど」と、お茶を啜る。



(2)

 

 さて、会津での戦いは長く続いた。

 会津の兵も良く抵抗していたが、最終的には城を囲まれ、当主、松平容保は降伏した。

 そして、戊辰戦争は北へ、北へと進むことになる。

 

 さて、お華にとって大事な事は、夫、優斎の仙台である。

 そんな時、祐三郎がやって来た。


 祐三郎は、お華と優斎の前に座り、お華に、

「姉上、あの薩摩が襲ってきた時に、全て銃を暴発させたっての、あれ、ヘボン先生に教わったって本当ですか?」

 それにはお華も笑いながら頷き、

「横浜行ったときにチラっとね」

 優斎は驚いている。

 しかし祐三郎は、

「ヘボン先生にその事お話ししたら、えらい驚いておられましたよ」

「そおお?」

「it must be a lie! (嘘だろう?) って」

 お華はハハハと笑うが、祐三郎は優斎に、

「先生が教えたって言っても、鉄炮を防ぐ方法は、せいぜいそれぐらいだけって話で、むしろ無理だって言いたかったらしいんだけど、まさか空飛んで、そこからって、まるでwitch(魔女)だって」

 優斎は笑ってしまい、

「実際に見た者だって、そう思うよ」

 

 そしてお華は、祐三郎に、

「で、今日は仙台の話で来たんでしょ」

 と言われ、途端に真面目な顔の祐三郎。

 そして、

「兄上、姉上。やはり拙い事になってしまいました。薩長が会津に攻め込んだことで、やはり仙台にも迫って来る様で」

 これには、予想していた事とは言え暗い顔の夫婦である。

 優斎は暗い顔で、

「やはり、戦わないと言う事にはならなかったのか」

 祐三郎は首を振り、

「私も父上を通じて、説得していたのですが駄目だった様です」

 それを聞いてお華は、

「せっかく、無事に済むようにしてあげたのに、自分から攻め込んだら何にもならないじゃない!」

 と怒っている。

 しばらく、三人に沈黙が続く。

 そこにおかよがお茶を持って来ると、お華は、

「あんたにも大事な事だから、ここに座ってなさい」

 と命じられる。

 何だか、秋月家会議の様になってしまったからか、少し離れて敏次郎と八重までやって来て、座って聞いている。

 祐三郎は、お華に頭を下げて、

「どうか、母を守ってくれませんか」

 と頼み込む。

 彼は長男の養子となっているので、この場合の母は、名目上祖母なのだが、

母おしげの事である。

 もちろん、その事にお華は嫌と言う訳はない。

 しかし、一つ大問題があった。

 お華は両手を顔に、

「それじゃ、やっぱり船でぇ!」

 と嘆いている。

 これである。

 しかし優斎は、

「致し方あるまい。私もせめて母上だけでも守りたい」

「それは、あたしだってそうは思うけどさ……」

 と嘆くと、祐三郎が笑い出し、

「実は、先程ヘボン先生の話をしましたけど、本当はこの事の相談で行ったのですよ」

 それには優斎が驚き、

「先生に何を?」

 祐三郎は些か笑顔で、

「あちらの国では、船酔いをおさえる薬があるというのをお聞きして、頂きに行ったのです」

 それには優斎は驚いて、

「もう、あちらではその様な薬があるのか!」

 優斎にとっては、お華がどうというよりも、そんな薬まである事の技術の進歩に驚いている。

 それは、お華には朗報である。

「そうなのサブちゃん!」

 祐三郎は頷き、


「だから、先程の話をお聞きになり、先生は、その様な事が出来る鋭敏な感覚を持った人なら、船などはすぐ酔ってしまうだろうと仰っていましたよ」

 それには優斎が、

「それはどういうことだい?」

 と聞くと、

「人より、地上の動きを鋭敏に感じてしまい、正に酔っ払ってしまうそうにございます」

 優斎も理解出来た様で、

「なるほどな~」

 お華の顔を眺めながら、

「この人なら確かにそうだろうな」

 と苦笑いしている。

 しかし祐三郎は、少々厳しい顔で、

「但し、この薬は中毒性もあるので、使えるは行きだけです。まあ、片が付けば、帰りはまた船で苦しんで頂きましょう」

 と、些か意地悪そうな笑顔になる。

 

 だがお華は、

「良いわよそれで、それだけでもあたしには助かる。とにかく母上を助けなきゃ」

 そして、子供達に、

「あんたたち、おばあちゃんと叔父さん叔母さんを迎えに行くわよ! 分かったね。それで、おかよさんもお願いよ!」

 と途端に元気になるお華に、優斎は呆れながら笑っている。


 話が決まったら、浩太郎・おさよ夫婦に挨拶する。

 話を聞き、浩太郎も如何にも残念そうな顔で、

「そうか。とうとう伊達様まで……」

 と、溜め息交じりで言う。

 ただおさよは、

「良いのよ、その為に先生やお華が居るんだから。それに孫の顔を見ることが出来れば母上様もお喜びになるでしょう」

 お華は、はいと頷き、

「その間、ここはお願いします。まあもう、そんなことやらないでしょうけど、どうか」

 と二人で頭を下げる。


(3)


 さて、一行は船に乗り込む。

「海が穏やかなら良いんだけどな~」

 と祐三郎が言うと、優斎が、

「荒れたら拙いのか?」

 と聞くと、祐三郎は、

「まあ、やはり薬も限度がありますから。私もアメリカ行ったときは大嵐で、普段酔わない私でも気持ち悪くなりましたから」

 それには優斎もおかよも頷く。

「まあ、地上が大揺れに揺れてるから、せめて海は穏やかだといいのだがな」

 と、珍しくシャレを言って笑っている。

 そして、優斎の願い通り、海は穏やかだった。

 薬を飲んだお華は、横になりながら船は進んでいく。

 子供達は、船に乗って最初ははしゃいでいたが、八重などはいつの間にか、お華の横で横になっていた。

 優斎は、

「八重は母の血を受け継いだようだ」

 と笑っている。

 

 そうして、特に大変な事にもならず、翌日船は仙台松島辺りの港に到着した。


 お陰で元気のままのお華は、

「さあ、お母さんのところへ」

 などと言っているが、祐三郎は苦笑いである。

おかよは八重と手を繋ぎながら、後を付いて行く。


 しかし、中心に入れば入って行く程、街の混乱がお華達にも分かる。

 懐に手を入れながら、そして優斎は、腰の刀に手を置きながら進んでいく。

 ようやく、優斎の実家に付くと、子供達はそんな警戒などは関係が無く、大声で、

「おばあちゃん!」

 と言いながら、屋敷に入って行く。

 もちろん、母、おしげは、些か体が不自由なものの、孫達の来訪には満面の笑みである。


 優斎と祐三郎は、母の前に進み、

「母上。家族で参りました。ご無沙汰にございます」

 と平伏する。

 当然、お華とおかよも後ろで頭を下げる。

 おしげは笑みのまま、

「よう来てくれた。済まぬのう、そなた達も大変であろうに」

 と言いながら、敏次郎と八重の頭を撫でている。

 お華は、それを見て微笑みながら、

「兄上様は、いかが」

 と聞くと、姉のお千代が複雑な顔で、

「まだ、お城なのじゃ」

 と言った。

 ただ、お華にしたら、まだお屋敷周辺は無事の様だったので、その辺は安心していた。

 しかし、暫くすると、兄そして祐三郎には父の裕一郎が屋敷に戻ってきた。

 二人で、

「兄上!」

 と、頭を下げると、彼も、

「よう来てくれた」

 喜びの笑みを浮かべている。

 そして、彼も甥、姪の元気な様子を見て、嬉しそうである。


 しかし、事態は、そんな穏やかな時間をそうそう取らせてくれなかった。


「兄上、お城ではどうなっているのです?」

 当然、その話になる。

 これには、さすがに厳しい顔で、

「実は、もう……」


 当主、伊達慶邦は慶応四年(明治元年)に奥羽越列藩同盟の盟主になっていたため、会津に与して官軍に対抗したもののやはり薩長軍には旗色が悪く、降参寸前であった。


 優斎、祐三郎の二人も予想出来ていた事とはいえ、やはり落胆という顔に近かった。

 しかし後ろのお華は、目を釣り上げ、

「兄上様! そうであるならば、一刻も早く降参すべきです。伊達の血を閉ざさないためにも、今はそれしかございません!」

 と、言い切った。

 さすがに、裕一郎はお華の言うことなので、

「しかし、このままでは、伊達の御家が……」

 と言うのだがお華は、

「会津は恐らく降参するでしょう。しかしそれでも藩主が首を打たれるなどの事は無い様に思います。何故なら、十五代が謹慎で収まっているからでございます。和宮様が仰るには、公家もトコトン追い詰めてしまうと、後に何があるか、そして祟りが恐いのでは? 」

 お華は一瞬笑い。

「その様に仰っておられました。さすがに厳封程度は処分があるでしょうが、城を砲撃して破壊してしまうなどの事もありません。ねえ、サブちゃん」

 それには些か苦笑い祐三郎は、

「父上、姉様は凄いのです。もう江戸城を無事に引き渡す事と同時に、伊達の開港と砲撃を一切しないようにと決めてしまったのです」

「な、何だと!」

 と裕一郎は驚きの顔である。

 祐三郎は、

「ここ仙台は、アメリカも港として使わせて貰いたいとの事、仙台は自分で言うのもなんですが、それなりに発達しておりますからね」

 優斎は、既に話は聞いているので大きく頷く。

「姉様は、既にアメリカに、もし薩長が城を砲撃する場合には、海から砲撃する様にと願い、そして本当に、すでに松島近辺に船が来ております」

 これには、裕一郎は驚きを隠せない。

 お華は、穏やかな表情で、

「ただ、これは伊達様に対する行動というよりも、仙台の人々、そしてそれを使うかも知れない外国の人の為です。もうこうなっては致し方ありません。おとなしく軍を閉じ、帝の御為、降参なさった方が良いと存じます。そうであれば、伊達様に問題はございません。何しろ、既に徳川本家や御三家など既に降参しているのですから」

 それには、裕一郎も返す言葉は無い。

 いや、元々その様に思っていた彼は、諦めていたと言って良い。

「分かった、お華の話により、わしも決めねばならんの」

 するとお華は、

「申し訳無いことながら、サブちゃんも伊達様とは違う場所で名を上げております。これは、こちらの家としても恥ずべき事ではありません。まあ、私にはちょっと心配な所もありますけど……」

 と、横で孫の敏次郎と八重の顔を優しく撫でているおしげも、

「そうじゃそれが良い。後はこの子達に任せましょう」

 と、些か力なく囁いた。


 そして裕一郎は城に戻る事を決め、お華達は秋月家代々の菩提寺に逃げる様指示をした。


「よし、サブ。お前が母上を負ぶって行け。やはり、嫡子でもあるお前がやらざるを得まい」

 と優斎が言う。

 そして、

「私とお華はその護衛じゃ」

 とお華に言うと、お華は大きく頷いた。

 しかし、それで歩き出した途端、おかよが優斎に小さな声で、

「少々、お具合が……」

 と行ったが、それは優斎も気が付いていた事だった。

 しかし、サブに背負われ、孫に囲まれ幸せそうに運ばれていく、母の姿に、何も言えなくなった。

 その途中、やはり具合は悪くなる一方だった。

 孫達には分かるのだろう。

 祖母の具合の悪さが。


「おばあちゃん! 大丈夫?」

 と二人で声を掛ける。

 背負っている祐三郎も、見せない涙を流しながら背負っている。

 やはり一度、衝心脚気脚気にて体を壊した事が響いているのだろう。

 お華も、心配だったがこうなると何もすることが無いから、暗い顔で後を付いて行く。


 しかしその時だった。


 如何にも政府軍と分かる二名の兵隊が、前方を塞いだ。

 当然優斎が、

「我々は、菩提寺に行く者。何の用だ!」

 些か彼にしては乱暴な言い方だった。

 恐らく長州辺りの、兵隊なのだろう、気味の悪い笑顔を浮かべ、

「ここを通るのならば、刀など危険な物、そして金目の物を置いて行け!」

 などと言っている。

 すると、お華が怒りの表情で、優斎の前に出て、

「時代が変わっても、追い剥ぎなんぞ残るんだね~。帝の軍隊が聞いて呆れるよ!」

 祐三郎は「きた!」と背負いながら思った。

 何故か、背中のおしげも細やかな笑顔である。

 少々、怯えていた八重だが、おかよに肩を抱かれ、

「母上にお任せすれば大丈夫よ」

 と優しく言われ、横の敏次郎と八重は、その言葉で安心した様だ。


 昔で言う、乱取りの様に考えていた男達の様だった。

 が、相手が悪すぎる。

 そしてその男、二人は妙な笑顔で頷き合うと、二人同時に剣を抜いた。

 が、その瞬間、仙台でも、お華は華麗に舞う。

 船で薬を飲み、正確性がどうかと考えていた優斎だったが、

 こんな時の一瞬は、戻ってしまうのだろうと軽く笑顔になる。

 当然、どの二人には鼻、肩、足と三本ずつ綺麗に突き刺さる。

 悲鳴と同時に、男の一人は腰の拳銃を痛さに耐えながら抜いたが、それには、

お華の髪飾りの簪が、また例の様に飛び出した。

 そう、もうそれは発射出来ない。いや暴発した。

 それと同時にお華は、

「あんた!」

 と声を上げる。

 最もそれは最初から分かっている優斎は、言われるまでも無く、素早く両者の足を切り刻んだ。

 お華は、何事も無かったように、子供達とおかよ祐三郎に、

「さ、行きましょ」

 と声を掛ける。

 分かっていた事ではあったが、おかよと祐三郎は衝撃を受ける。

 通り過ぎる時、優斎は血だらけで倒れている男達に、簪を抜きながら、

「血止めをして、隊に戻りなさい」

 と言い捨て、通り過ぎていった。


 そんな事もあったが、一同は寺に入っていった。

 ここは事前に何かあったら。とお願いしていた寺で会った。

 早速、祐三郎は母を布団に寝かせる。

 が、もう限界だった様だ。

 

 子と孫に囲まれ、彼女は虫の息ながらも、笑顔を向けた。

 お華は優斎に、

「おとうさん!」

 と叫び、勿論優斎は手を取り、

「母上、しっかり」

 同時にお華とおかよも、

「お母様!」

 と声を掛ける。 


 おしげは微笑みのまま、

「サブ、おかよ、後は頼んだよ」

 と言い、優斎とお華に、

「ありがとうね……」

 と言い最後に、

「お華、この子達を頼んだよ……」

 と、息絶えた。

「おばあちゃん!」

 の子供達の声を聞いたのだろうか、微かに頬を上げて逝った。


「やはり無理だったか……」

 と、頭を下げ唸る優斎だが、

 しかし、お華は、

「さすが、武士の嫁。見事に全て言い残し、逝かれたわよ」

 と涙を流す。


 祐三郎も泣いていたが、彼は嫡男。

 お華は、祐三郎に城に居る父に、報告に行くよう命じた。

「今や、嫡男も何もないけどさ、やはりあんたが伝えないと」

 と静かに言った。

 祐三郎もそれは重々承知していて、早速立ち上がる。


 無くなった祖母を囲む孫と嫁達。

 お華は、姉、お千代に、

「お母上はこちらに?」

 お千代は頷き、寺の墓地方面を指差し、

「あちらに代々のお墓があるから」

 と涙ながらに言うと、お華は優斎に、

「それで良いのね」

 と聞くと優斎も頷く。


(4)


 結局、伊達慶邦は新政府軍に降参し、江戸に連行され、そのまま謹慎となった。

裕一郎もそれに付き添い、江戸へと向かった。


 祐三郎の知らせを聞いた裕一郎は、後の事を優斎に任せ旅立つこととなった様だ。

 だが、いつもの参勤ではない。

 連行、引き立てられて行くのだ。

 だが剥奪されてと言っても左近衛中将だった者、

 規模は小さくなったが、それなりの人数で連れられて行く。

 そして、後を託された優斎達は、出来るだけの葬儀を上げ、母を静かに永眠させた。

 

 こうなると姉、お千代の処遇である。

 これには祐三郎が、

「母上。父上も江戸に行かれます。母上を、さすがにこちらにお一人でお残すするわけには参りません。ここは、父上と同じく、江戸に行かれませんか」

 それにはお千代も快諾した。

 祐三郎は、お華に、

「母上の事、よろしいですか?」

 と聞くが、お華は、

「良いも悪いも無いでしょ」

 と笑い、

「まあ、兄上様が、今後どうなさるのかによるんでしょうけど、そんなことを気になさる事は無いわよ」

 と言い、お千代に、

「姉上、お気になさらず我が家に要らして下さい。まあ、女と子供ばっかりで、少々心配でしょうけど、おとうさんも居ますし、今となれば最早江戸の方が安心ですから」

 と微笑む。


 さて、と言う訳でお華達は仙台を後にして、江戸に戻っていく。

 のだが、今度は本当に船の航海である。

 お華は、船で寝込んでいた事は言うまでも無い。

 だが、今回はそれ程でも無く、八重やお千代と話したりしている。

 優斎に言わせると、

「まあ、慣れたんでしょ」

 ということらしい。



※※※つづく※※※

 


今回もお読み頂きありがとうございます。


 とうとう時代が変わりました。

 日本人の一生の中で、時代の変革を目の当たりにするのは、そうそうある事ではありません。

 お華もそんな中、ようやく自分の仕事を終える事が出来ました。

 と言うことで、そろそろこのお話も、残り僅か、どうか最後までお付き合い下さればありがたく存じます。


 ありがとうございました。

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