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お華の髪飾りⅡ  作者: 本隠坊
61/65

【63】終わりの始まり(後編)

(1)


 この日から、江戸の様子がガラリと変わった。

 勿論、将軍家が納める時代から、東征軍支配と変わったからだ。

 しかし、余りにもアッサリ変わってしまった為、一般の町民の殆どは言って見れば、右往左往している。

 265年続いた幕府の時代が、大した戦も無く変わってしまったのだ。

「こんどは帝様だそうだよ」

 と情報は回るのだが、元々、江戸市民には帝の存在は、知ってはいても京都民ほど、実感が無いのだから致し方無い。

 

 朝方、お華は優斎とお茶を飲みながら、

「みんな、どう思っているんでしょうねぇ~」

 と言っても、優斎も首を捻るだけ。

 結局、信太郎・信吉も通常通り、見廻りを初めている様だ。

 そして一度、お華の屋敷に寄って来たが、

 歩いていても、本人達が妙な違和感を抱いている様だ。

 それには、お華も笑い、

「そりゃ仕方無いよ」

 と笑うのみ。

 警察制度は明治6年(1873)に始まるから、それまでは江戸時代の奉行所とさほど変わりが無い。

 奉行が旗本では無いだけである。

 すると、新之助が妙に真剣な顔で、お華に、

「どうも噂では、旗本や御家人の武士達が、上野の寛永寺周辺に集まっているようですよ」

 と驚くべき事を言った。

 勿論、お華も眉を寄せて、

「慶喜さんは、水戸に移ったって聞いたけど」

 そう。この頃既に、朝命で水戸の講道館・至善堂にての謹慎となっていた。

 新之助も「はい」と頷くのだが、

「何でも彰義隊とか名乗っているそうで」

 しかし、お華は、

「でも、あんな所に籠もったら将軍家のお墓だって、壊されちゃうんじゃないの? 折角、何とか穏便に済ませたってのに!」

 と、少々、怒りのご様子だ。

 それには、これまでのお華のやり方を知っている、優斎と新之助も大きく頷く。

 優斎は、

「恐らく、このままでは、武力討伐となると思う。お華の言う通り、今の武力というものを考えたら、それも充分あり得るな」

「そうだよね。まあ、増上寺じゃないから、姉様や御台様には、安心と言えば安心だろうけど。でも今頃、そんなこと始めるのは遅すぎるのよ。こっちもこっちで、何もわかってないよね、おとうさん」

 優斎も苦笑いで頷き、

「そう言われると、時代の流れっていうのを感じるよ。槍・弓の時代が終わったってのを」

 お華は、大きい溜め息の後、

「こういうのじゃ、伊賀も甲賀は手が出せないし、アメリカ、イギリスもそう。上野じゃ単なる反乱だからね~」

 これには優斎も頷く。

 とはいえ、新之助の立場では仕方無いでは済まされない。

 それは、お華も分かっているから、

「新之助、信吉。奉行所に残っている連中で、上野のあの辺りの者達に伝えなさい。出来るなら逃げなさいと。商家の者には、内密に蓄えている金や商品、川向こう辺りに隠しなさいって」

 その時、浩太郎が治療所の方にやって来た。

「お、ご隠居」

 などと言うから、浩太郎も苦笑いで、

「やかましい」と言って、

 新之助や信吉もいたので、

「なんだ? お前達!」

 と声を上げたが、お華が変わって説明すると浩太郎も険しい目になる。

 彼は即座に、上野庶民の避難を命じたが、

「父上、それは今、お華叔母様にも命じられましたよ」

 と笑う。

 しかし、浩太郎は、

「馬鹿者、そんなこと同心をやっている者なら相談するような事では無い。お前達が先頭立って、導いて行け!」

 と怒っている。

 それを聞いてお華が笑い、

「兄上、奉行所だって変わったばかりだし、新之助や信吉にいきなりそんなこと言っても無理よ。でも、これからの事考えるとその通りだけどね」

 と言ったあと、

「さあ、二人とも行きなさい。いつ始まるかわかんないよ。出来る事はやっておきなさい」

 そう言われ、二人は大きく頭を下げ、出て行った。

 今度は浩太郎が大きく溜め息。

 そして、優斎に、

「まあ、こりゃ徒花ってとこだろうけどな」

「そうですね。今更」

すると浩太郎は、

「先生。あんたの所(仙台)も、あぶねえぞ。そんな連中が加わったら大変な事になる」

 それは優斎にも分かっていた。

「まだ、ごたごたしているそうで」

「そうか……でもまずは会津だろう。それで諦めてくれれば良いんだけどな」 

 しかしお華は、

「会津か~」

 と、暗い顔になってしまう。

 すると、優斎達に、

「あの、新鮮組の生き残りとかも会津様を目指す。なあんて言ってたからね。大変な戦になるんだろうなぁ」

 浩太郎も頷き、

「京都にいた連中は、目の敵だとよ。まあ、先頭に立ってやってたからな」

 今度はお華も頷く。


 すると、浩太郎は、

「仕方無い。上野に行くか。お華」

 それにはお華も嫌な顔で、

「やっぱり、そうなるの?」

 しかし、浩太郎は、

「新之助達だけ行かせるのは心元ない。悪いが先生もお願い出来ないか」

 それには、お華も行くともなれば断り様が無い。

 するとお華は、

「あたしは戦うのは嫌よ」

 それには浩太郎も、

「俺だって嫌だよ。でもどうしてもあの周辺の者達が犠牲になってしまう。やはり江戸を救うという意味でも、やるべきだろう」

 そう言われてしまうと、お華も、もう嫌とは言えない。


(2)


 上野戦争は、上野周辺での薩摩藩兵の彰義隊士による殺傷事件が起きた事など数件がその発端となっている。

 戦争勃発に備えて、徳川家の位牌や宝物の避難を行った後、始まる事になる。


 そしてその頃、お華の屋敷に数人に守られた男がやって来た。

 その男は大村益次郎だった。

 お華は、

「あら、これは村田様? この様な所に何の用にござりましょうか?」

 と言うと、大村は少々苦い顔で、

「わしもそなたにゃ、余り会いたくは無かったのだが、事態が事態なのでな」

 当然、お華も上野の騒ぎの事だと即座に思った。

 まあ、今の所、お華の敵ではないので、座敷に招いた。

「で、何用にございましょう?」

 その時、座敷には優斎も敏次郎と一緒に並んで後ろの方で聞いている。

 優斎は(この方が村田殿か)などと思いながら座っていた。

 村田は、単刀直入に、

「もう、上野の一件存じておろう」

 と聞く。

 彼は、一時、江戸の講武所に勤めていた経験もあったからか、長州弁というより、いわゆる、お城言葉も使える男であった。

 相手が、大奥にも伝手があるお華には、彼にしては殊勝な事にそんな言葉で話している。

 お華は頷き、

「それはお伺いしてますよ。私ももし戦いとなったら、民のため、逃げる様に手伝いを頼まれております」

 とチョコッと頭を下げる。

 すると村田、いやここでは大村益次郎は、

「そこでそなたに聞きたい。もしそうなったら、英国は介入してくるのか?」

 なるほど、お華の脅しは、大村に至るまで届いていた様だ。

 しかし、お華は笑い、

「いくらあの国でも、他国の内乱にそうそう首を突っ込みませんよ。どこまでも自分のお国に損になる事なら別ですけどね。あたしもそのこと自体にどうと言う事はありません。ただ、」

 と語尾に力を込めた。

「あの時も申し上げました通り、それに乗じて民の生活、たつきの縄を切り裂く様な事をしたら黙ってはおりませんよ。と言う事です。だから戦いは上野のみで、広げないようお願い致します。」

 そして笑顔に代わり、

「そういう事であれば、どこも損をしないで済み。もう徳川家も位牌などは避難させたということですから、それなら、何も」

 些か緊張していたのだろうか、大村は胸を撫で下ろし、

「それなら良いのじゃ」

 するとお華は、

「勝先生からお聞きしましたけど、貴方様もお医者だったとか」

 それには、何が狙いだと大村は再び緊張したが、お華はそれを見抜き、

笑いながら、

「うちのおとうさんも医者なんでね」

 とお華は優斎に顔を向け笑い、

「そうであれば、貴方は長州でも、攘夷攘夷だと騒いでるお方とは違うと思いますがいかが?」

 それには、大村も多少驚きながらも頷く。

 お華は続けて、

「あたらしい時代を、と言うのなら、あまり医者を忙しくするのもどうかと思いますよ。そんな事をしてれば、いざこの国が危険になったら、誰も居なくなりますよ」

 それには、大村も理解していた様だ。大きく頷く。

 すると大村は、

「そなた上野を攻撃するのはどうすれば良いと考えるのか」

 それにはお華は笑い、

「そんな事、私に聞いて良いのですか?」

 と言った後、

「そう言えば、佐賀の鍋島様から大砲を手に入れたとお聞きしていますが?」

 と聞いた時には、大村は心底驚いた、いや優斎でさえ目を大きく開けている。

 大村は、

「何故、そなたがそんな事を……」

 と、少々大きな声で聞くと、お華は笑い、

「北町奉行には旗本家の鍋島様もお成りになってましてね。奥方様と仲良くして頂いているので、その時は噂かと思ってましたけど、鍋島様ご本家が帝にとお聞きしましたので、当然そうなるのでは? と思いましてね」

 大村は、お華の妙な情報網には驚いていた。

「まあ、正確に狙える所に構えたらいかがです? そうすれば割と簡単に決着が付くように思いますけど」

「おお、なるほど」

 するとお華は、

「大村さん、医者をやめて、今度は人を殺す方に回って楽しいですか?」

 これには、さすがに答えにくい。

 同時に優斎も、敏次郎の頭を撫でながら、難しい顔をしている。

「別に楽しくは無い。しかし、帝の為、敵は排除しなければならんのじゃ」

 と言ったものの、その程度の答えではお華は満足しない。

「言っときますけど、あたしは、これから帝がこの国を統治なさるって言うのは別に反対ではないのですよ。ただ一つ。貴方は少々勘違いなされています」

 これには彼も驚き、

「い、一体、何を!」

 と声を上げるが、お華は少々笑顔で、

「確かに今は、帝の軍と、いや薩長と戦えばそうなるでしょう。でも、あなた方の本当の敵は、実は違う様に思うんですけどね~」

 それには、大村も少し前に出て、

「本当の敵だと?」

 お華は頷き、

「そう。本当の敵は、今、刀を振り回し、北に攻め込み、天下を取ったなどと喜ぶ連中ですよ。そしてそいつらは、恐らく貴方や西郷さんを狙うでしょう。何しろ、違う国の、大砲や鉄砲をドンドン手に入れ、攘夷とは真反対の事やってますからね。貴方様もお気を付けた方がよろしいですよ」

 その指摘には、少々驚いたが、大村は、

「何を申す、その様な事、ありえん!」

 と言うのだが、後ろの優斎はなるほどと頷いていた。

 彼も京都に行った際、尊皇だ攘夷だと襲われた経験がある。

 確かに、幕府を倒した後には充分に考えられる事だ。

 侍として、これからどうなるのか。と考えた場合。その恐れは充分あった。

 そしてお華は、

「もう、貴方様は数多く人の命を奪ってまいりました。それはもう、医者での行いを遙かに超えております。やればやられる。これが戦国のころからの掟。充分お気を付けになりますように」

 と頭を下げた。

 

 これで、何の傷害無く、戊辰戦争へと向かって行く。

 彼には今の所それで充分だった。

 しかし、彼はお華の予想通り、戊辰戦争終了後、彼は明治二年、九月三日、やはり長州藩士だった神代直人ら八人に襲撃される事になる。

 


(3)


 さて、慶応四年、五月十五日(1868.7.4)いよいよ彰義隊と政府軍の戦いが始まった。

 事前に、その近辺には注意を促してあったのだが、戦争がどの様な範囲、そして被害には何も想像が出来なかったので、当日、

おさよとノブに家を任せ、浩太郎とお華夫婦は出かけていった。

 ただ、優斎は浩太郎に、

「どの程度をお考えで」

 と聞く。

 つまり、双方の兵も含めた救助かということである。

 しかし、浩太郎は、

「町の者だけじゃ。兵は兵に任せれば良い」

 それは優斎にとってもありがたいことであった。

 これから伊達領に攻め込んでいくかも知れない者には、今の優斎にはそんな気になれなかったからだ。

 

 そして、新政府軍から宣戦布告がされ、午前7時頃から攻撃が始まった。

 戦場は、黒門口・団子坂・谷中門方面から始まった。

 お華が言っていた、佐賀藩のアームストロング砲は、加賀藩上屋敷(現在の東京大学構内)から、不忍池越えで砲撃も始まった。

 政府軍の新式銃スナイドル銃の扱い不手際などがあったものの、終始幕府軍の優勢で進んでいった。

 お華と浩太郎は、今の上野駅周辺を走り回っていたが、事前の新之助らの周知活動が良かったのか、既に浅草方面等に逃げていたからそれ程の事は無かった。

 しかし、そんなことにも従わず動かない者もいた。

 お華は怒声を上げ、

「あんたら、あの音が聞こえないの!」

 と言い放ち、いくらアームストロング砲とは言っても、今の時代とは違い、正確砲撃など出来なかったから、油断していると砲弾は下谷にも飛んでくる。

 そしてそれは、江戸時代の木造建築など簡単に吹き飛ばす、

 その光景を眺めながら、

「ほら! もう今は違うのよ!」

 と言いながら、そんな者も含めて避難させる。

 お華は上野を、いや寛永寺方面を振り返り、その爆煙と多大な銃撃音を聞き、本当の時代の終わりを感じ取っていた。

 下谷の神社の敷地内に怪我人を収容していた優斎も、聞こえて来る音に、治療をしながらも、お華と同じ事を考えていた。

 そして上野戦争は、結局午後五時には、あっさりと終結した。

 実にあっけない戦争であった。

 通りには、生首を槍に刺し、意気揚々と歩く、政府軍の兵士達を見たお華は、

ガックリと肩を落とし、歩いて行く。

「バカな連中だよ」

 とぼやくお華の言葉に、浩太郎は笑い、

「これが我が国の現実だよ」

 と言うと優斎も、

「本当ですよ。兵器だけ揃えても、やっている事は戦国と変わりませんね」

 益々三人は遠く、黒門方面を見やりながら、言葉静かに、御成街道を歩いていると、神田広小路に差し掛かると、一人の侍が手を振って、走りながら近づいてきた。

「なんだ?」

 と思いながら一瞬警戒した浩太郎だが、お華が、

「あれ?  さぶちゃん!」

 と、途端に笑顔となる。

「どうした! 三郎!」

 優斎も笑顔となる。

 やって来た祐三郎は、ハァハァ呼吸しながら、

「いや~実は、アメリカさんに付き添って、隅田川で戦いを見学してて」

 それにはさすがに浩太郎や優斎も驚いて、

「アメリカさん? あの戦い見てたって言うのかい?」

 祐三郎は頷き、苦い顔で、

「まあ、偵察って奴ですよ。ただ上陸するのは危ないから、川沿いをご見物です」

 と笑う。

 優斎は驚きの声を上げる。

 お華は笑って、

「面白いね~。こっからだったらすみやが近いから、そこで詳しい事聞きましょ」

 との一言で、優斎の荷物を代わりに背負った祐三郎と一緒に、すみやに向かった。


(4)


 すみやに行った一行は小上がりに座る。

「あら、お華さん。これは旦那様も」

 営業はしているのだが、さすがに戦争のその日だったから、やはり、開店休業状態であった。

「おちよ! お酒持って来て!」

 とお華は大きくなったおちよに偉そうに命じている。

 おちよも、「はいはい」と笑顔で仕度する。

 するとお華は、祐三郎に、

「あんた、アメリカさんにいつの間に頼まれてたの?」

 それには祐三郎も笑顔で、

「昨日、上にいたら、アメリカ公使の方からの依頼で。同船する程度ならと、殿にもご了解を頂きまして」

「ふ~ん」

 とお華が言うと、浩太郎は、

「アメリカが偵察って事は、何か?」

 その言葉に祐三郎は笑いながら手を振り、

「単なる暇つぶし、ですよ~」

 と言うから、優斎は驚いて、

「そんなものなのか」

 しかし祐三郎は、

「あそこは、もっと大きな戦争が終わったばかりですからね。そんな余裕が無い事と、今のこの国相手なら、何の危機感もありませんからね」

 と、笑いながら言っている。

 

 すると優斎が、

「屋敷の人達も呼びましょう。あちらでも心配なさっていると思いますから」

「おお、そうだな」

 浩太郎が返事をすると、優斎は立ち上がり、また走って出て行く。

 するとお華は、

「さぶちゃん。どこから見てたの?」

「河の上からですよ。上陸はやめさせたんです。それはそれで面倒な事にもなりかねませんからね」

「そうだね。いくら、新政府軍て言っても、危険は危険だからな」

 祐三郎も頷く。

 やがて、おさよや、お吉、ノブなども、屋敷の者達もやって来た。

「悪いな、今日はここで、終わりを飾りたくなってな」

 と言う浩太郎の言葉におさよも大きく頷く。

 

 すると、優斎は祐三郎に、

「殿は、どういう事になったのだ」

「はい。謹慎処分を言い渡されています。まあ、江戸にいる家臣には誠に申し訳ありませんが、その方が都合が良いかと」

 優斎は、その辺の事情は良く分かっていた。

 それには大きく頷き、

「すると、仙台の様子は?」

 と聞くが、それには祐三郎も苦い顔で、

「今頃、佐幕だ新政府だとやり始めた様で。アメリカに行った事のある人でさえ、反抗しなければと言ってしまってる様で……」

 これには優斎も困惑の顔だ。

 するとお華が、

「やっぱり、水戸みたいなもんかい?」

 さすがにそれは祐三郎も、首を振り、

「まだ、そこまでは。ただ会津の動向次第かと」

 それにはお華も、

「あそこは、ただでさえ大変なのに、今日逃げた連中も目指して行くでしょ。どうなるかね」

 と言っていると、丁度、新之助や信吉もやって来た。

 浩太郎・優斎も声を上げ、

「ご苦労ご苦労」

 と笑顔だ。

 優斎は、

「あなたたちのお陰で、それほどの体の被害もなく。あとは地元の医者達に任せたよ。それは本当に助かった」

「そうだそうだ、お前達も使える様になったな」

 とおさよと二人で、本当に嬉しそうに言っている。

「ありがとうございます」

 二人も、ようやく緊張が解けたように、お上がりに座る。


 するとお華は、

「これで家族も揃ったね。良い機会だから言っとくね」

 と、注がれている酒を呑み干すと、

「改めて言うけど、兄上はもう引退したけど、あたしもお手先退くことにするよ。そして、芸者・お華太夫も、引く事にする」

 それには浩太郎が、

「おお、やっとか!」

 などと喜ぶのだが、お華は、

「やかましい!」

 と文句を言うが、更に浩太郎は、

「父上~」などと言いながら涙ぐむから、お華に、

「泣くんじゃない!」

 と怒られているが、

 おゆきも驚いた顔で、

「お座敷も退くんですか?」

 浩太郎を睨みながら、お華はおゆきに、

「やっぱり、兄上がそうならあたしも、江戸と一緒に終わりたいと思うの。後は新之助達と、敏次郎達、そしておゆき達に全てまかせるわ」

 それには、彼も年をとった平吉も、

「それなら、あっしも奉行所の仕事は退かせて頂きます」

 お華は何回も頷き、

「あの頃は、色んな方に導いて貰い、ここまで来たけど、もう良いでしょ。父上も分かってくれると思う。ねえ、兄上・姉上」

 浩太郎も頷き、

「そうだよな。色々な事があったけど、俺もよくここまで出来たと思っているよ」

 それにはおさよも、

「それにはわたしの父上・母上も分かってくれると思うわ。あとは隠居生活よ」

 と、お華と一緒に笑う。


(5)


 すると、新之助が祐三郎に、

「おじさま。奉行所では欧米各国の仕組みを導入して変わって行くようだ。と言ってるんですが、何か違うところがあるんでしょうか?」

 と聞くと、祐三郎は、

「ほう、そうかい。でも、やることは変わんないと思うよ。お父上やお華姉さんの様に市中を回る。向こうではパトロールって言うんだけど、これはどの国でも一緒だからね。そんなに気にする必要は無いよ」

 それにはお華が、

「なに、兄上みたいに夫婦喧嘩の仲裁みたいな事ばっかりやるの?」

「こら!」

 と今度は浩太郎は怒るが、祐三郎は笑って、

「でも、そんなものだと思うよ」

 それで、彼らは多少安心した様だ。


 しかし、おさよが、

「ただ、ここや本所あたりのお家の方も大変な様よ。駿府に行くって言ったって、簡単じゃ無いし」

 それには優斎も頷き、

「聞いた話では、船で駿府に向かうとか」

 それには、船が嫌いなお華が悲鳴を上げる。

「本当なの? わたしゃ絶対に嫌!」

 とか言っているが、

「あんたは動かないんでしょ!」

 とおさよに言われ、

「まあ、そうなんだけどさ」

 

 実はこの移動の話は、お華の恐れ通り、悲惨な物だった様である。

 移動の船に、身分など全く関係無く、次々載せられ、ギュウギュウ詰めで、簡易トイレの航海だった様である。

 第一、受け入れる駿府でもそんなに大勢の武家を受け入れる余裕などすぐには用意出来る筈も無く、大変だった様である。


 お華は、盃を傾けながら、

「これが時代が変わるって事ね……」

 それにはみんな大きく頷いている。



※※※つづく※※※


今回もお読み頂きありがとうございます。


 今回は上野戦争。

 これから戊辰戦争が始まって行きます。


 お華ご本人も仰ってるとおり、彼女も今回で引退です。

 まあ、現実的にも、本人の気持ちとしてもそうなるでしょう。

 

 ただ、忍びの一人、お華としては、最後の戦いが待っています。

 それは、次回。

 

 もし、よろしければ、またお付き合い下さいませ。

 ありがとうございました。

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