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お華の髪飾りⅡ  作者: 本隠坊
56/65

【56】 あの世からの贈り物

この物語はフィクションです。

 登場する、人物などは架空でございます。

 また、歴史的な出来事に沿って進めていますが、

 事実・史実とは異なる部分があります。

 どうか、ご了承ください。

(1)


 さて、京都では、お華の予想通りの展開となっていた。

 京の下級公家、岩倉具視は、ここが「好機」と幕府排除に動き出す。

 当初、今後の政権運営についても、将軍の意見を聞きつつ勧めて行くという姿勢であったが、岩倉らの猛反対、そして薩摩の圧力で、要するに一大名に貶めるという意見に変わりつつあった。

 しかし、さすがに265年の統治に対しては、簡単に突き崩せるものでは無かった。


 結局、薩摩の首領、西郷隆盛は、まずは幕府を完全に消滅するしか無いと考え、

そして、挙兵の大義を獲得するため、江戸の薩摩藩邸にある指令を伝える。

 それは、あまりに卑怯なやり方であった。


 しかし、一方の江戸、お華の所では、

 相変わらず、平穏な日々を過ごしていた。

 子供達、ノブとお吉の子供と一緒になって、庭で遊んでいる。

 夏の穏やかな日であった。

 しかし、時代の波は、とうとう江戸にもやって来た。


 そんな子供達を横目に、浩太郎が屋敷にやって来た。

 お華の前に座ると、お華は、

「なぁんです? 今日は何を言いに来たの?」

 と浩太郎の機先を制して、言っている。

 それには浩太郎も苦笑いで、

「あのな、頼みがあるんだ。お前、今、上方で流行っているもの知っているか?」 さすがに、予想とは全く違った事を言われるから、お華は少々驚き、

「なに? 例の話じゃないの?」

 と言うと、浩太郎も少し笑顔になって、

「あのな、今、上方では、妙な踊りが流行っているらしいんだ」

「踊り?」

 お華は芸者だが、一体何のことだか理解出来なかった。

「そう。(ええじゃないか)とはやしながら、大勢で踊るのが流行ってるらしい」

 江戸末期に起こった民衆運動の事。

 とは言え具体的に、何に対する、と言った具体的なものでは無く、町民の時代に対する厭世的な気分によるものと思われる。


 お華は、ますます理解出来なかったが、

「それって、伊勢参りか何かの?」

 浩太郎は首を振り、

「お伊勢さんとは、全く関係がないらしい。どうも今の世の中を、歌っている様だ。さすがに上方は色々と事が起こっているから、それに嫌気がさしてと言う話だ」

 ここまで聞くと、お華もようやく理解出来た様で、

「ふ~ん。で、私に何をしろと?」

 浩太郎は腕を組み、

「どうも、この江戸でも始まりそうなんだ」

「え? 江戸で?」

「うん。ただ、踊っているからって一々捕まえるのもどうか? ってな意見があってな。俺も、打ち壊しや、一揆の先触れとかだったら、取り締まるけど、ただ踊るだけなら、ほっとけば良いとは思うんだけど、さすがに心配する者も居てな。ならば、芸者のお華に見張って貰えとか言われてな」

 と頭を掻く。

 それにはお華も大きく笑う。

「まあ、良いけどね。でもさ、江戸の街は門もあるし、そうそう大勢で踊りまくるなんて難しいんじゃない?」

「そう、それは俺も思うが、世の中が世の中だから、門番も、それに乗って開けちまうかも知れないだろ?」

「ああ、それはそうね」

「ま、とにかく、お前に任せるからさ、せいぜい日本橋の通りを練り歩くぐらいで止めてくんないか」

 お華は、笑顔で、

「へえ~、面白い事になったね~。まあ、こういう時に辻斬りなんて起こったら、何人も斬られちゃうからね、あ、そう言う事の警護って事?」

 さすがに浩太郎も笑って、

「まあ、そういう事さ。そうなると色々面倒だからな」


 引き受けたお華は、その夕刻、日本橋の通道に、おゆき・お秋と、事態が

事態だから、おみよも引き連れ、

 日本橋方面に向かった。

 途中、おゆきが、

「お姉さん、みんなが踊りまくるってどういう事ですか?」

 彼女は現役の芸者。

 そう言われても、想像出来ないようである。

 もっとも、その辺は、おみよも同じで、そもそもお華さえ、見た事無いから、

「まあ、まあ、見物がてらいってみましょ」

 と、日本橋の通りに出た途端だった。

 結構向こうの方から、笛や太鼓が聞こえて来た。

「ええじゃないか」と言う声は聞こえてこないが、何やら行進してくる気配を感じた。

「来たよ!」

 とお華が叫ぶが、何だか明るい調子で、みんなが踊り歩いているのが見えて来た。 これには、おゆきとおみよも、驚愕の顔だったが、お華は、ニコニコしている。


「へえ、こういうのが今、上方で流行っているんだ」

 さすがに、こんな光景は見た事が無かった。

 月下の元、明るい拍子で、揃ってやって来る。

 ただ、その調子を聞いたお秋が、頭を捻る。

「これは……もしかしたら……」

 と、踊っている連中を一人一人良く見ると、なんと見知っている、津軽(弘前)藩の下級兵士なども混ざっていたから、大きく頷き、

 お秋は、お華に、

「こりゃ、盛岡の踊りですよ」

 と言い、お華を驚かせる。

「上方じゃなくて、北の踊りなの?」

 ゆっくりゆっくり踊りながら進んでくるから、目の前に迫ってくると、元々、こういったお祭り騒ぎが好きなお華は、

「見てるだけなんて面白くない! 一緒に踊っちゃおうかな」

 とか言うものだから、おみよも、

「面白そうね!」

 と、一緒になって踊り始めた。当然、おゆきも引き摺り込まれる。


「姉さん! 見張ってるんじゃ…」

 と言うのだが、お華は、

「芸者が、踊りを目の前に、黙っちゃいられないでしょ!」

 と言いながら、真っ先に混ざってしまう。

 仕方無いから、みんなも一緒になってしまう。

 お秋は、さすがに、すぐに思い出した様で笑顔で踊り出した。


 さすがにこの人数で、ゾロゾロ来られると、普段、暮れ六つには閉まってしまう門も、門番も恐れて、次々開けられドンドン進んでいく。


 離れて見張っていた浩太郎も、頭に手をやり、

「あの、バカ!」

 と起こっていたが、笑顔だった。

 浩太郎としても、打ち壊しなどの取り立てて危険な様子も無かったので、

「しゃぁあんめい」と言う事なのだろう。


(2)


 しかし、翌日の夜、とうとう、江戸でも時代が動き出す。

 薩摩・西郷からの命で、薩摩藩邸に潜んでいた連中が、密かに庄内藩の藩邸へ、攻撃を仕掛けたのだ。

 この事を聞いたお華は、眉を寄せる。

 賊徒は庄内藩だけで無く、赤羽根橋の新微組の屯所にも、にも鉄炮が打ち込まれていた。


 さすがに庄内藩と新微組が見張っていたのでは、浩太郎が放っていた町方の役人にくらべ、余りにも派手なため、逆にすぐ分かってしまっていたのだろう。

 とはいえ、さすがに庄内藩もよく防ぎ、これには幕閣も怒り心頭。

 直ちに、高輪薩摩藩邸への攻撃を命令した。

 だが、これが西郷にとっては、大義名分を立てるには申し分無い事であった。

 こうなると、奉行所も動き出す。

 すると、当然、お華・おさよにも使いが走る。

 お華は驚いたが、

「とうとう……」

 との思いだった。

 しかし、これも仕方が無い。

 ここにもある父の仏壇に頭を下げ、おさよを迎えに、優斎と一緒に八丁堀に行く。

 優斎も、かなりの怪我人が出るとの浩太郎の予想で、薬箱を背負いながら歩いて行く。

 八丁堀に着いた二人だが、そこに祐三郎も浩太郎の屋敷にいて、

「兄上、姉さん! やっぱり薩摩藩邸へ」

 と心配そうに聞くが、二人は笑顔で、お華が、

「大した事ないわよ。辻斬りを捕まえに行くだけだから」

 それを聞いた祐三郎は、

「だ、伊達はどうすれば……」

 と言うのだが、優斎が、

「伊達様に今回の事は、関わりない。とにかく騒ぎを聞きつけても藩邸から出てはならん。お前もこの事、留守居様に知らせに急げ!」

 祐三郎も頷いて、早速品川に向かって庭を出る。

 

 屋敷で待っていた、浩太郎も、

「後は頼んだぞ」

 と新之助に言い残し、

 お華達と一緒に、三田、薩摩藩邸に向かう。

 しかし、途中、お華が、

「ねえ、兄上。兄上に言ってもどうしようも無いけどさ、これって、戦の良い口実になるんじゃない?」

 それには、隣で歩いている優斎も大きく頷く。

 浩太郎は驚き、

「なに? どういう事だ!」

 と、大声で聞く。

 お華は、

「この前もさ、大奥で御台様に、江戸討伐の院宣なんか出なければ良いのだけど……とか仰ってたし、江戸と京は離れてる、適当な理由付けて、帝への反抗だとか言い出さないかね?」

 それには、浩太郎も、言葉が無い。

「おとうさん、どう思う?」

 優斎は、和やかに、

「まあ、昔からよくある手段だからね。公家なんか、薩摩の言う事を無下には出来まい、下手すると自分達が斬られるからな」

 しかし、ようやく浩太郎が、

「その辺は良く分かる。しかし、無法にも襲撃されれば、排除を命じられるのも当然じゃ。われわれにとっては、ただ、辻斬り押込の連中をお縄にするだけじゃ。あとにどうなるかは、我々にはあずかり知らぬ事。まずは、やることをやらねば」

 お華は、それ自体に反対しているわけではないので、頷く。

 すると、おさよが、

「私達は、どうするの? お屋敷に討ち入るの?」

 と妻に聞かれる浩太郎も、珍しい。

 浩太郎は、笑顔で、

「われわれは、表に待機し、逃げ出そうとする下手人を食い止めれば良い。それだけなら、お前達でも出来るだろう」

 もっとも、お華とおさよなら、討ち入ってもそれ程の危険は無いのだが、そこまでは…と浩太郎も考えたのだろう。

 いよいよ、高輪に着いた。

 既に、南北奉行所の連中、そして今日の主役、庄内藩と新微組は、今か今かと準備は既に完了している様だ。

 お華達は海側、今で言うJR田町駅付近に陣取った。


 そして大声と共に、幕府側は薩摩屋敷に踏み込み、放火していく。

 当然ながら、それを予想していた連中も、得意の示現流で応戦する。

 しかし、多勢に無勢。

 完全に数で勝る、幕府側に、それ程時も掛からず、男達は二十人一組で逃げ出した。

 ここは当然ながら、品川の海の近く。

 後にJRの線路となるこの場所は、芝浜の海だった。

 逃亡した連中は、居並ぶ町家を次々放火し、その混乱で、船での逃亡を図ろうとしていた。

 お華とおさよは、さすがにこの様な、武士にあるまじきテロ活動には我慢出来なかった。

 お華は、放火しようとする者や、刀を振り上げ、辺り構わず振り回す薩摩の侍に、

目尻を逆立て、次々、簪で、鮮やかに鼻を打ち抜く。

 次々、悲鳴がおこり、これも当然、おさよと浩太郎の小太刀の刃風によって、次々打ち倒され、次々、お縄となっていく。

 すると、とうとう頭目と思える男も現れ、その惨状に眉を寄せる。

 しかも、前に立ちはだかるのは、女二人だ。

 あまりの腹立たしい状況に、

「馬鹿者ら、おんし達は薩摩武士じゃろう、女などサッサと片づけんか!」

 と怒鳴るが、

「あの者、どうも手裏剣を使うようでございます」

 と寄って来た、若い男に言われると、

「手裏剣だと?」

 そして早速、鉄砲隊を大声で呼ぶ、そして、

「あの者らを撃て!」

 と叫び、鉄砲を持った連中は、サッと前に何人か並び、鉄砲を構えようとしていたが、しかし、お華は、そんなこと既に気づいていて、既に、

 暗い海辺で、華麗に回って居た。

 海風の中で轟音を立て、その鉄砲隊の男達全ての目に、得意の変化する簪で打ち抜いていく。

 おさよも、風を切り裂く速さで、全て切り裂いて行く。

 一方、浩太郎も小柄を撃ちまくるが、何しろ逃げる人数も多いため、一人、二人と、それらを避けて、船に逃げ込んでいく。

 さすがに品川に、大きな船は横付け出来ない為、小さい連絡船が迎えに来ている。

 結局、全てをお縄にすることは出来ず、薩摩の浪人も既に船に乗って、大声で、

「馬鹿者ども! お前らが我らを捕まえることなど出来るか!」

 と、動き出した船から、お華達に投げつけるが、それでお華に火が点いた。


 お華は艀に立つ。

 それを浩太郎が、

「もう良い! お華。そこからじゃ無理じゃ!」

 と言うのだが、お華の耳には届かない。

 浩太郎の側に寄っているおさよも、

「あそこじゃ……」

 船は沖に向かい進んでいく、ドンドンお華との距離は広がって行く。

 お華は低い声で、

「逃がしてなるものか! 父上! 助けて!」

 と唸る。

 その時には優斎も見ていて、

「お華……」

 と言っているが、お華は両手を広げ、一度舞った。

 そして、その勢いで、初めて下手から簪を投げ打った。

 船の男は嘲笑しながら、

「もう遅いわ」

 と周りの者達と一緒に笑っている。

 

 ただ、その時、おさよがその姿を見て、

「アレはお父上様の!」

 と、叫び、おさよと浩太郎は目を大きく開く。

 そう、二人が遙か昔。

 見た事がある、「桜田段蔵の手裏剣」と、全く同じ撃ち方だったのだ。

 それは、ほのかな光を持って飛んでいく。

 浩太郎も、思わず口に手を当てる。

 優斎も見ていたが、彼は段蔵の手裏剣は知らない。

 だが、何故か、言い様の無い物を見た様な感動に震えていた。

 しかし、簪は低く飛んでいく。

 いつものお華なら、決して届かない距離であるが、それはまるで海を断ち割ると言った勢いで飛んでいく。

 だが、現実は現実である。

 浩太郎は落ちると思い、眉が寄った瞬間だった。

 その時、奇跡が起こった。

 寄せる一つの波が、ホンの少し、簪に力を与えた。

 よく言う「石切」と同じある。

 それで、簪はいきなり方向を上げ、更に勢いを増す。

 これには、浩太郎も、え! と感じた。

 そしてその簪は、いつもの光を放ち、船の上で悪口雑言の男に向かって行った。

 しかし、船の上の男には、それは見えていなかった。

 そして、電撃の如く、その男の鼻に向かって、

勢いよく突き刺ささった。

 暗い中でも分かるようにその男は、鼻から血を吹き出し、悲鳴と共に倒れてしまった。

 それは浩太郎達にもしっかり確認出来た。

 男は、訳が分からず、

「や、ひゃられた~」

 などと、かおをに手をやり、言葉にもならぬ悲鳴を上げている。

 おさよは、すぐにお華に寄っていき、


 しかしお華はそれを見届けると、その場にバッタリ倒れてしまった。

 浩太郎は確信した。あの時、父上の魂が乗り移ったのだと。

 両手で顔に手を当てる


「あれは、お父上様の!」

 と言いながら、倒れたお華に近づいていき、上半身を起こしながら、

「先生!」

 と叫ぶ。

 言われるまでも無く、優斎も走っていた。

 おさよと変わって身体を刺されると、

「あれが、本当にお華の取って置きだったんだね」

 と囁くと、お華も気を取り戻し、目を開け、僅かに笑う。

 おさよが再び、先生! と叫ぶが、優斎は、

「心配要らない余りの事に疲れたのでしょう」

 と諭すように言うと、おさよも見ていただけに、なるほどと頷いた。


 そしてやって来た浩太郎に、

「あなた……大丈夫の様よ」

 と言う言葉に頷き、

「確かに父上が一瞬乗り移った様に見えた……。そして、本当に父上らしい簪だったよ」

 それにはおさよも頷き、二人は微笑む。


 結局、三田の薩摩藩邸は、焼け落ちてしまった。

 藩邸で生き残ったものは、次々お縄になり。連れて行かれる。

 しかし、逃げ去った者も多く、成功したとは言い難い。


 後でお華が、浩太郎に、

「こ、これから始まるよ」

 と言い。

 おさよが、

「ねえ、あの時、父上様に祈ったの?」

 と聞くと、お華は笑顔で、

「あら、そうだったかな~」

 と笑っている。

 そして、お華の思った通り、この事が切っ掛けで京、大坂の間で戦が起こる。

 そう幕府、最後の戦い、「鳥羽伏見の戦」である。



※※※つづく※※※


 今回も、お読み頂き、ありがとうございました。


 江戸でも何か、踊っていたという話があるのだけれど、詳しい事は分かりません。

 ただ、もしそうなら、同じ物ではなく、盛岡の「さんさ踊り」と以前から考えていました。

 何でもかんでも上方下りでも無いと思ったのでね。


 そして、とうとう薩摩屋敷焼き討ちになってしまいました。

 お華は、亡くなった父親の力を借りて、頭目らしき薩摩浪人を撃破します。

 まあ、奉行所同心だった父から、偶然の力を借りて。と言う訳です。

 ただ、この事は本当の江戸の危機を招きます。

 幕末に詳しい方ならご存じでしょうが、ここではあくまで江戸の中の事を描いていますので、これからお華がどうするのか、出来れば期待して頂ければ嬉しいです。


 今回もお読み頂き、誠にありがとうございました。

 次回もよろしくお願い申し上げます。

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