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お華の髪飾りⅡ  作者: 本隠坊
38/65

㊳紅灯は笛に飛ばされ

(1)

 

 坂下門外の変。

 お華は奉行所での聞き取りが終わった後、年寄・瀧山に呼ばれ、大奥へ。

 七つ口でその旨伝えると、割合早く瀧山がやって来て、対面所に連れて行かれた。 そして、話始めようとしたら、その部屋になんと、先の御台所、後に有名となる女が入って来た。

 初めて顔を拝むお華は、すぐに只の人では無いと感じ平伏したが、瀧山が平伏しながら、

「お華。こちらは天璋院様じゃ」

 と言うから、お華は驚愕する。

 前将軍の、先の御台所である。

 しかも、お召しがあった訳でも無く、向こうから現れたものだから、それは驚く。

 慌ててお華も、

「北町同心の妹、お華にございます」

 と、改めて平伏する。

 天璋院はご存じの方も多いだろうが、元薩摩藩主・島津斉彬の養女で、五摂家の近衛家の養子となって将軍家定の御台所となった女性である。

 ただ相手がお華だからか、優しい雰囲気で、

「すまんのう。そなたは瀧山と昵懇と聞いてな、そして今回の事にも関わっていると聞いたものだから、様子を聞きたくてな」

 お華にとっては、思ったより気さくに言われたので、彼女も微笑み、

「失礼ながら、下手人の素性をお気になさいましたか?」

 と言うと、天璋院は感心し、

「ほう。聞いた通り感の良い女じゃな。その通りじゃ。周りは大御台様がお気にかける事では無いと言うのだが、さすがに気になっての」 

 お華は大きく頷き、

「大御台様、ご安心を。あれは既に水戸の浪人のみが仕出かしたと判明しております」 

 と微笑む。

「そ、そうか……」

 天璋院は微笑み、ホッとした顔をしているが、瀧山は、

「また水戸かえ? 一体どうなっておるのじゃ、あそこは」

 と怒った顔をしている。

 すると瀧山は、

「先日、宮様の一件も水戸であろう。何もかも、お前が居てくれて助かる」

 と今度は笑って言うと、天璋院が驚き、

「その話わらわも聞いたが、あれもそなたか!」

そう言われると、さすがにお華も照れ笑いで、

「たまたまにございます」と言うのだが、瀧山は、

「何がたまたまじゃ。宮様にお聞きしているぞ。京でも救って貰ったと」

 それにはさすがに天璋院が驚き、

「誠か? その話」

 瀧山は渋い顔で、

「本当にございます。この時も公武合体反対の連中だったそうで、そちらは長州だったそうで」

「何、長州? 誠かお華」

 と言われ、お華もどうしたもんだかと思ったが、嘘をつく訳にもいかないから、「はい左様にございます。どうも宮様を拐かそうと思っていた様で、私と我が夫で、お守り申し上げました」

 それには天璋院も驚き、

「そうか。そうか。今後とも何かあったら、直ぐに伝えておくれ。頼む」

 その言葉にはお華も恐縮し、

「全て承知致しました。真っ先にお伝え致します」

 と平伏する。


(2)

 

 最後の仕事も終え、お華は屋敷への帰途についていた。

 些か気分の良い事件では無かったが、お陰で大奥で天璋院に会う事が出来、

「ま、いいか~」

 などと思いながら、歩いていた。

 そして屋敷に近くなり、その治療所の前辺りで話している二人の女が見えた。

 一人はおかよと直ぐ確認できたから、患者の関係かと、黙って通り過ぎようと思っていたら、おかよの方がお華に気づき、急に走り寄って来た。

 少し驚いたお華だが、おかよは、

「おかえりなさいお華さん。ち、ちょっとこちらへ」

 と言うものだから、もう一人の女の前に行く。

 するとおかよは、

「ほら、お華さんよ」

 と言うと、その女は最高の笑顔で、

「お久しぶりです。お華さん」

 と深く頭を下げるのだが、お華は覚えが無い。

 すると、お華の動揺を見たおかよが、

「お華さん。忘れてしまいましたか? 昔、お華さんが吉原の屋根から助けた禿ですよ!」

 と言うので、お華の眉が一瞬寄るが、パッと笑顔に変わった。

「え? ああ! あん時の。あの禿ちゃん?」〔①お華、再び〕

 女も、嬉しそうに頭を下げ、

「はい! そうでありんす。あん時は命を助けて下さってありがたい事でありんした!」

 と勢いよく礼を言われ、お華もさすがに今日の事はどこかに飛んでいき、

「おお!」と満面の笑顔だ。

 しかし、お華はあることに気づいた。

「あれ? あなた、なんでここに居るの?」

 と当然聞く。

 あの時の禿であれば、今も吉原に居て当然だからだ。

 すると、

「はい。わっちは今年、二十七になりんして……」

 その言葉には、お華でもすぐ理解出来た。

 吉原は、十年勤務もしくは二十七歳で、年季明けとなるからだ。

「そう! それはおめでとうございます」

 と頭を下げて祝ったが、左右を見て、ふと気づき、

「おめでたいけどさ、こんな話、道の真ん中でするもんじゃないわよ。ちょっと、こっちに来なさい」

 と笑って言いながら、二人を屋敷に導いた。

 彼女は、治療所の隣が大きな屋敷だとは気付いていたが、まさかお華に入りなさいと言われ驚いて、小声で、

「姉さん、ここってお華さんのお屋敷なの?」

 と聞く。

 おかよは、そりゃそうだろうとは思いながら、

「そうよ。ここはお華さんのお屋敷。遠慮しなくていいわよ」

 などと言われ、彼女はお華の後ろ姿を眺めながら、信じられない思いだった。

 大門もあって、一見、武家屋敷である。

 吉原から出てきたばかりの彼女が驚くのも当然である。


 縁側の座敷に三人座ると、向こうに居たおゆきに、

「おゆきちゃん。悪いけどお茶三つ、お願い出来る?」

 とお華が頼むと、おゆきは「は~い」と、笑顔で台所に駆けて行く。

 するとお華は、

「あれはどれ位前かしら、屋根上の話」

 それには、おかよが、

「あれは天保の頃、十七年前ぐらいでしょうか」

「十七年! もうそんなに立つか~」

 あっという間の時の流れに、お華は目を丸くする。

 おかよは、

「この子は、私が地震の時吉原を出た後に出世して、呼び出しになりました。二代目花風として。まあそれも今日で終わりましたけど」

 するとお華は、 

「あんた、本名は?」

 と聞く。

「はい。今日から、おふみ、花風改め、秋でございんす」

 お華はおゆきが運んで来たお茶を飲みながら、

「お秋ちゃんか。でもさ、あんた姉さん継いで呼び出しになったんでしょ。だったら身請けもあったんじゃないの?」

すると秋は、

「はい、多少お話はありんしたけど、一つ残さず断りんした」

 それにはお華も驚き、

「全部?」

 はいと頷いた。

 それにはお華も笑いながら、

「あの頃も強気な子だとは思ったけど、未だにそうなんだ~。まあ確かに、身請けされたからって籠の鳥は変わんないからね~」

 とおかよも一緒に笑う。

 するとお華は、

「じゃあ、とりあえずおかよちゃんのところ行って、次の事考えようとか思ってたの」

 さすがに、お秋も自分の気楽さが恥ずかしくなったのか、静かに頷いている。

 しかしお華は、少し厳しく、

「お秋ちゃん。気が強いのは良いけど、何も考えて無いんじゃ、ただの無謀ってもんよ。今後気を付けなさい」

 と、軽く叱りつけたものの、お華は笑い出し、

「おかよちゃんは、ここに住んでるのよ。あんたどうする?」

 それには、お秋も驚き、

「こ、ここでありんすか?」

 と、さすがに動揺している様だ。

 しかしお華は相変わらず笑顔で、

「ま、いいや。じゃ暫くここに住みなさい。住む事、食べる事は全部タダ。とりあえず家の手伝いでもやってくれれば良いわ。あたしのとっても知らない仲じゃないし。それで次の事を考えなさい」

 それには、お秋も平伏して、

「ありがとう、ござりんす」

 と嬉しそうに頭を下げる。

 すると、おかよが、

「そうなると、お華さん。直さないといけないですね」

 と厳しい顔で言うから、お華も同意だった様で、

「お秋ちゃん。なんでこんなに広い屋敷に住んでいるのかは、後でおかよちゃんから聞きなさい。そしてここは普段、柳橋の若い芸者の三味や踊りの稽古場として使っているの。あんたもこの屋敷の中でなら今のままでも良い。でもね。これからあんたが何かを目指して、この屋敷から出て行くなら変えなきゃいけない事があるの」

 お秋は不思議そうな顔で、

「変える?」

「そう。あんたはもう里の女じゃない。おかよちゃんと話をしたら分かったでしょ。言葉を換えなきゃ行けないの。で、秋ちゃんはどこの出身なの?」

 まさにおかよは、自分の時も同じ話をされたので、少し微笑みながら彼女が、

「この子は、津軽出身なんですよ」

 と言ってやる。

 それには、お華が驚き、

「津軽~? よりにもよって津軽か~」

 と叫ぶ。

 お秋は、何が何だか訳が分からずキョロキョロしている。

 するとお華が、

「おとっつあん、おっかさんは? 津軽に居るの?」

 それにも変わって、おかよが、

「前に、あっちの方で飢饉があったでしょ?」

 お華もさすがによく知っている。

「ああ、天保の時の」

「そうです。だからこの子はその時あそこに連れてこられたんです。でも、結局二人とも亡くなってしまった様で……」

「ありゃ~」

 とお華は悲しそうな顔で叫び、

「じゃ、一人か……」

 三人とも少し言葉を失う。

 が、お華は笑顔に変わり、

「ここは、おかよちゃんもそうだけど、そこの」

 と、少々離れて座っているおゆきに顔を向け、

「おゆきも同じだから。その辺のところは気にしなくてもいいわ。それより今よ。だけどね……」

 と、お華は、おかよに、

「津軽じゃ、別の意味で駄目だよね、おかよちゃん」

「そうです。私の新潟弁よりも、何言ってるのか分かりません」

 と大笑いだ。

 お華は頷き、

「仕方無い。お秋ちゃんには大変だろうと思うけど、まず言葉を直しましょう。人でなしの()(げん)に江戸まで連れてこられ、終わったらなお、江戸の言葉で、と言われてしまうのはちょっと可哀想だと思うけど、生きて行く以上。これは仕方無い事なの」

 お秋も、頷く。

「まあ、暫くここで暮らしながらゆっくり変えなさい。慌てる事は無いからね」


(3)


「さて、これからどうするかだけどさ」

 とお華は笑いながら、

「本当に何も考えて無かったの?」

 聞かれたお秋は、

「わっちは何でも構いんせん」

 と言うのだが、さすがにお江戸とは言っても、現代の様に色々と道があるわけでは無い。

「仕方無いわね、とりあえずおかよちゃんと同じ様に、インチキ芸者しか無いか」

 おゆきが笑っている。

 すると、おかよは、パッと顔が明るくなった。

 突然、

「そう言えばお華さん! この子。笛が上手なんですよ!」

 と言うから、お華は予想外の言葉に驚いた。

 吉原だから、三味線ぐらいは出来るだろうと思ったから言ったのだか、笛とは全く思いがけない事を言われてしまったからだ。

「笛? 三味じゃなくて?」

 それには、

「もちろん、あそこに居ましたから、三味で清掻なんかは出来ると思いますけど、この子はそれとは別に、笛が上手なんですよ。私もあそこに居た頃は、空いた時には聞かせて貰ったものです」

「へ~、そりゃ驚いた。お秋ちゃん。どんなの出来るの?」

 と聞かれ、お秋は嬉しそうに後ろに老いてある袋を弄りながら、

「ここなら、少々音が大きくても大丈夫でありんすね?」

 それにはお華が笑って、

「いっつも三味の稽古をやってるんだもん。全く構う事ないわよ」

「良かった」

 と言いながら、笛が入った包みを取り出した。

 そして、その中から一本の笛を取り出した。

 それは見た目、年季の入った笛だった。

 いや、お華はそんな事分からないから、普段考えていた物よりも如何にも重厚な物だから、行ってみれば、それだけで僅かな重圧を感じてしまった様だ。

 すると、用意の出来たお秋が、一言。

「では、()(てん)(らく)を」

 と言って、早速吹き出した。

 この音色には、おかよはともかくお華と側で座っていたおゆきは目を丸くし、驚いている。

(す、すごい……)

 それ以外言葉が無い。

 芸者の長いお華だが、この曲を聴く事は、これまで一度も無かった。

 だから尚更驚いたのだろう。それにこんな芸を持っているなど思いも寄らなかった。

 しかし、既に知っていたおかよは、久しぶりの音に喜んでいる。

 お華はふと横を見ると、おゆきの隣にお吉がいつの間にか座っていたのに驚いた、

 そして、反対を振り向くと、なんとノブと優斎が、いつの間にか揃って立って聞いていたのには、さらに驚いた。

 お秋はいつの間にか、客をも呼んでいたのだ。

 そして、やがて最後笛を吹き上げ、終わると一斉に拍手となった。

 彼女は、自身、意外な反応に驚き、和やかに顔を伏せている。

 すると、優斎が嬉しそうに、

「これって、越天楽ですよね」

 ノブに聞く。ノブはノブでこちらも笑顔で、

「そうです。いや、驚きましたよ。ここで越天楽を聞けるなんて……」

 とか言っているから、お華は優斎に、

「先生も知ってたの、この曲」

 それには優斎が笑い、

「お華さん知らなかったんですか? そんな事じゃ内親王様に怒られますよ」

「ええ!」

 お華は肩をすくめてしまう。

 そしてそれに被せるように、お吉が少々厳しい声で、

「お華ちゃん。お華ちゃんが知らないなんて、柳橋の一流芸者のくせに何て事なの!」

 とまで言われてしまう。

 すると、優斎が微笑み、

「この曲は、そりゃ古い曲です。何しろ平安の初期と言われる曲ですから……」

 さすがにその言葉には、

「へ、平安初期? ってどれ位前なの?」

 お華は動揺しながら聞くと、優斎は、

「そうですね、遣唐使の時代辺りですから、千年ぐらいは前かと」

「せ、千年?!」これにはお華も絶句してしまう。

 そして優斎は、

「朝廷の雅楽の一曲です。伊達家では政宗様の頃から、こういった京風情のものがお好きだったようで、昔、今の殿様のご相伴で、私も一度聞いた事があるのですよ」

 ノブも頷いて、

「私も旅をしてる時に、ある寺で一度、お聞きした事があるのです。その時は笛の独奏ではなく、座を組んだものでしたけど、いや、まさかここで、この江戸の屋敷でこの曲を聞けるとは思いませんでした」

 と嬉しそうに言う。

 するとお華は、当然の事ながらお秋に、

「なんで津軽のあんたが、この曲知ってるの?」

 と聞くと、するとお秋は何故か、

「小さぇ頃、津軽のえの近ぐに、京がらやってぎだどいう笛の先生に教わったんだ。ただ、その先生は亡くなってまりますた。この笛は先生の遺品だ」

 吉原の言葉は駄目だと言われ、津軽弁で話した様だが、江戸の人間には、まるで別の国の人と話をしているようで、お華は、

「やっぱり津軽弁はだめだ」と両手を挙げる。

 すると、おかよが微笑み、

「昔、実家の近くに京からやって来た笛の先生に教わったそうです。ただ、その先生は今は亡くなってしまい。この笛は、その遺品だそうです」

 と通訳するものだから、お華と優斎は驚き、お華は、

「あんた! この子が言ってる事がわかるのかい?」

 おかよが笑って、

「だって、廓言葉をこの子に教えたのは私ですもの。ですから多少は」

 お華は「ああそうか」と笑顔で頷き、

「なるほどね。じゃ、おかよさん悪いけど、今度は江戸弁を教えてやってくれない。い? これも縁だと思ってさ」

 それには、おかよとお秋は満面笑顔だ。

 おかよは、

「お任せ下さい」と頭を軽く下げる。

 そしてお華は、お吉に、

「ねえ、おかあさん。この子、柳橋のお座敷に笛で上がって貰っても大丈夫かしらね?」

 それには、お吉も、

「これだけ上手いんだもん問題無いわよ。おゆきの踊りも上手く見えるだろうし、三味も、笛と合奏なら一段高く見えるだろうだからね」

 お華は優斎とノブに顔を向けると、優斎は笑顔で頷き、ノブも、

「本当に何も問題ありませんよ。一人でも充分金が取れます」

 と言うものだから、お華はお秋に、

「良かったじゃない。他に仕事なんぞ見つける必要は無いわ。あなたの笛でやっていくのよ。ここに居れば、とりあえず暮らして行ける。そしてその内、評判になれば女一人ぐらい充分暮らせる金は稼げるわよ。それでどう?」

 それは、お秋にとっても嬉しい申し出だ。断る理由が無い。

 涙を浮かべ、お秋は、

「これは、これは誠にありがとうございんす」

 それにはお華も笑って、

「泣いてる場合じゃないよ。これから本当の勝負が始まるのだから。しかし、言葉混ぜられると、いよいよ何が何だか分からないね~」

 と大笑いだ。

 そしてお華は、

「じゃ、今夜はお秋の歓迎会よ。ノブさん。三味持って来てくんない? 合奏も聴いてみたいからさ」

「承知しました」

 とノブは長屋に帰って行く。

「じゃ、おかよちゃん。この子に寝るところとか、色々教えてあげてくれる」

「はい」

 とおかよは微笑み、おかよを連れて立ちあがった。


(4)


 さて夕刻。

 これから歓迎会を始めようとした時だった。

 向こうの方から、聞き覚えのある声で、

「お華さ~ん! お華さ~ん!」

 と聞こえた。

 そのお華の耳にも届き、お華は「もう!」と言いながら、そちらの方を見ると、なんと、おさよも一緒だった。

 なんと新之助が、七重を抱いて、お春も一緒に付いて来ている

 お吉が「ななちゃん!」と喜んで声を上げると七重も気付き、新之助から屋敷に降りると、もの凄い速さで這って行きお吉に甘える。

 それを微笑ましく見守りながら、上がって優斎の隣に座る祐三郎には、

「何しに来たの、さぶちゃん」

 と冷たい言葉。

 しかし祐三郎は、如何にも慌てた様子で、

「あの、お華さん。江戸城の事件ご存じなんでしょ。御報告しなきゃいけないから、是非教えて下さい」

 とお華の想像通りの言葉を言うものだから、お華は、

「今、忙しいの。それは、後、後」

 などと取り合ってくれない。

 すると優斎が、祐三郎に、

「三郎。事件ってなんだ?」

 と聞くと、祐三郎は、

「いえね兄上、どうも朝方、お城前で大変な斬り合いが起こったそうなんですよ。私は留守居様に調べるように言われ、北町に行ったら、浩太郎さんは忙しそうで、するとお華さんも一緒だったって信吉さんが言うから、八丁堀に帰ったら奥様も行くと仰るので」

「ふ~ん」

 と優斎は生返事だが、当のお華が後でと言うならそういう事だろうと思い、

「まあ、慌てる事はないよ」

「は~」

 と裕三郞は不満そうだが、おかよが居るのに気づいて、

「これは、おかよさん!」

 と嬉しそうに頭を下げる。

 優斎は呆れ、心の中で(馬鹿者……)と笑ってしまう。

 お華は隣のおかよに小声で、

「あんたさ。さぶちゃんは、あんたが里に居たっての知ってるの?」

 と聞くと、なんとおかよは、

「ええ」と頷き、

「ご存じですよ」と笑いながら言うので、お華は驚きながらも、

「そ、そう。まあ、それならいろいろ話し易いけど……」

 と笑ってしまう。

 さて、おさよが上座に座り、新之助・お春が両側にちょこんと座り、宴が始まった。

 そしてお華が、

「姉上、どうしたの今日は。子供連れで」

 と聞くと、

「今夜は戻りが遅いって、三郎さんから聞いてね、すると三郎さんが慌てた様子で、奥様! 今日の件はご存じですか? とか訪ねるからさ、んじゃお華のところに行きましょ。ってなったのよ」

 お華は鋭い目で、

「さぶちゃん。やはりそなたのせいか!」

 と祐三郎を睨み付けながら、顔が変わり、

「でもね。今夜はそれよりも良い事があるよ。新之助やお春も聞いてなさい」

 というものだから、

「聞いてなさい?」

 おさよは不思議な顔だ。

 そこでお華が、

「あ、姉上、この子」

 とお秋を指し示し、

「この子が、今日から一緒に住むことになったの。この子は、おかよちゃんの後輩の子。よろしくね」

 同時にお秋に、

「この人は、私の義理の姉。あなたも覚えてるでしょ私の兄の嫁さんよ」

 頷いたお秋は、「ああ!」と頷き、

「お秋にございます。どうぞよろしゅうに」

 と、頭を下げ挨拶すると、おさよも同じく軽く頭を下げるが、おかよの後輩と言うものだから、なるほどと微笑む。


 するとお華は、

「じゃ、二人とも良いね。お願いしますね」

 と言うと、ノブが頷き、

「では、こちらから……」

 とお秋に頷くと、相変わらず、まず一音鳴らし曲に入った。

 なんと、それは「六段」だった。


 越天楽を聞いた者は静かに微笑んでいるが、おさよ達は笛と三味線の合葬に驚いている。しかも六段だ。

 六段は基本琴曲。

 ノブだから出来る事ではあるが、今回は龍笛が付く。

 これにはおさよや、祐三郎も思わず感嘆の唸りを漏らす。

 子供達、特にお春は目が点になっている。

 もっとも七重は、ただお吉にしがみ付いて甘えているだけ。

 お華とお吉は大きく頷く。

 それが終わるとお華はお秋に、

「ねえ、金比羅は出来る?」

 と聞く。ちょっとした試験の様だ。

 彼女は大きく頷き、

「はい。よくあっちのお座敷で聞いてましたから」

 と、笛を篠笛に変え、少し音を確かめると、ノブと息を合わせ始まった。

 お華は、途端に良し良しとこれも頷く。

 この曲は明るい曲だ。

 笛と三味の音が居間を包むと、何故か七重も喜んで、お吉の胸を軽く叩いている。

 お吉もそんな七重に微笑みながらも、彼女も安心したようだ。

 そして、ノブは最後の曲と弾き始めた。

 その曲が始まると、今度は優斎と祐三郎が大きく目を見開いた。

「こ、これは……」

 と優斎が言うと、祐三郎も頷く。

 そう、「さんさ時雨」だった。

 優斎は思わず「懐かしい」と小さく言ってしまう。

 そうこれは仙台の民謡だ。

 優斎は、こんな曲も出来る事に驚愕している。


 これで一通り、曲が終わると、みな大拍手である。

 お華はお吉に、

「これなら、どこ出しても安心だね?」

 と言うと、お吉も頷き、ノブも、

「ご安心を。ここまで出来れば大丈夫です」

 と言い切る。

 するとお華は、

「じゃ、あとは言葉だけだね」

 と言われると、お秋も恥ずかしそうに頷く。

 するとノブが、

「この人は、元々津軽の人です。あなた。もしかしたら、じょんからも出来るんじゃ?」

 それにはお華が、

「じょんから?」

 とか言うものだから、お吉が、

「全くあんたは! 柳橋の芸者がそんな事言っててどうするの!」

 とまた、いきなり怒られてしまう。

 さすがにこれにはお華も平身低頭で、

「ごめん。どういう事?」

 と聞いてしまう羽目になる。

 するとノブは、

「津軽の代表的な民謡です。さんさ時雨が出来るくらいなら当然出来る筈ですから」

 と言うと、おかよが、お秋の耳打ちを受け、

「あの、この津軽じょんがらは、津軽三味線が必要なんです。ですが、江戸ではそれを使う人がなかなか居ない様です」

 お華はお吉に、

「ほら、江戸ではいないんだってよ。知らなくても仕方が無いよ」

 と言うのだが、お吉は厳しく、

「私が、なんで芝居小屋に行ってるかわかる? あそこでは芝居に寄って下座が、龍笛や太竿の三味も弾くから、芸者には勉強になるのよ。知ってれば、じょんからも知らずに覚えるの!」

 と、怒られてしまう。

 さすがにお華は、お吉には言い返せないから、頭を掻いて謝るしかない。

 その姿は、祐三郎と新之助を大喜びさせてしまう。


 するとノブは、

「じゃ、ほんのさわりだけ、やってみましょうか」

 と言うので、お秋は大喜びで、

「ああ、嬉しい」

 と泣きそうだ。

 そして、これには一音も無く(ジャカジャン)と始まる。

 それには、更にみんな驚いている。特にお華は、

 (こんな激しい曲があったんだ……)という様な思いに包まれた。

 しかし、触りだけだった。

 本当に少しだけの演奏だった。

 ノブは、皆に頭を下げる。

「どうしたの」

 とお華が聞くと、ノブは些か笑って、

「駄目です。この三味では弾けません……」

 などと珍しい事言うからお華は驚いたが、お吉が、

「やっぱり、細棹じゃ無理よね」

 とも言うから、お華は再び驚いて、

「な、何、どういうこと?」

 と聞く。

 するとノブが、

「この曲は、太棹と、太い弦でないと駄目なのです。無理してこれを弾き続けると、この細三味が壊れてしまうのです」

 お秋は、うんうんと頷いているが、お華は分からない。

 するとお吉が、

「もうあんたは!」

 と、とうとう怒り出す。

「あんたは、太棹と細棹の違いもわからないの? あんたはみんな勘だけでやってるから、そういう事になると全く駄目」

 それにはおさよも笑い出し、

「この子は手裏剣でもそう。みんな勘だけでやっちゃうから。無くなったお父上も頭抱えてたわ」

 などと言われてしまう。

 優斎も、含み笑いだ。

 するとノブが、

「津軽じょんがらの様な曲は、弾くというよりは叩くというやり方なのです。ですから、三味も丈夫でないと駄目なんですよ」

 お華は「ほう」と言って、大きく頷く。

「じゃ、太棹の三味。私が買ってあげるよ!」

 と声を上げるから、みんな驚き、おさよが、

「お華ちゃん。太っ腹ね~」

 と笑ってしまう。

 すると、お秋がおかよに耳打ちする。

「どうもね、お華さん。この子が言うには、お江戸には使う人も居ないから、無いかも知れないって言ってますよ」

 しかし、それには優斎が、

「それだったら、平吉さんに聞いてみたらどうかな。すみやには津軽藩の方もよくいらっしゃるって言ってたから」

 お華は頷き、

「そうね。明日聞いて見るわ」

 と、三味線の事は、お華の気前の良い一言で話は付いた。

 すると、お華は思い出した様に、

「お秋ちゃん。これから言葉が大変だって言ったけど、剣は全く、いや大いに下手だけど、この子凄いのよ! 何と通弁なのよ、アメリカ言葉の」

 と祐三郎を指差して言い出すが、お秋には言っている意味が良く分からない。

 さすがに祐三郎は嫌な顔で、

「人の紹介するのに、なんで剣が下手からなのかな~。姉さん? それは貶してるの褒めてるの?」

 と抗議するが、お華は片頬を上げてニヤリとし、

「両方に決まってるでしょ」

 これには優斎も口を押さえて下向いて笑っている。

 するとお華は、

「あんた、英語で話してやんな。津軽の言葉と英語がどう違うか」

 その言葉に、祐三郎は少し考えていたが、直ぐ頷き、

「それでは、この歌を歌ってみましょう」

「歌? あんた歌なんか歌えるの?」

 当然、お華は驚く、他の皆も目を丸くしている。

 すると、頷いた祐三郎は、自分で調子を取ってなんと歌い始めたのだ。

♪「Yankee Doodle went to town、

 a-riding on a pony、

  Stuck a feather in his cap

 and called it macaroni」♪

  (ヤンキードゥードゥルは

  ポニーに乗って街に行った。

  帽子に羽根を刺して

  「マカロニ」を気取っている)


 祐三郎が訳も言うと、これには皆驚いた。

 お華は微笑み、

「あんた何時から、歌まで歌える様になったのよ?」

 祐三郎も少し笑って、

「少し位なら私だって歌えますよ。先日、横浜のお華さんも知ってる女将さんのところへ行った時に教えて貰ったんです」

「へ~」

 これは、ヤンキードゥードゥル。

 独立戦争の頃から歌われていた曲だが、この頃の南北戦争でも歌われていたアメリカ愛国歌である。

 日本では「アルプス一万尺」の替え歌でご存じの方が多いだろう。

 しかし、時代は文久だ。

 大人は勿論、子供達も聞いた事も無い言葉と歌が聴けて、突然の事に大いに喜んでいる。

 お華は大きく頷き、

「お秋ちゃん。驚いたでしょう? これが英語っていうのよ。もうこういう人も居るのよ。これに比べれば江戸の言葉なんて楽なもんだと思わない?」

 お秋も大きく笑顔で頷く。

 初めて聞いた英語。

 そして歌自体の珍しさに彼女自身も喜び、そして意味に気づいた様だ。


(5)


 しかし、祐三郎は少々不満顔で、

「お華さん、三味線や歌の話はともかく、今日の話を教えて下さいよ~」

 などと言い出すから、おさよや新之助、そしてお春まで笑い出し、

「そうよ。そもそも、それを聞きに来たんだから」

 お華は仕方無いなと言う顔で、

「だから、言ったでしょう。伊達様には何も無いって」

「そうですか!」

 と安心顔の祐三郎だが、

 お華はおさよに、

「また、桜田門だったわよ」

 などとと言うから、おさよと優斎が驚き、優斎が、

「え、また同じ事が起きたのか?」

 しかしお華は、首を振り。

「襲われたのは襲われたんだけど、相手は総勢六人。こっちは五十人よ。さすがにと思ったんだけどさ……」

「思った?」

「うん。丁度、あの坂下門手前でだよ? 駕籠訴を装って銃が一発。そして駕籠に刀が突き刺さったわよ」

「ええ!」

 と、おさよ達は驚く。

「でもね。玉は外れて、それから……」

 などと変な顔でお華が言うから、おさよが、

「それから何よ」

 お華はまた呆れた顔で、

「お殿様が、刀を刺された駕籠から飛び出して、悲鳴を上げながら坂下門に逃げちゃったのよ。一人でよ~」

 それにはさすがに優斎が、

「一人で? 家臣放っといてか?」

 お華は頷きながら笑い、

「そう。みんな戦ってるのに、勝手にサッサと逃げちゃうから、私と兄上はビックリ仰天よ」

 これには、みんなも言葉を無くす。

 そしてお華は、

「そしてさ、終わった後お奉行様に御報告してたら、大奥から呼び出されてね」

「大奥?」

 とおさよがまた声を上げる。

 しかしここまで来ると、お秋などは、一体どういう話をしているのか理解出来ず、

おかよに聞くのだが、おかよも手を振りながら笑って、

「無理無理。私にだってわかんないもん」

 と言っているから、横のノブも思わず笑ってしまう。

 お華は、そんなことは気にせず、

「大奥に登ったらね。お年寄の滝山様と、なんと大御台様ともお会いしたのよ」

 それには、さすがに優斎が驚いて、

「大御台って、あの?」

「そう。天璋院篤姫様よ」

「なんで、そんなお方まで」

 とおさよも驚く。

 そんなおさよにお華は頷いて、

「どうもね。襲撃した者の中に、薩摩の者が混じってないかお気になさったみたいよ」

 それには、おさよと優斎も「なるほど」と大きく頷く。

 前回、桜田門の変においては、薩摩の侍(有村雄助)が一人加わっていたからだ。

「まあ、薩摩の者はいなかった様だから安心なさったと思うけど、かなり驚かれたみたいよ」

 と言った時、また外から「お華様~」と声が響いた。

 信吉だった。

 居間の方に走り寄ってきた信吉に、

「ああ、ご苦労様ね。とりあえずお座りなさい。あ、おゆきちゃん。兄ちゃんにお茶を持って来てあげて」

 と言うと、おゆきは「はい」と笑顔で用意を始める。

 信吉はおさよの顔を見て、

「ああ、奥様。こちらでしたか」

 と頭を下げると、おさよも微笑んで、

「悪いわね。ご苦労様」

 と声をかけ、微笑む。

 すると信吉は、

「旦那様は、これから下手人を捕まえに行くとの事で、まだまだお帰りにはならないと思います」

 と頭を下げると、おさよは、

「いいわ。今日はこっちに泊まるから」

 と、言うとお華が、

「それじゃ、もう下手人の身元が分かったの?」

 伸吉は、おゆきが持って来た茶を「ありがとう」と言いながら啜ると、一枚の紙を取り出し、

「これをお渡しする様にと、旦那様から預かりました」

 と、出された紙を、お華は「ありがとう」と受け取るが、サッと眺めて何やら笑顔である。

 優斎が不審に思って、

「どうしたんだ」

 と言うと、お華はそれを読み上げ始める。

 すると、

「首謀者は下野の儒者、大橋訥(とつ )(あん)

 と読み上げ、次に、

「水戸浪士数名。それと、下野医師、河野某(なにがし)、越後の医師、河本某(なにがし)だってさ」

 それには優斎も驚き、

「何? 医者だと?」

 お華は呆れた顔で、

「これ、兄上が書いたんでしょ。絶対、笑って書いてたと思うよ」

 などと言うから、信吉も笑顔だが、優斎は頭を抱え、

「何故医者が……」

 するとお華は、

「先生も気を付けてね」

 などと言うものだから、優斎は少し怒った顔で、

「私も加わるというのか?」

 と言ったが、お華は更に笑顔で、

「先生は剣も強いんだから、誘われても不思議じゃないでしょ。断るにしても、すぐ信ちゃんに伝えて兄上に知らせてね」

 優斎は悲しい顔で、再び頭を抱える。

 するとお華は、横で笑っている祐三郎に、

「ほら、やっぱり!」と言って、

「さぶちゃん。東禅寺の事件、覚えてるでしょ」

 急に自分に振られ、戸惑ってる祐三郎だが、

「東善寺? ああ、イギリス公使の。勿論覚えてますよ」

 するとお華は、

「あんとき、二人逃げたのが居たって言ったでしょ。その二人が今回の事件に関わってたわよ。もっとも、死んじゃったけどね」

 それには祐三郎も、

「あれが、これにも掛かってくるんですか~」

 と驚いているが、お華は、

「だから分かったでしょ。あんた以外に、伊達様には関わりが無い事」

「はい。だから報告も明日で良いと」

「そうね」

 と言うと、突然お吉が静かに声を上げ、

「あ~ら、ななちゃん。眠くなっちゃった?」

 お吉に抱かれていた七重が、寝てしまったので、お華が小さな声で、

「おかあさん。あっちで寝かせてあげて。いいわよね姉上」

 もちろん、おさよも笑顔で頷き、

「よろしくお願いします」

 の言葉を背に、お吉は七重を抱きながら部屋に戻っていった。

 

 それを見送るとお華は、祐三郎に、

「今、慌てて上に言ったって無駄よ。見舞いの使者だって、ちょっと待って頂いた方が良いわ」

 それには祐三郎も意外な言葉に、

「老中様に、お見舞いもですか? 何故です?」

 お華は一口、酒を煽り、

「ご老中様は、あの時。少なくてもあの時点では、いわゆる一軍の将。その大将である老中様が、背中切られたからと言って、兵をほっといて逃げるなんて、絶対に目付、下手すると大目付様に文句を言われる。何と情けないとか言われてね」

 それには優斎も頷き、祐三郎もなるほどと頷く、そして、

「じゃ、どうすれば……」

 お華は、頷いて、

「留守居様にね、御親戚や御同席組合の方々と相談して、その上で、一緒に見舞うとかした方が良いよ。良い機会だとか言って喜んで一番に先に行くと、上から四の五の言われかねないからね」

 組合というのは、江戸城において、伊達は大広間が殿席(控えの間)なので、同じ四位である他家の大名。そして親類関係の大名。最後に、江戸屋敷の近所に住む大名留守居同志の組合の事である。

 そこまで言われると、彼もよく理解出来た様だ。

 しかし向こうで聞いていた新之助は、真剣な、そして不思議そうな顔で、

母、おさよに、

「おばさんは何者です?」

 などと言うから、おさよは大笑いして、

「姉小路様のお弟子よ」

 と再び面白そうに笑う。


 結局、この事件は襲撃者、首謀者は服毒。他は切腹。そして闘死で終わる。

 老中・安藤対馬守は軽傷で済んだのだが、お華の言う通り、目付や幕閣から、

「背中に傷を受けるとは、武士の風上にも置けぬ」

 などと、理不尽とも言える非難を受け、四月十一日には老中を罷免され、後に隠居・謹慎を命じられ、二万石の減封となってしまう。

 さて、優斎は酒を呑みながら、

「しかし、人の命を救う医者が、人を暗殺しようとするなど世も末じゃ」

 と、苦しげに言葉を吐き出す。

 お華も、

「本当ね。一体、何がしたいんだか」

 同時におさよも頷く。

 しかし、話が込み入り過ぎて、相変わらず、お秋は何が何だかわからない。

 おかよが、

「ここはそういう所なのよ。あなたもその内分かる様になるから……」

 と、慰めるとノブが笑い、お華も、

「ごめんね。折角、あんたの御披露をしてたのに。こりゃ全部、さぶちゃんのせい!」

 まどと言うから、みんなに笑って見られている祐三郎が額に皺を寄せ、

「ええ? 私ですか?」

 と、泣きそうな顔になってしまう。



 ※※※~つづく~ ※※※



 今回もお読み頂きありがとうございます。

 基本的には、前回「坂下門」の続きです。

 ですが、新しい娘が登場しました。

 笛の名手。

 津軽の娘なのに、雅楽の笛独奏までするものだから、そりゃ驚くでしょう。

 我が国は、鎖国で他国の文化もあまり伝わっていなかったのに、開国後すぐに欧米のオケに慣れてしまい、維新後すぐに作曲家、瀧廉太郎や山田耕筰などを次々生み出せたのも、そう言った素養が我が国にあったからなのでしょう。


 さて、とは言っても時代は幕末。

 今度は老中が襲われてしまいましたが、さすがにここまでくると、屋台骨はガクガク。とっくに家康はあの世で見放していたでしょう。

 ただ、今回の襲撃は、如実に陽明学の思想に駆られたのでは無いかと思います。 つまり「知行合一」、とにかく行動を! といったそのままのテロ行為でした。 ただ桜田門の変の時の方が、計画性、実戦方法も現実的でした。

 ですから結果はその通り、計画者並びに実践者共、簡単に全滅してしまいました。

 老中安藤信正は、あまりにもパニックになったのか、真っ先に逃げ出すという、武家社会ではあり得ない失態を犯してしまい。それが後の処分にも繋がるのですが、 彼は、その後も背中に包帯をグルグル巻きで、アメリカ公使との会談に臨み、ハリスが驚愕したというエピソードもあり、あの時は、一時の迷いだったのかなとも感じます。


 さて、新しい(?)娘も出てきましたが、ご存じの通り、状況は時代も終焉の交響曲を響かせはじめています。

 アルプス一万尺は前にも出したかも知れませんが、今度は歌って貰いました。

 最近彼は、まるでオルゴールの様になってしまっています(笑)

 

 では、今後とも、よろしくお願い申し上げます。

 ありがとうございました。

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