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お華の髪飾りⅡ  作者: 本隠坊
29/65

㉙自鳴琴の調べ

(1)

 

 その朝、お華がおゆき達と朝食を取っていると、信吉がバタバタと庭を走り込んできた。そして、

「お華様!」

 と、慌てた様子で叫ぶ。

「ふにゃ?」

 という返事で、慌てて口の物を飲み込んだお華は、

「なんだ、信ちゃんじゃない。どうしたの?」

 と箸を持ったまま答えると、信吉は縁側にボンと両手をかけながら、

「お華さま。奥様が大変で! ちょっと来てくれませんか」

 と、かなり真剣な顔して言うから、お華も眉を寄せ、

「姉上が? いったいどうしたの?」

 信吉は、悲しそうな顔で、

「良くはわからないのですが、旦那様が呼んできてくれ。と仰るもので……」

 そう言われるとお華も、心配になり、

「分かった。すぐ行く」

 と言うと、おゆきが、

「私が片づけておきますから、急いで」

 言ってくれたので、ありがとうの言葉を残し、早速、信吉と走り出した。

 

 途中、お華は信吉に、

「姉上、一体どうしたって言うのよ!」

 と聞くと、

「なんだが、急に、お苦しみ出した様で」

 その言葉には、お華は立ち止まり、

「そんなんじゃ、優斎先生も呼ばなきゃ駄目じゃない。私は先に行くから、信ちゃん! 悪いけど先生も呼んできて!」

 と、厳しい声で言い付けるから、信吉も即座に、

「は、はい分かりました!」

 慌てて引き返して行った。

 それを見送り、お華は再び、八丁堀へと急ぐ。

 そして、お華は玄関に回らず、そのまま庭から入って行くと、確かにおさよが布団の上で、横になっていた。

 枕元には浩太郎が、座っていたのだが、お華の顔を見ると、些か様子がおかしい。

「ど、どうしたの姉上!」

 と些か慌て気味にお華は言う。

 おさよはともかく、浩太郎は黙ったままだ。

 お華は首を傾げ、浩太郎に近づいて行くと、浩太郎は少し恥ずかしげに、

「お、お華。心配ない、入ってくれ」

 と言う。同時におさよの顔も見ると、痛がっている様なのだが、なぜか笑顔だ。

 奥には、お春と新之助が二人並んで座っている。

「もう! 一体、どうしたって言うのよ!」

 とお華も痺れを切らし、少し大きい声で言うと、おさよの方が、

「こ、子供が出来たみたいなの……」

 と言うものだから、その途端、お華は身体の力が一遍に抜け、縁に腰を落とし、

「な、なんだ、子が出来たんだ。信ちゃんが、大変だ大変だって言うから、慌てちゃったわよ~」

 額の汗を拭いながら、帰って来ていた信吉を見ながら、呆れた顔になる。

 信吉は、ガックリ肩を落とす。

 しかし、これは目出度い事である。

 お華は居間に上がり、

「とうとう三人目か。でもこれは、誠におめでとうございます」

 と平伏し、顔を上げ、浩太郎に

「兄上もがんばったのねぇ~」

 少し意地悪そうな顔で言うので、浩太郎も、

「やかましい」

 と、横を向く。

 しかし、お華はお春達に、

「あなたたちも、弟か、妹が出来るね。母上をお助けして、ちゃんとお世話するのよ!」

 と言うと、お春と新之助も「はい」と、嬉しそうな顔で返事をする。

 信吉と下女のおきみも並んで座り、ようやく笑顔が浮かぶ。

 すると、玄関先から声がした。

「ごめんください」

 おかよの声だ。おきみが立ち上がると、

「あ!」と、お華の声が上がる。そして、

「あたし、慌てちゃってさ。先生を呼んじゃったのよ」

 と、言ってる内に優斎とおかよが入って来て、お華が、

「ごめん、先生。病気じゃ無かったのよ」

 などと言われ、座りながら驚く二人。

 すぐ優斎が、

「どういうことです?」

 と言うと、お華は苦笑しながら、

「おめでただって」

「え~」と驚いて、優斎はすぐにおさよの手を取り、脈を診て、額に手の裏をやる。

 こちらも苦笑いで、

「確かに、つわりの様ですね」

 すると、浩太郎が済まない顔で、

「申し訳無い先生。忙しいところ」

 しかし優斎は、

「いえいえ、それはそれで大事な事。つわり以外に何事も無ければ、私も安心ですし、そして……」

 と優斎は、座を少し下げる。

 おかよも気づいて同じ様に下げ、二人で深く頭を伏せ、

「三人目ご誕生の前ですか。誠におめでとうございます」

 と、二人同時に祝いを述べた。

 浩太郎も笑顔で、

「わざわざ、ありがとう」

 と言いながら、こちらも頭を軽く下げる。 

 するとお華が、

「これで、姉上の方の跡取りも出来るね。婚礼前にお母さんが言ってた通りになったじゃない。やっぱりお母さんは大したもんだわ」

 と感心したように言うと、おさよも嬉しそうに頷く。

 しかし、浩太郎は、

「何言ってんだ、まだ男か女かわかんないだろ」

「どっちだって良いのよ。養子貰えば、名前も血も繋がるでしょ。少なくても、それはそれで十分よ」

 おさよも、痛さに少し顔をビクつかせながらも、大きく頷く。

 優斎も微笑み、

「そうです。もうお春ちゃんもいますし、これで何とでもなるでしょう」

 優斎の言葉には、浩太郎も嬉しそうに頷く。



(2)

 

 お祝いを言いながら、四人で楽しく話していると、また、玄関先から、

「ごめんくださいまし!」

 と声が飛んできた。

 おきみが立ち上がり出て行くと、おきみが、

「お華さん!」

 と呼ぶ声がした。

「なんだ?」と今度はお華が立ち上がり、玄関先に行くと、何だか見た事のある中間らしき男が立っていた。

 この男も「お華様」

 と言うので、お華はようやく気付いた。

 おきみと一緒に玄関先に座り、

「あなた、伊達様の大門の……」

 と言うと、その男は笑顔で、

「はい。憶えてて頂いて嬉しいです」

 頭を一つ下げ、

「お伝えに上がりました」

「はい」

「秋月様が、本日朝方、江戸にお帰りになりました!」

 というものだから、お華もおきみも、目を大きく開けて、驚く。

「え! サブちゃん帰ってきたの?」

「はいご無事に。朝とは言え、まだ夜中だったのですが我が国にお着きになられた様です。只今、お殿様にご挨拶とご報告をなさっておられる最中と存じます。私は、秋月さまより、こちらの殿様とお華様に連絡し、お華様のお屋敷にてお待ちになって欲しいとの、言付けを受けまして……」

 お華は大層な笑顔浮かべながら、その言葉の最中に素早く懐紙を一枚取り出し袖から一分金を、これも素早く捲き、

「お知らせは、ここだけで良いわ。サブちゃんの兄上もここにいるから大丈夫よ」

と、その一分金の紙包みを彼の懐に押し込み、

「いいお知らせを持って来てくれたわ。これはお駄賃。急いで帰んなくてもいいわよ。これで酒でも呑んで帰りなさい」

「こ、これは、誠にありがとうございます」

 と、思いっきり頭を下げ、彼は嬉しそうに帰っていった。

 見送ると、お華は直ぐさま居間に駆け込んで、

「先生! サブちゃんが帰ってきたって! 今、知らせが」

 と叫ぶと、優斎はもちろん、浩太郎も大いに驚き、

「誠か?」

 こちらも叫ぶ。

 おきみも満面笑顔で、

「先生、おめでとうございます!」

 と頭を下げる。

 浩太郎はお華に、

「それで、なんと」

 お華は、それには少し苦笑しながら、

「今、丁度、伊達のお殿様にご報告などをしているから、兄上と奥様に私の屋敷に来てくれないかってさ。また、あの子は一回で終わらせようとしてるんだよ~」

 それには、浩太郎も少し笑いながら、

「何言ってんだ、行ったのはアメリカだぞ。旅の話だって、さぞ大変な事だろう。むしろ当然だよ」

 優斎も、少し涙ぐんでいる顔で、頷く。

「そうかぁ、そう言われればそうねぇ。でも、姉上は今は動けないしね~」

 とお華が、おさよに言うと、おさよは、

「良いのよ、旦那様と子供達が行ってくれれば」

 と笑う。浩太郎も、

「そうだな。おさよには、後でいくらでも話せるからな。まずは、俺と子供二人で話を聞こうか」

 それには、お春達も大喜びだ。

 するとお華は、おきみに、

「おきみちゃん。悪いけど姉上についててくれる。サブちゃんには、こっち帰ったら、ちゃんと話すように言っとくからね」

 おきみも笑顔で頷く。

 お華は、満面笑顔で、

「いや~目出度いことは続くもんだね~」

 と呟く。

 結局、お華の屋敷に、浩太郎親子、優斎・おかよがやって来て、女将さんと信吉とおふみ。そしてノブ夫婦も集まった。

 そしてそれから、(いっ)(とき)くらい待っていると、一台の大八車を引きながら、祐三郎が大汗流しながらやって来た。

 その気配に気付いたお華が、立ち上がり縁に出ると、子供達も「なんだ?」と立ち上がり、お華と一緒にその姿を見て、皆、驚いた。

 お華は笑顔で、

「あんた、久しぶりに帰ったと思ったら、何よその格好は!」

 とか言うものだから、祐三郎はニヤニヤしながら、

「祐三郎、只今戻りました!」

 と叫びながら、庭先の前まで、大八を引き摺ってやって来た。

「お華さん、暫く!」と言いながら、そこで見ていた信吉、新之助を呼び、

「悪いが、これを部屋に入れるの手伝ってくれ」

 と言われ、二人は慌てて庭に出て、大八の荷物を運び入れた。

 それが終わると、祐三郎はようやく居間に上がって座る。


「兄上、浩太郎さん、そして皆様。秋月祐三郎、無事、アメリカから戻りました!」

 と、改めて挨拶を言い、同時に平伏する。

 すると、みんなからも「お帰りなさい!」の声が飛ぶ。

 みんな和やかな顔だ。

 浩太郎は笑顔で、

「何にせよ無事に戻れて、本当に良かった」

 と頷き、続けて、

「残念ながら、おさよは子供を宿してしまい。今日は挨拶出来ない。悪いが後で八丁堀の方で……」

 それには、祐三郎も目を大きく開け、

「これはこれは。おめでとうございます。無理を言って申し訳ありません。仰せの通り、奥様には後ほど八丁堀の方で……」

 と頭を下げる。

 すると優斎が、

「伊達のお殿様には、しっかり、ご報告申し上げたのだな?」

「はい。同行の玉虫殿と一緒に。大変、喜んで頂きました。本当に良かったです」

 そして、

「何でも、留守中。桜田の方では大変な事があったとか。帰った途端、その事を聞かされ、一同、それはそれは大変な驚き様だったのですが、かといって私がそれを聞いてもどうしようもありません。ただ、正使の方など上の方々は、ゆっくりする暇無く、すぐ城に向かわれました」

 お華も、うんうんと、

「驚いたでしょう! いきなり」

 しかし祐三郎は、

「確かに。ただ私らは、向こうに居る時、既に江戸で何かあったという知らせは受けてましたので、それ程大騒ぎにはなりませんでした」

 などと意外な事を言うので、お華は驚き、

「え? 知ってたの。アメリカにいても江戸の事がすぐ分かるなんて凄いのね~」

 と、感心している。

 しかし、祐三郎は少し笑いながら、

「向こうのnewspaper……いや、これは我が国で言う瓦版なんですけど、それに

“江戸の大君、桜田と言うところで暗殺された”とか出てたんですよ」

 それには、浩太郎も驚いて、

「大君って、将軍様の事じゃないか」

 祐三郎も頷いて、

「これには、さすがに上の方々も、いくら何でも将軍様が桜田門前で襲われるなどあり得ないと言ってまして」

 現在でいう、フェイクニュースとまではいかないが、完全な御報である。

 祐三郎は、眉を顰め、

「とは言え、朝方、帰ってきたら早速、桜田門の変の話を聞かされ驚きました。正確では無いにしろ、それはそれで大きな問題。みんな仰天して、上の方々は、休む間もなくお城の方へ行ってしまいましたよ」

「そりゃそうでしょうね~。ここみたいに、おめでとうやらお疲れ様どころじゃないからね~」

 すると祐三郎は、お華と優斎に顔を向け、

「お華さん。我が殿にお聞きしました。私の代わりに桜田の件。兄と一緒に全てご報告頂いたそうで。誠にありがとうございます」

 それには優斎が、

「その件は、みんなお華さんのおかげだ。私は付いて行ったに過ぎない」

 と微笑むと、お華が、

「あたしも、奉行所に行く途中、それにぶつかっちゃってさ。奉行所は勿論だけど、サブちゃんに挨拶された以上、伊達様にもお知らせしなければと思ってね」

 祐三郎は少し笑って、

「殿も仰ってられましたよ。あの子は良くそういうところに出くわすな~って」

 それには浩太郎が笑ってしまう。

「だいたいな、事前に下手人まで探り、奉行所に気を付けるように言ったら、今度は自分が現場に居るんだから、同心も形無しだよ」

 祐三郎は頷きながら、

「関係が無いとはいえ、大名同士の事。素早いお知らせで、殿も感謝しておられました。しかし、お華さんは本当に事件を呼びますね~」

 などと、からかう様に笑う。

 当然お華は、

「やかまし!」

 と怒るが、真面目な顔で、

「伊達様には関係ないとは言ったけど、あれは下手すると、水戸と彦根、いや水戸とご公儀の戦になってもおかしくないでしょ。そうなると水戸に近い伊達様はどうなさるのか。これは、他人事にはならないからね。お殿様もそれには頭を抱えておいでだったわ」

 祐三郎は、その辺は聞いていなかったので、こちらも真剣な顔つきになる。

 そしてお華は、

「まあ、伊達様ならばお上の指示に従う事になると思うけど、それはそれで大変な出費になる。勘定のあなたなら分かるでしょ?」

「はい。それはもう」

 しかしお華は、少し笑い気味で、

「そうなると、サブちゃんも、すぐ戦に行かなきゃならない。もっとも、サブちゃんじゃ、お父上に何しにきたんだと叱られるのは目に見えてるからね」

 これには祐三郎も眉を顰めて抗議の顔だが、優斎は口を押さえて大笑いだ。

 お華は再び、

「それはともかく、折角、通訳で、長年の伊達様家中の思いを晴らしたのに、いきなりそんな事になったら、目出度いことに水を差すってもんよ。こっちの方が腹が立つと、仰っていたわ」

 多少の文句はあるが、祐三郎はそれを何とか抑え、

「ご配慮、誠にありがとうございます」

 と頭を下げるが、浩太郎も和やかに話を聞いている。

 こちらはこちらで、お華がしっかり務めを果たしてくれたからだろう。

 そして、お華はさらに「それでね、サブちゃん!」

「な、何です?」

 と、まだあるのかと言う顔で、祐三郎が聞くと、 

「その下手人の一人が、駕籠に乗っていたご大老を……」

 そう言いながらお華は、その射撃手の格好を真似ながら、

「下の方から、鉄砲で撃ったらしいのよ」

「鉄砲ですか?」

 お華は頷き、

「ほら、横浜でご主人が持ってた、け、拳銃って言うんだっけ? あれを使ったらしいわよ」

 さすがにそれには祐三郎も驚いた顔になり、

「あの方がお持ちだったのは、確か、コルトのリボルバー拳銃……」

「そうなのよ。あんたがアメリカ行ってる時に、そんなもんでやられるなんてさ。あんまり良い気分はしなかったわよ~」

 祐三郎は、大きく頷き、姿勢を正し、

「いずれにせよ、私の留守中。お世話かけましてありがとうございました」

 と深く、頭を下げる。


 すると、優斎が話を変え、

「以前、江戸とアメリカでは時差があると聞いたが、どれくらいあるのだ」

 祐三郎は頷き、

「はい。江戸とアメリカのサンフランシスコという最初に行った港では、16時間あります。つまり、今、丁度お昼ですので、あちらは今、昨日の日付の巳の刻

(am10)ぐらいになります」

 優斎は意味がわかるから「ほう~」と言うだけだが、みんな子供達は意味が全く分からなかった。

 祐三郎は微笑み、

「ああ、しばらく寺子屋もやってませんからね。この事は次の時、しっかり説明します。でも、今はただ、日本と、アメリカ。またイギリスやオランダも時間に差があります。これだけ覚えといて下さい。これだけでも、何かの役に立つかも知れません」

 と言うと、新之助達は、元気よく「はい」と答える。

 さて、暫くそんなことをやっていると、おゆき・お華と一緒に、簡単な酒肴と酒を運んで来た。

 祐三郎は、妙にニコニコして、

「ありがとうございます。これが楽しみだったんですよ~。しばらくは我が国から漬物や醤油を持ってってましたけど、あっという間に無くなってしまいまして、ず~と洋食でしたから。これが酷いもんで、飽き飽きしてたんです」(出された食事に、塩・醤油などを振りかけ誤魔化していたと言われる)

 祐三郎は早速、箸をつける。

「これ! これ!」

 と大満足だ。

 その様子には、みんな大笑いしてしまう。

 猪口を片手に、優斎は、

「で、どうだった向こうは」

 と聞くと、祐三郎は酒を一杯喉に、そして焼き魚を口に。

 美味い! などと言い続けながら、一連の行程を説明し出す。

「我が国を出て、いきなり大嵐にぶつかってしまいまして、あの時はさすがにこれで死ぬのかと思いましたよ。でも何とか、それは乗り切りましたが、あまりに使い過ぎた燃料の石炭を補給するため、最初は、ハワイ国という、国と言っても小さな島なんですけど、そこに立ち寄りました」

 みんな、最初のハワイから、もうみんな興味津々だ。子供達も近寄って聞いている。

 あたりまえだが、誰もが未知の国だからだ。

「私は、英語は勉強しましたが、さすがにハワイの言葉などは分からず、最初から難儀しましたよ」

 祐三郎は思い出しながら、呆れた顔で言い始める。

 ハワイは、今でも英語と、ポリネシア語が公用語になっている。

 この頃は、当然、ポリネシア語がメインだ。

「大体、そんな国があるなんて知りませんでしたから……」

 今では、日本人の誰もが知っているハワイだが、始めて日本人に知られたのは、この時の事と言われている。

 後にハワイは、米国50番目の洲となる。

 すると、祐三郎はなぜか頬を赤らめ、

「ここは、八丈島からずっと先にある島なんですけど、国なんですよ。我が国と同じ様にアメリカと条約を結んでます。だから最初はそこに行ったんですけど……」

 妙に、モジモジしてるので、お華が、

「何、恥ずかしがってるのよ。おかしな子ね」

 と言うと、祐三郎は手を振り、

「だってお華さん。そのハワイの王様(カメハメハ四世)と言う方にお会いしたんですけどね。黒い洋装で、肩から何だか白い布(大綬章と思われる)を襷掛けした格好で現れて、それより何より、その王女様ですよ。つまりこちらで言う御台所様です。この女性、二十五位ではないかと思われるのですが、なんと、肩から胸ギリギリまで、そしてお腹まで素肌で、背中も三角にパックリ空いた着物を着ていたんですよ。我々からしたら殆ど裸。腰から下は、袖を引いた長い……スカートって言うのですけど。そんな姿で現れたんです。一同、そりゃビックリしましてね」

 さすがに浩太郎が、

「そ、それって、胸と腰だけ隠してたって事かい?」

 と幾分興味を持った様で、笑顔で聞く。

 祐三郎は、大きく頷き、

「はい。後で船に帰った時、皆さんがあんな格好で御台様? とか、吉原や岡場所でもそこまでは無いだろう。とか仰ってまして、私も余りの事に驚いてしまいました」

 するとお華は、隣のおかよの方に顔を向け、小さな声で、

「考えられる?」

 と聞く。

 彼女は、元吉原の呼出しだった女である。

 そのおかよでさえ、

さすがに、ブルブルと首を振り、これもヒソヒソと、

「そんなことしたら、お仕置きですよ~」

 と答えるから、お華も「そうだよね~」と笑ってしまう。

 祐三郎は、

「いや、あれには本当に、お国柄って言うんでしょうか、世界には色々な国があるんだなと、思い知らされました」

 と笑う。


 すると、今度は優斎が、

「次は、アメリカって訳か」

 と言うと、祐三郎も頷き、

「はい。その通りです。サンフランシスコと言う港に着きました。私が真っ先に思ったのが、我が国とアメリカ。本当に戦をしなくて良かったと言う事です」

 さすがに浩太郎が驚いて、

「それは、いったいどういうことだ?」

 祐三郎は頷いて、

「岸壁は、総レンガ張りの石作。至って頑丈そうな港。そして湾内には、我が国でいう台場もありましたが、向こうのは、島全体が石作。そして港、両側の岸など含めて、大砲がズラリと並んでいます。それに町は、みんな石作の四階建てぐらいの家ばかりです。もし我が国の武士が攻め込んでも、地上に上がることさえ無理でしょう。いえ、例え上がったとしても、周りは石だらけで、どこも刀じゃ斬れません。それに、その台場ときたら、我が国のお台場とは、とてもではありませんが、比べ物になりません。また、鬼の様な数の鉄砲も用意されてますから、とてもとても無理です。根本が違いますよ」

 さすがに、お上で働く浩太郎は、

「そんなに違うのか」

「はい。私達は武器を作る工場なども見せて貰いましたが、またこれがバカデカい。とても今の我が国には、無理にございます。あんなに次々、鉄砲や弾など作られていては、とても追いつけません」

「そうか~」

 浩太郎は些かガックリとした。

 彼はもちろん戦争をしたいとは思っていないが、かなりな国力を、しかも日本人から報告されると、忸怩たる思いである。

 すると、祐三郎は、

「それでね兄上。私は蒸気機関車にも乗りました!」

 優斎も、それには目を輝かせ、大きな声で、

「何! 本当か! で、どうだった?」

 しかし、れにはお華が渋い顔で、

「蒸気なんとかって何なの? サブちゃん」

 と聞くから、祐三郎は笑って、

「ああ、すみません。お華さんもあちらの船が蒸気で動いて言う事は知っていますよね?」

 お華は、ああ、と言って頷く。

 横浜で説明を受けているので、多少の事は聞いているからだ。

「ですから、その力を、岡で走る車に付けるのです。二本のレールと呼ばれる鉄の道に沿って走るんですよ」

 するとお華は、子供達にも、

「ちゃんとお話を聞いておくのよ。たぶん、あんた達には大事な事になるから」

 と、注意を促す。

 確かに日本で、この事に関わるのは、この世代からである。

 祐三郎は、少し笑って、

「でね。私達が機関車に乗ると、それは大きな、とても大きな音を立てて走り出しました。その速さといったら、最高速度になると、馬ではとても、追いつけないと言う速さです」

 優斎が頷きながら、

「やはり、そんなに早いのか?」

「はい。兄上。何でも、距離で我が国に例えると、江戸から京都までは半日で着いてしまうぐらいの速さだそうです」

「は! 半日? 京までか!」

 それには、優斎も、浩太郎も驚愕で言葉が出ない。

「お華さんもご存じの小栗様」

「ああ、あの方?」

「はい。あの方が一生懸命、この列車の作り方とレールの引き方、そして工事にかかる費用をどうやって調達するのかなど、係の者に熱心に聞いておられました。我が国にも、いつか蒸気機関車を走らせようとお考えだと思います」

 すると、今度はお春が、

「祐三郎先生? あとなんか面白い事ありましたか?」

 と聞くので、彼は笑い出し、

「お華さん。私と一緒に行った斧さん、憶えてるでしょ?」

 もちろんお華は頷き、

「斧ちゃん? うん。あの子がどうしたの?」

 すると祐三郎が、

「アイツはアメリカで大人気でね」

「大人気~?」

「はい。他の我々もどうしてだか、未だに分からないんですけど、女性から凄い人気で……我が国で言えば、団十郎よりも、大人気でした」

「え~、あの子が?」

 と、お華もさすがに斧次郎の顔を思い浮かべ、とてもそんな事には結びつかないから、首を捻ってしまう。

「分からないのは当然です。一緒にいた私達でさえ、どうしてだか分かりませんでしたから。泊まったホテル……いや日本で言う旅館なんですけどね。そこは五階ぐらいある高い所なんですけど、夜になっても下にアメリカの女達、斧さんが顔を出すのを待ってたりするんですよ」

「へ~」

 これには、みんな驚いてしまう。

「もう、帰る時まで、どこに行っても一緒。 しかし、若い侍がこんなにもてはやされるなんて思ってもいませんでしたよ」

 お華は笑って、

「そりゃ、両国の見世物小屋みたいなもんじゃないの?」

 と言うから、祐三郎も大きく頷いて、

「小栗様も、実に同じ事、仰っていました。でもね、それにしても、なんで私じゃ無くてアイツなんだと怒っておられました」

 と大笑いだ。 



(3)


「あとは、ワシントンと言うところで、条約書の交換です。大統領。大統領というのはこちらで言う、将軍様と同じぐらいお偉い方なんですけど、和やかに接して戴きました。それで最後は、我が国で言う大阪でしょうか、“ニューヨーク”」と言うところで、ここでも市民の皆様に大歓迎して頂きました」

 優斎も満足そうな顔で、

「その様子じゃ、かなり上手く行った様だな。しっかり仕事してくれて私も嬉しい」

 と、また目に涙が溢れている。


 さて、そうやって一通り話すと、祐三郎はポンと我が腿を叩き、

「それでは、いよいよ皆様にお土産をお渡しします」

 と、言ったので、みんな。特に子供達は大喜びだ。

「まずは、浩太郎さんと兄上です」

 と、重ねられて山になっている所から、幾つか袋に入った物を引き出して、二人に一つずつ渡し、

「まずは、お酒です」

 と言うのだが、それは日本ではまず、見る事が無いガラス製の瓶に入っているものだった。

 祐三郎は、

「これは、バーボンウイスキーと言います。そのままか、冷たい水で割ってお飲みになって下さい」

 浩太郎は、取り立てて酒好きと言う訳ではないが、さすがに珍しい入れ物で、向こうの酒と言われれば、嬉しくなってしまい。満面の笑顔だ。

「兄上、これは仙台の父にもお送りしました。ですから気にせずお飲み下さい」

「お~悪いな」

 とこちらも嬉しそうだ。

 そして祐三郎は、

「それから兄上には、もう一つこれです」

 と一つの箱を渡した。

「なんだいこれは?」

「はい。実は視察の途中、向こうではホスピタルと言いますが医療所も見学してきましてね」

 それには優斎も驚き、

「おいおい、大丈夫だったのか? 勝手にそんなところに行って」

 と心配そうに聞いたが、

「ご心配なく。もちろん許可を頂いて参りました」

「そうか……。それなら良いが、で、向こうはどんな感じなのだ?」

 小言は言うものの、優斎は医療所と聞くと、どうしても聞きたい方が勝ってしまう。

 すると祐三郎は、お華に向かって、

「五階ぐらいある建物で、各部屋に別れていまして、その一部屋一部屋に、ベット……ああ、お華さんはベット。知ってますよね?」

 と聞くと、お華も頷いて、

「あの、向こうの人のお布団でしょ?」

 祐三郎は大きく頷いて、

「そうです。そのベットが各部屋に並べてありました。ああいうところがあれば、我が国で先日流行ったコロリ(コレラ)の時も、救えた人もだいぶ多かっただろうなって思いました。

 兄上の考え方、向こうの医者にも聞きましたが、あそこの長屋で治療するってやり方は、間違いではないと言ってましたよ」

「そうか!」

 優斎も、海外でも基本的な考え方が一緒だと言われると。さすがに嬉しくなる。 そして、祐三郎は、

「そして、その箱、開けて見て下さい。中には向こう医者が、みんな使っている

聴診器が入ってます」

 小さな箱を開け、実際に手に取った優斎は目を大きく開け、。

「話は聞いていたが、これが聴診器というやつか……」

 優斎は教えて貰って、早速、祐三郎の胸にそれを宛て、

「おお! なるほど! これはすぐわかる!」

 と嬉しそうだ。

 それよりなにより、おかよさん。

 いきなり名前を呼ばれ、彼女は驚く。

「あちらでも、おかよさんの様な看護に携わる女の人が一杯居ました。ただ……」

 と少々祐三郎は笑い、

「一緒に行ったのが、トミーでしてね。もうその女の人達は仕事そっちのけで、わいわい集まってくる始末。まあ、その時は丁度良いって事で、診療所をゆっくり回る事が出来ました」

 すると、お華に向かって、

「そこの看護の女性達もそうですが、あちらでは女の人の仕事も多い様で、皆さんそれで生活出来る様になっている見たいです。他には、お華さんの様なダンサーつまり、踊り手とか、各所の事務のお仕事。港の案内の仕事など、我が国よりも遙かに多かったです。これは見習わないといけないと思ったんですけど……」

 その話には、お華も大きく頷いて、

「へ~、良い国ね~。そうよ、女の人にそれなりに働き口があれば、みんな幸せに生きる事が出来るからね~」

「そうなんです。だからおかよさんも、これからが大事になるんじゃないかと思います。どうか、頑張って下さい」

 笑顔で言うと、おかよも満面笑みで、

「ありがとうございます」

 と、嬉しそうに頭を下げる。


 それから祐三郎は、他の皆に向かって、一つの大きい袋を開けながら、

「これが、女の方々への土産です。ハンカチといいます」

 と、それを一枚ずつ、お華、お吉など女性に渡し、お春には二枚渡す。

「お春さん。一枚は、奥様のお土産です。あなた、代わりに預かって下さい」

 笑顔で渡す。

「はい。わかりました先生。ありがとうございます」

 と、彼女も笑顔で、頭を下げる。

 するとお華が、ハンカチをつまんで上に上げ、

「サブちゃん、これは何なの? こんな手拭いの半分くらいで薄いの?」

 それには祐三郎が笑顔で、

「お華さん、それをよく見て下さい。素晴らしい刺繍が入っているでしょ?」

 それにはバラをあしらった模様だが、この頃の日本人はバラを殆ど知らない。

 バラそのものは、奈良時代からあったらしいが、一般的になったのは江戸以降ではないかと思われる。

 おかよも「あっ」っと声を上げ、「綺麗!」と笑顔になる。

 お華も、

「本当だ!」と驚きの声を上げる。

 祐三郎は、

「これは、お華さんが言う通り、向こうの手拭いみたいなものですが、これはヨーロッパのイギリスやオランダの女王様、そしてアメリカの高貴な女性は必ず持っているものです。手を拭くのはもちろん、化粧直しや食事の後に口を拭くために使うそうです。薄いですけど、絹でしょ?」

 今度はお吉が、

「本当だ。これは高かったでしょ? すみません祐三郎様」

 と言うが、

「いえいえ。向こうの人が紹介下さいまして、些か安く手にはいりました。ですから遠慮無く使って下さい」

 すると、おかよはそれを抱きしめる様に、笑顔で、

「ありがとうございます」

 と頭を下げる。

 

そして祐三郎は、

「さて、最後は、子供たちへのお土産です。そしてノブさんへのお土産です」

 と、祐三郎は立ち上がり、後ろに積まれている重量感のある紙包みを、浩太郎家族に一つ、お華達に一つ、そして、優斎とノブのところにも一つずつ、置いた。

「まだ、そのままにして置いて下さいね」

 と言いながら、置いて行く。

 さすがにノブは、見えないながらも気づき、恐縮した顔で、

「わ、私達にも? よ、よろしいのでしょうか?」

 と言うが、祐三郎は、

「いつも我が兄がお世話になっているんです。どうか遠慮無く」

 と軽く頭を下げると、優斎も、

「そうそう。遠慮する事はありませんよ」

 ノブの妻は、ハンカチを貰っているので、余計に申し訳無さそうに、

「これはこれは、本当にありがとうございます」

 と言うが、祐三郎は、

「これは」、ノブさんだから受けて欲しいと言う事もありまして、是非、感想を聞きたいのです」

 と言って、

「それではまず、ノブさんの分、私が開けます」

 と、まず包みを開ける。

 すると、何やら木の箱の様な物が出てきた。

 そして祐三郎は、

「おサキさん。よく見てて下さい。そして、皆さんもよく見てて下さいね。この箱の横の取っ手みたいな物を右廻しで廻します」

 サキは額に皺を寄せ、懸命に聞いている。

 キリキリという音を立てて祐三郎はそれを廻す。

「何回か廻すと、これ以上廻せないところで止まってしまいます。くれぐれも無理に廻さないようにね。これで準備はOKです」

 その言葉には、お春とお華の頬が上がり、彼女達もOK・OKと叫んでしまう。

 そして祐三郎は、

「では、奥さん。その箱の蓋を上げて下さい。そうそう、そちらからだけでいいです」

 おサキが、ゆっくりと片方だけ上げた。

 すると、その箱は途端にギーと音がし始めた。

 そして、皆には不思議な事に、音楽が鳴り始めたのだ。

 独特な主旋律のみである。

 もちろんみんな、聞いた事の無い曲だ。

 これには、一同、特に子供達は、初めて聞く音楽に驚愕を隠せない。

「な、何これ! こ、これ、向こうの曲でしょ!」

 と言いながら、お華は四つん這いのまま、近づいてくる。

 そう。

 これはオルゴールである。日本名、自鳴琴。

 余りの事に、目の前のノブは、驚きで声が出ない。

 そしてようやく、

「これは一体……」

 すると、浩太郎が、

「ああ、それはゼンマイで動くのか」

 祐三郎は「はい」と笑顔で頷き、

「我が国のカラクリ人形と同じ原理です」

 そしてノブに、

「どうです、ノブさん。この曲」

 さすがに盲目のノブでも、この異変はわかる。

 そして、

「聞いた事ありません、こんな音と曲。今まで聞いた事があるような、ないような……しかし、なんて優しい音だ。これがカラクリだなんて……」

 と半分叫んでいる。

 そして、

「こんな良い物。誠にありがとうございます」

 サキと一緒に頭を深く下げる。

 同じく、三味線引きのおゆきも、

「これは、アメリカの人が作った曲なのですか?」

 と祐三郎に聞く、祐三郎は首を振り。

 この時の曲は、ドイツ人で、向こうの音楽の父とも言われる、J・Sバッハのメヌエットであった。

(実は、真の作曲者はぺツォールト、とも言われている)

 いずれにせよ、ここに居る者は、日本で初めて聞いた人達になるのだろう。


 それには優斎が、

「ほう、ドイツ人か……」 

 と唸る。

 医療が進んでいるドイツで、こんな曲まで作る人がいるのか。と驚きも含めた思いだったのだろう。

 そして祐三郎は、

「新之助君。これをお母上の元に持って行き、聞かせてお上げなさい。いくらか心も晴れるでしょう。ね、お春ちゃん」

 二人は「はい」と和やかに、浩太郎を見上げる。

 浩太郎も、ウンウンと微笑みながら頷く。



(4)

 

 優斎が、

「祐三郎。本当に良い旅になった様だな」

 と、言うのだが、彼は、

「そうとも言えますけど、たった一つ。凄く悔しかった事がありまして……」

 すると、お華が笑いながら、

「トミーがあんまりモテてたからでしょう!」

 と、からかう様に言うが、祐三郎は、そのお華に、

「く~、違いますよ!」

 と、叫ぶ様に言うから、みんな驚いてしまう。

 祐三郎は、

「浩太郎さん、兄上、聞いて下さいよ!」

 あまりの勢いに、二人も驚き、優斎が、

「ど、どうしたんだ?」

 と聞くと、祐三郎は一気に、

「私共一行は、嵐も乗り越え、長旅も我慢して、やっとワシントンのホワイトハウスに着いたんです。そして大統領にお会いする為に、控え室……ここよりももっと広い部屋で待っていたのです」

「おう」

 優斎は頷く、

「すると、なにげにお庭を見ていた私に、そのトミーが!」

 とお華を睨む。

 お華は、さすがにどうした? といった顔をしている

「祐三郎さん! ちょっとこちらへ。とか言って私を呼ぶのです。私は何かと思ってトミーのところに行きました。そこは部屋の壁際には小さめのアメリカの国旗が幾つか並び飾られていまして……」

 と再び、お華を睨む。そして、

「祐三郎さん! これ! これ! って叫ぶから、そちらに行って、その指の方向を見たら、なんと江戸で見慣れた物が、旗頭の下に刺さっているじゃありませんか。どうもその旗は軍楽隊の旗だったそうで、お華さん! 覚えがあるでしょ!」

 などと、半分怒鳴った様に言う。

 浩太郎と優斎は、訳が分からぬ話の流れで、ポカンと聞いている。

 お華は、妙な顔で、

「覚え? 別に旗に覚えはないけどな~」

 と、斜め上を見る。

「ったく! お華さん。ペリーが来たとき、軍楽隊が妙な浪人に襲われた時、助けてあげたでしょ!」

 さすがにそれには、手を打って、

「あ、あ~あれ?」

 さすがに、そう言われて見れば、そんな気がしたお華だった。

 すると祐三郎は、

「そこまでは良いですよ、お華さんのいつもの事だから。それで、軍楽隊にお土産だとか言って、簪を一本投げ打ったでしょ!」

 やっとお華は、口に指一本当て、

「ああ、確かそんなことしたねぇ。あっちもボタンくれたからさ、お返しに……え? まさかそれが?」

 祐三郎は、眉を寄せ、

「浩太郎さん、兄上、その助けて貰った軍楽隊の連中は、アメリカに帰って、大統領にお見せして、その事の報告をしたらしいんです。それを聞いた大統領はえらく喜んだらしくて、そのホワイトハウスに飾る事になったんだそうです」

「へ~」と浩太郎は、驚きを隠せない。

 しかし、

「浩太郎さん。私達は、嵐を超え、長旅を終わらせて、やっとアメリカに行ったんです。やっとホワイトハウスに行って、アメリカの大統領に日本人で初めてお会いするって、みんな喜んでいたんです!」

 そこで、やっと優斎は気付いた様で、大笑いで腹を押さえる。

「ところが、もう既にお華さんの簪が、先に大統領と会ってしまっている。旗本の小栗様など、あんなに苦しい思いして、お華の簪見るためにここに来たんだろうか……とか仰ってるし」

 それには、みんな大笑いだ。ノブさえ口を塞いで笑っている。

 浩太郎も、笑いながら、

「それは申し訳無い。我が妹ながら、困った奴じゃ~」

 と言われ、お華は何故か肩身が狭い。

 そして、祐三郎は続けて、

「私は通訳ですから、当然、大統領に聞かれるのです。芸者と言う女はそれほど強いのか? だって。この時ほど困った事はありませんよ。いや、芸者が強いのではなく、お華さんが強いのです……ってね。こんな馬鹿馬鹿しい通訳したこたぁありませんよ。それに向こうの人は、簪など知りませんから、一応、

『お華の髪飾り』と説明しときましたよ。まあ、向こうの女の人は、そんな髪飾り。怖がって、逃げちゃうでしょうけどね」

 もうみんな面白がって、転げ回って喜んでいる。

 そして、祐三郎は、

「まあ、最後の最後に、とんでもない事が待ってましたが、お勤めは果たしましたので良かったのでしょう。皆様、お世話になり誠とありがとうございました」

 と、祐三郎は、言ってやったという顔で、平伏する。


 しかし、お華はなぜか嬉しそうに、

「そうか~私が最初なんだ~」

 などと言うものだから、祐三郎と優斎は呆れた顔になる。

 

~つづく~


 今回もお読み頂き、ありがとうございました。


 オルゴールが日本名で「自鳴琴」だったなんて、恥ずかしながら、私も初めて知りましたよ(笑)


 今回は、アメリカ視察団の後日談というところです。

 ただ、文章の中でも言っていますが、帰って来た途端、桜田門の騒ぎにぶつかり、アメリカがどうだのこうだの、言っている場合では無かった様です。

 そりゃそうです。「首相暗殺」同様の事件ですからね。

 

 さて、お華達はオルゴールをどう聴いたのでしょう。

 オルゴールは今でもあり、独特な旋律は、精神的な和らぎを助ける物と聞いていますが、この頃の人は、さぞ驚いたでしょう。

 本当は、蓄音機でも良かったのですが、まだエジソンが発明したばかりだし、お土産にしては、少し大きすぎる。

 もっともオルゴールも、この頃は結構大きいのですが、その辺は、祐三郎が大八車で運んできたと言う事で、お察し頂けるとありがたいです。


 一方、おさよにまた、子が出来ました。

 これにより、母親の思いを達成したわけですが、小説当初の随分前の事。

 この事が、お華の行方に影響を与えます。


 と言う事で、今回もありがとうございました。

 また、次回もよろしくお願いします。

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