【9章】 大ポカ連発〜敗因:自分の頭脳〜
(待って……今、秋也は何て言ったの?)
『これを理解していないと、これからの勝負で冬香は――必ず全敗して……』
(……ってことはよ? 逆にその仕掛けさえ理解してしまえば、私だって必ず勝てるってことじゃない!)
どん底の絶望から一転、私の脳内でポジティブな計算が弾け飛ぶ。
「……決めたわ。やっぱり、どうしても納得がいかないもの。こんな姿にされたまま、何も知らずに『はい、そうですか』なんて終わらせられないわ!」
「オォォ! いいのか冬香!? 負けてから『やっぱり脱げません』は許されねぇぞ!」
身を乗り出す夏向に対し、秋也はどこか困ったような顔で眉をひそめた。
「……これ以上の引き止めはしないけれど、いいのかい? 夏向は煩悩のまま、本気で残りの下着を剥がしにくると思うけれど」
秋也はどこまでも紳士的に心配してくれるけれど、もう私の好奇心と自尊心は止められない。
何負けした理由や、——それに、春樹のハーフパンツの下、さらにインナー(下着)のその下はどうなっているのかという好奇心も、正直少しだけある。
「分かってる。でも、もう決めたから。……早くその理由を教えて!」
「……仕方ないな」
秋也は諦めたように溜息をつくと、静かに種明かしを始めた。
「冬香はね、勝敗に関係なく——直前の対戦で相手が最後に出した手を、次のゲームの『最初の出し手』に選ぶ癖があるんだよ。例えば、相手がパーを出して勝負が終わったら、君が次のじゃんけんで出す手はパーなんだ」
(えっ……!?)
自分では全く意識していなかった指摘。
ハッとして、「もし次のじゃんけんで自分が何を出すか」を無意識の感覚で探ってみる。……私の頭に浮かんでいたのは、グー ✊ だ。
本当だ。直前のゲームで、秋也が私に勝った時に出していた手が『グー』だった。
(……うそ、本当だ。自分でも全然気づいてなかった……!)
完全に手の内を読まれていた事実に寒気を覚えつつも、私はなんとか必死に平静を装って問いかけた。
「……そうね、その通りだわ。自分でも気づいてなかった……。で、でも……っ! 秋也や夏向はともかく、春樹は大丈夫なの!? あなた、私と同じでもう残り枚数少ないじゃない! 負けて脱ぐ可能性だってあるのよ!?」
「その時は、俺の自慢の筋肉を存分に堪能してくれ!」
「ブレないなぁ、お前は……」
堂々と胸を張る春樹に、夏向が呆れ顔で苦笑いする。
「よし……! クセも分かったことだし、続けましょ!」
「さいしょはグー、じゃんけんポン!」
【勝者】 冬香:チョキ ✌️ / 夏向:チョキ ✌️ / 秋也:チョキ ✌️
【敗者】 春樹:パー ✋
「あっ……!?」
一発で春樹が最下位確定で負け抜けた。
「あれっ!? 秋也、話が違うぞ!?」
「違ってないだろ。僕がさっき種明かししたの、ちゃんと聞いてなかったのか?」
「そうだったっけ? 筋肉のこと考えてて気にしてなかった」
「お前……っ、どうすんだよ! 冬香を最後まで脱がす前に春樹が終わったら意味ねぇだろ!」
「夏向もブレないねぇ……煩悩剥き出しで」
頭を抱える夏向に、今度は秋也が苦笑いを漏らす。
ニヤッ。「春樹、私の勝ちだ」
おっと、私はまたあの敗北した人のような悪い顔をしてしまっていたようだ。
下着姿で冷え切った視聴覚室の中、私は見事に最初の勝負をもぎ取ったのだった——!
「何でだ? まだ勝負は終わってないぞ!」
不満げに言いながら、春樹は勢いよくショートパンツを一気に脱ぎ捨てた。
そこから現れたのは——黒のビキニパンツだった。
成人したばかりの高校生とはいえ、そのたくましい下半身には男らしいしっかりとした体毛がワイルドに生え揃っている。
春樹が得意げにキメ顔でポーズを取り、クルリと後ろを向いた瞬間。
私たちの視界に、とんでもない光景が飛び込んできた。
……なんと、前はビキニパンツなのに、後ろはまさかのTバックだったのだ。
「うわぁ……お尻、丸見えじゃない……っ」
「どうだ。この美しい大殿筋と鍛え上げられたヒップラインは!」
美しいかどうかはさておき、余分な脂肪が一切ない引き締まったセクシーなお尻ではある。
私は引きつりながらも、気になって仕方のない疑問を口にした。
「ねぇ、この下にサポーターとか何か穿いてるの……?」
「いや、これの下には何もねぇ。つまりこれを失ったら正真正銘のフルチンだ! ハハハ!」
(……いや、全然笑っている場合じゃないと思うんだけど!?)
脳筋の思考回路にツッコミを入れる気力を奪われつつ、私は気を取り直して宣言する。
「じゃあ、次が最後の勝負ね。春樹、今度こそ負けたら私が容赦なく脱がしてあげるから覚悟しなさい!」
「それも悪くないが……まぁ、俺もまだ負ける気はねぇぜ!」
「いくよ! さいしょはグー、じゃんけんポン!」
【勝者】 夏向:グー ✊ / 秋也:グー ✊
【あいこ】 冬香:チョキ ✌️ / 春樹:チョキ ✌️
(ここで勝てば……この悪夢みたいな勝負をこれで終わりにできるんだから!)
「あいこで、ショ!」
【あいこ】 冬香:チョキ ✌️ / 春樹:チョキ ✌️
——そこから、奇跡の(探り合いのすえの)泥沼状態が始まった。
お互い一歩も譲らず、なんとあいこが5回も連続で続いたのだ。
「あいこで、ショ!」
【勝者】 秋也:パー ✋
【敗者】 冬香:グー ✊
「あぁぁーーーーっ! 勝ちきれなかったぁーーーっ!!」
——散々「私の勝ちだ」とフラグを立てておきながら、低レベルな泥仕合の末、結局負けてしまった冬香。
「さて、次はどっちを脱ぐのかな? 上? それとも下?」
(しまった。忘れていた。負けたらどうなってしまうのかを……!)
夏向の楽しげな声に続いて、春樹からも「脱がしてほしいんだっけ?」とからかわれてしまった。
「じ、自分で脱げるわよ!」
——自ら沼にはまっていく冬香であった。




