【最終章】乙ゲーの勝者は人生の敗者
「卑怯でしょこんなの! 男らしくないわ! そうでしょ、秋也!?」
私は唯一まともそうな秋也に訴えかけ、必死に味方に引き入れようとした。
「困ったなぁ。フォローしたいのは山々だけど、じゃんけんはどう見ても成立しているんだよ。冬香は確かにグーを出したし」
「あれは出したのではなくて……っ」
上手く説明できず、次の言葉が出てこない。
「仕方ないな。多数決で決めようか。——今のじゃんけんが有効だと思う人?」
「ハイ!」「ハイ!」「ハイ!」
当然のごとく、男子3人の手が勢いよく上がった。
反論すら許されないまま、勝負の成立が確定してしまう。
ということは……つまり、私に残っている最後の1枚は——。
絶望する私に、夏向がニヤニヤしながらからかってきた。
「冬香ぁ、自分で脱げなかったら俺が脱がしてやるから『脱げません』って宣言しなよ(笑)」
「なにそれ!脱げるわよ!!……あっ!?」
※こんな口車にまんまと乗ってしまうなんて本当にポンコツな冬香である
腹を抱えて笑い転げる夏向、ガッツポーズを決める春樹、苦笑している秋也。
「やったぁ〜! 自分で言い出したぜ! 今日の自習、サボってマジでラッキーだった〜!」
夏向が手を叩いて大喜びし、春樹も「へへん、冬香を視聴覚室に誘った俺、超グッジョブだろ!」と誇らしげに胸を張る。
教室の壁に掛けられた時計の針は、まだチャイムまで30分余りという残酷な時間を指していた。
わずか10分足らずの間に、あれほどあった防壁(衣類)をすべて剥ぎ取られたことになる。
まだ最後の砦は残っている。だが、それすらも自ら進んで脱ぐと宣言してしまった今、もはや後戻りできる道など存在しない。
「……くっ」
私はもう観念した。
震える指を下着のウエストゴムに掛け、自暴自棄な勢いのまま一気に押し下げる。そのまま足元からずるりと抜き取り、積み上がった衣類の山へと放り投げた。
ついに私の身にまとうものは糸すらない、文字通り一糸まとわぬ姿になった。
「うおおおっ、ホントに全脱ぎしちゃったよ!!」
夏向が目を輝かせて歓声を上げる。
「な、なあ冬香……俺の大腿四頭筋がバンプアップしてるぜ」
「違うでしょ! それ筋肉じゃないでしょ!!」
春樹のTバック越しに、中央のシルエットだけがご丁寧に自己主張を始めてしまっているのだ。
……先ほど脱ぎ捨てたばかりの私のショーツには、懲りない煩悩の塊(夏向)がすかさずハイエナのように手を伸ばしていたが、今の私にはそれをひっぱたく気力すら残っていなかった。
もう、どうとでもなれ。好きにすればいい。
私は恥じらいを通り越し、虚無の表情で天井を見上げるのだった。
全く、誰だよこんなゲーム始めたの……もしかして、私か?
「……最高だ。実に歴史的な瞬間だな、これは」
秋也が静かに、しかしどこか恍惚とした表情で感嘆の息を漏らした。
「僕たちのアイドルがこんな姿で目の前にいるなんて」
「アイドル? 私が?」
秋也から発せられたあまりに予想外なワードに、私は思わず二度見した。
「そう、僕たちはみんな君のファンだよ」
「私なんて特に際立つ特技なんて何もないけど。成績だって大したことないし、体だって見ての通りおっぱい小さいし……」
「おっぱいの大きさなんて所詮、脂肪が多いか少ないかでしかない。気にしないでいいさ」
……ボディラインは褒めてくれたけど、春樹の評価基準って結局「筋肉」だからなぁ。
「成績は脳筋の春樹より上だろ? 問題ないさ」
いやいや、煩悩の塊のアンタ(夏向)よりは上だからね! それより私のショーツ嗅ぐのいい加減にしなさいよ(泣)!
「特技なんて個性だよ。冬香は人を惹きつけるカリスマを持っている。何より、そのポジティブな行動力が魅力なんだよ」
※秋也は、冬香の底抜けのバカさ加減(能天気さ)を「ポジティブ」と言い換えることで、最大限にオブラートに包んでくれているのだった。
すると、秋也が近くの席を引き寄せて腰掛け、私を見上げるように話しかけてきた。
「ファンからのお願いなんだ、冬香。その机の上に座ってくれないか? 君の姿をもっとよく見たいんだ」
そう言って、自分の目の前にある机を指さした。
——私には分かっていた。そんなところに座ったらどうなるかくらい。
夏向がさっきから熱望していた『性教育の生教材』に成り下がってしまうことくらい……!
当然、そんな要求に従う義務なんてどこにもない。断固として拒否すべきだ。
……なのに。
私は吸い寄せられるように言われるがまま机へと腰掛け——あろうことか、頼まれてもいないのに自ら大きく足を広げてしまった。
どうせ全ての尊厳を失ったのだ。こうなったら落ちるとこまで落ちてやる。
※自暴自棄の極みに達した冬香が自ら進んで崖から飛び降りる瞬間である。
座っている秋也のちょうど目の高さへ、完全ノーガードの『生教材』として自分自身を放り出す格好になった。
「うおおおっ、秋也ずるいぞ!」「俺にも見せろ!」
それまで呆然としていた脳筋(春樹)と煩悩の塊(夏向)が慌てて秋也の隣へと滑り込み、食い入るように覗き込んできた。
3人とも、普段の授業や定期テストの時ですら一度も見せたことがないような、驚くほど真剣で純粋な眼差しをこちらに向けているのだった。
男の視線がどこを見つめているかを、女はなんとなく悟ってしまうのだ。視線が突き刺さるまさにその無防備な場所に、エアコンの乾いた風が容赦なく吹き抜ける。
そのひんやりとした感触は、恥ずかしさで淫らに火照ってしまった身体を、どこか意地悪く乾かしていくようだった。
「おぉ、そういえば」
静寂を破って、春樹が突如として立ち上がった。
何事かと思っていると、彼は私の後ろへとぬるりと回り込む。私を含めた3人が頭の上に大量の「?」を浮かべるのを尻目に、春樹は平然と言い放った。
「冬香、お前の胸筋触るぞ。いいよな」
「なんですと!?」
叫ぶ暇すら与えられず、後ろから両手が伸びてきて私の無防備な胸を鷲掴みにした。
「いいわけないでしょ! イヤーーーッ! おっぱい揉まないでぇーっ!!」
しかし、脳筋に他人の悲鳴を聞き分ける耳などついていない。
「随分柔らかいな。鍛え方が全然足りないぞ(笑)」
「おっぱいを鍛える女子がどこにいるのよ……っ! そもそも勝手に触っていいと思ってんの!?」
涙目で抗議する私に、春樹はさも心外だと言わんばかりに首を傾げた。
「おっぱいじゃないぜ、胸筋だよ。だいたい、冬香だって前に俺の腹筋触っただろ? 自分でおさわりOKルールを作っておいて、今さら何を問題にしてるんだよ」
「うぐっ……っ!?」
不意を突かれた。
——そうだ、ゲームの序盤で春樹の腹筋をペタペタ触ったのは、紛れもなくこの私だ。あの時の行いが、まさかこんな形で特大のブーメランとなって突き刺さるなんて。
「……おっ、おっぱいは……筋肉じゃないから……っ」
脳筋のガバガバな屁理屈に完璧に論破され、私は惨めすぎる言い訳を絞り出すのが精一杯だった。
そんな春樹の様子をうらやましそうに指をくわえて見ていた夏向が、にやりと下卑た笑みを浮かべて前に進み出た。
「そうか、筋肉なら触っていいのか」
——今度は何!? 煩悩までよからぬことを企んでいるの!?
「なぁ春樹、ここの筋肉って何て言うんだ?」
やっぱりよからぬことじゃない!! 夏向が指し示したその場所は、私にとっての絶対不可侵領域、何があっても死守すべきアンタッチャブルな聖域だった。
「そ、そんなところに筋肉なんてあるわけないでしょ!!」
私は絶叫して身をよじったが——。
※(厳密に言えば、大臀筋や内転筋といった周辺の筋肉は存在するが、そこに単独の「触れる筋肉」など本来はない)
「あぁ、そこか。そこは『骨盤底筋』だな」
※(もちろん骨盤底筋は骨盤の底にあるインナーマッスルであり、外から直接触れるような代物ではない。春樹は「どうせ誰も詳しくなんて知らねぇだろ」というノリで、適当なそれっぽい専門用語を捏造しただけである)
「なるほど! じゃあ俺は、その骨盤底筋をバッチリ触らせてもらうぜ」
「ちょっ、待ちなさいよーーっ!!あーーっっ!!!」
私の必死の抗議も虚しく、自ら晒け出してしまった聖域は、煩悩の塊によってあっけなく汚されてしまうのだった。
「おぉぉっっ!! こうなっていたのか……!」
押し開かれた奥の屈辱的な部分を目にして、夏向が露骨に煩悩全開の声を上げる。すると、それまで涼しい顔をしていた秋也が、やおら冷ややかに言い放った。
「おい、ここはR-15だぞ。春樹も夏向も、少しは自重したほうがいい」
「何言ってんだよ、俺たち全員もう18を過ぎた大人だぜ?」
「大人なら、余計にわきまえなきゃいけないことがあるだろ。ほら、『大人の事情』ってやつをさ」
※もちろん、R-15の倫理規定でこれ以上の暴走は描けないという「大人の事情」である
——そうクールに諭しながら、夏向の背後から身を乗り出し、開け放たれた奥の秘域を誰よりも真剣にガン見しているのは一体どこのどなたですかね、秋也くん!?
ううっ、まずい。夏向が盛大に押し開くもんだから、一番敏感な突起へダイレクトにエアコンの冷たい風が撫でていく。
おまけに春樹が容赦なくおっぱいを刺激してくるから、なんだか頭がふわふわしてきた……。
※冬香の脳内で、いけないドーパミンが盛大ないたずらを始めかけている。
「そっかぁ……みんな、私のファンなんだぁ……」
頭がとろけかける中、私の思考はあらぬ方向へ暴走し始める。
——おまけに、私のこの素晴らしい身体で3人とも夢中にさせている。
これって、乙女ゲーなら攻略対象のイケメン3人を同時に陥落させたってことよね!?
やったー! 考えてみたら、本当は私の大勝利、正真正銘の勝者なんじゃない――!
※冬香はここで脳内頂点に達したが、R-15の倫理規定により強制的に自主規制された。
……ハッ!?
——ようやく我に返り、冷や汗とともに冷静に考え直す。
た、確かに、3人とも私の体に夢中かもしれないけれど……。
こんな全裸の変態スタイルで3人にしゃぶり尽くされている私は、人間としての人生において、紛れもなく歴史的大敗北なのではーーーっ!!??




