【第5章】 策士の小細工と、調子に乗った乙女脳
「よーし、次! さいしょはグー!」
「「「じゃんけんポン!」」」
【勝者】 夏向:グー ✊ / 秋也:グー ✊
【あいこ】 冬香:チョキ ✌️ / 春樹:チョキ ✌️
「あいこで、ショ!」
【勝者】 冬香:グー ✊
【敗者】 春樹:チョキ ✌️
「うわっ、俺かよ!」
思わぬ敗北に、春樹が声をあげた。
「ちぇー、ついてねえな」
春樹は苦笑いを浮かべながら、豪快にブレザーを脱ぎ捨てて床に放り投げる。
ブレザーの下から現れたのは、体育の授業で着ていた半袖の体操着Tシャツだ。
(ほら見なさい! 男子はもう制服の下が体操着なんだから!)
脱ぎ捨てられたブレザーを見つめながら、私は心の中でガッツポーズを決める。
男子のカード(枚数)はこれで一気に削られた。脱ぐものがなくなれば、その時点で男子の敗北だ。
(ふふっ……私の『重装備戦略』は間違ってなかった! やっぱり私の勝ち確定じゃない!)
勝利を確信して鼻高々になっていた私だったが——勝負の神様は思いのほか気まぐれだった。
「さあ、どんどんいくぞ! さいしょはグー、じゃんけんポン!」
【勝者】 春樹:グー ✊ / 秋也:グー ✊
【あいこ】 冬香:チョキ ✌️ / 夏向:チョキ ✌️
「あいこで、ショ!」
【勝者】 夏向:パー ✋
【敗者】 冬香:グー ✊
「あ……」
「よしっ! 冬香、ブレザー脱いで!」
「うぐぐ……」
春樹の嬉しそうな声に促され、私は渋々ブレザーのボタンを外して脱ぎ捨てる。
けれど、私にはまだカーディガンという厚い壁がある。余裕余裕、と自分に言い聞かせて次の手を握りしめた。
「さいしょはグー、じゃんけんポン!」
【勝者】 春樹:チョキ ✌️
【あいこ】 冬香:パー ✋ / 夏向:パー ✋ / 秋也:パー ✋
「あいこで、ショ!」
【勝者】 夏向:グー ✊ / 秋也:グー ✊
【敗者】 冬香:チョキ ✌️
「嘘でしょ!?」
「はい、冬香連敗〜! 次は何脱ぐの?」
「……カーディガンです……」
ニヤニヤと視線を送ってくる男子たちの前で、私はカーディガンを脱ぎ捨てた。
一気に二枚の防具を奪われ、上半身は薄手のブラウス一枚になってしまう。ひんやりとした視聴覚室の空気が、ブラウス越しに肌へ伝わってきて身震いが出た。
(やば……急に涼しくなってきた。でも、私にはまだブラウスの下に体操着が控えてるんだから!)
必死に自分を励ます私に、再びチャンスが巡ってきた。
「さいしょはグー、じゃんけんポン!」
【勝者】 冬香:チョキ ✌️ / 春樹:チョキ ✌️ / 秋也:チョキ ✌️
【敗者】 夏向:パー ✋
「よっしゃーー!!」
「あー……負けたか」
ついに夏向が負け、私は思わずガッツポーズを突き出した。
夏向はため息をひとつ吐くと、かがんで自分の上履きをゆっくりと脱ぎ始めた。
「あ、夏向もう裸足じゃん!」
上履きを脱いだ夏向の足元を見て、私は思わず声をあげた。
クールな見た目に反して、夏向は今日、靴下を履いていなかったのだ。……というか、よくよく男子全員の足元を見てみれば、春樹も秋也もそろって靴下を履いていない。
体育終わりの男子たちにとって、靴下を履くのは面倒だったらしい。つまり男子たちの足元は、靴を脱いだ時点でもう素足確定ということだ。
(ちょっと待って……男子たち、手札少なすぎじゃない!?)
男子たちの枚数の少なさに気づき、私の心の中にふたたび強烈な勝利の予感が湧き上がる。
「よーし、この調子でどんどんいくよ! さいしょはグー、じゃんけんポン!」
【あいこ】 冬香:パー ✋ / 春樹:チョキ ✌️ / 夏向:グー ✊ / 秋也:パー ✋
「あいこで、ショ!」
【勝者】 春樹:グー ✊ / 夏向:グー ✊ / 秋也:グー ✊
【敗者】 冬香:チョキ ✌️
「あぐっ……!」
また私!?
次は何を脱ぐべきか——ふと自分の胸元に視線を落とした瞬間、私の脳内に極上の名案がひらめいた。私はニヤリと悪魔のような笑みを浮かべる。
そして、制服の首元についているスカーフリボンを結び目からスルリと解き、ドヤ顔で床に置いた。
「はい! 負けたから1つ脱ぎました〜!」
「いやいやいや! お前それズルだろ! 服脱げよ服!」
「そうだよ、リボンなんてカウントに入るわけないだろ!」
「小物で枚数稼ぐとか汚ぇぞ冬香!」
すかさず男子三人から大ブーイングのツッコミが飛んでくる。けれど、私はすんとすました顔で胸を張った。
「え〜? 『身につけているものを1枚脱ぐ』ってルール提案したの夏向じゃん! リボンだって立派に身につけてるアイテムだし! そもそも最初に上履き脱いだとき、誰も文句言わなかったでしょ?」
「うっ……」
「それはそうだけど……」
正論(屁理屈)を叩きつけると、男子たちは言い返せずにぐぬぬと口ごもった。よし、押し切った!
(ふふん、頭脳戦なら私の勝ちね!)
調子を取り戻した私は、ノリノリで次の拳を握りしめた。
「さあ次! さいしょはグー、じゃんけんポン!」
【勝者】 冬香:グー ✊ / 夏向:グー ✊
【あいこ】 春樹:チョキ ✌️ / 秋也:チョキ ✌️
「あいこで、ショ!」
【勝者】 秋也:チョキ ✌️
【敗者】 春樹:パー ✋
「よし、春樹の負け!」
これで春樹も靴を脱ぐことになるだろう——そう高を括っていた私は、次の瞬間、あっけにとられることになった。
なんと春樹は、靴ではなく体操着Tシャツの裾を掴むと、一気に頭から脱ぎ捨てたのだ。
しかも下にはアンダーシャツを着ていなかったため、一瞬にして上半身裸になってしまった。
「どうだぁ〜! 俺の鍛え抜かれた筋肉を見ろ!!」
バッと両腕を掲げてポーズを決める春樹。
言い張るだけのことはあり、そこには引き締まった厚い胸筋と、綺麗に割れた見事なシックスパックがお目見えしていた。
「すご〜い!! ねぇ春樹、腹筋触っていい!?」
「おう、いいぜ! 遠慮なく触ってみな!」
あまりの肉体美に、私はすっかりゲームの罰であることを忘れ、興味津々で春樹のお腹に手を伸ばした。
「あっ! 思ってたほどカチカチじゃない……! しっかり固いのに、表面はすごく弾力がある……♡」
男の子の生の筋肉という未知の感触に、私の心臓はドッキドキだ。
すっかり勝ち誇り、自分が圧倒的優位に立っていると信じ切っていた私は、イケメンの肉体を堪能しながら完全に油断しきっていたのだった——。




