【第4章】 策士の皮算用と、冷たい床の感触
「……本当にいいんだな? 途中でタイムとか無しだぞ」
ゴクリと喉を鳴らした夏向が、本気になった目で私の顔を見つめてくる。春樹も秋也も、どこかソワソワとした様子で自分の拳を見つめ始めた。
「タ、タイム無しって……つまり……?」
私はあえて少し怯えたような表情を作って問いかけてみる。すると、腕組みをした春樹がニヤリと力強く笑った。
「全身の筋肉を余すところなく披露するまで戦うってことだよ!」
(……???)
いやいや、それ脳筋のあんた基準だと『全裸=頭の中身まで丸裸』ってことだからね!?
心の中で激しくツッコミを入れていると、夏向が真顔で言葉を重ねた。
「春樹の筋肉見せたがりはいいとして……冬香、覚悟はいいか? 『全部』だぞ」
「夏向、だからそれがフツーにセクハラだって」
紳士的な秋也が即座に諌めてくれたけれど、残念ながら秋也以外の二人はすでに完全にフラグを立ててやる気満々だ。
けれど——私の心の中では、勝利の確信がさらに深まっていた。
男子たちの服装は、半袖の体操着上下の上にブレザーを羽織っただけの軽装。
対する私は、半袖の体操着(Tシャツ&ハーフパンツ)を着た上に、さらにブラウス、カーディガン、スカーフリボン、そしてブレザーまでバッチリ着込んでいる完全防備の超重装備。
靴下や下着まで含めれば、持っている手札(枚数)がまるで違うのだ。
(ふふっ……枚数差は歴然。私が負ける要素なんて、どこにもないわ!)
「なぁ〜んだ、要するに負けなければいいだけじゃない。やりましょう、今すぐ!」
「待て、このままだと服の枚数が……」
頭の回転が速い秋也が、何かに勘づいたように制止の声をあげかけた。
けれど、ここで思考を挟まれてルールを見直されたら面倒だ。邪魔されないうちに始めてしまおう!
「さいしょはグー!!」
「「「っ!?」」」
私の強引な掛け声に押され、男子三人が慌てて右拳を突き出した。
「じゃんけんポン!」
【あいこ】冬香:チョキ ✌️ / 春樹:グー ✊ / 夏向:グー ✊ / 秋也:パー ✋
「あいこで、ショ!」
【勝者】春樹:グー ✊ / 夏向:グー ✊ / 秋也:グー ✊
【敗者】冬香:チョキ ✌️
「あ、負けた……」
「よっしゃー! まずは冬香の負けな!」
思わずニヤけた歓声をあげる男子たち。
「まあ最初だしね」と私は余裕の笑みを浮かべながら、右足と左足の上履きを脱いで脇に寄せた。枚数調整用の小物が手元にある強みだ。
「さ、次! さいしょはグー、じゃんけんポン!」
【勝者】 秋也:パー ✋
【あいこ】 冬香:グー ✊ / 春樹:グー ✊ / 夏向:グー ✊
「うお、秋也ひとり勝ち抜け!」
「残った三人で勝負な! あいこで、ショ!」
【勝者】 春樹:チョキ ✌️ / 夏向:チョキ ✌️
【敗者】 冬香:パー ✋
「マジで!? また私!?」
「冬香、開幕2連敗じゃん(笑)」
「うぐぐ……」
私は渋々ソックスのゴムをつまみ、すーっと引き抜いて素足を丸めた。
ひんやりとした視聴覚室の床の感触が、裸足の足裏に直接伝わってくる。
(う……足元が急に寒い。でも大丈夫、まだ本命の服には指一本文すら触れさせてないんだから!)




