【第3章】 策士・冬香、まんまと罠に……?
静まり返った部屋に、エアコンの薄い送風音だけが響いている。
何か暇つぶしはないかと考えを巡らせていたとき——ふと、私の頭の中にいたずらな悪だくみが浮かんだ。
いま、この部屋にいるのは男子三人と、女子の私ひとり。
男子達は半袖の体操着の上に、薄手の制服を羽織っているだけの姿だ。
(……じゃんけんで、勝負?)
負けたやつが、服を脱ぐ。
王道で、ちょっと破廉恥で、男子なら絶対に食いつく罰ゲーム。
「ねえ、じゃんけんでもする?」
できるだけ思いつきを装って、軽いトーンで提案してみる。
「じゃんけん? 子どもじゃあるまいし……」
春樹が可笑しそうに笑いかけて——途中でピタリと口を止めた。
「……いや、大人もするか。……でも……」
春樹の視線が泳ぐ。
壁に寄りかかっていた秋也も、棚の角に座っていた夏向も、一瞬で顔つきが変わった。
部屋の空気が一気に張り詰める。
『ただのじゃんけん』であるはずがない。
このシチュエーションで、男女で、サボりの最中で、暇をつぶすための罰ゲーム。男子たちの脳裏にも、間違いなく“あのルール”が浮かんだはずだ。
(……感づいたな)
でも、男子たちは言い出す踏ん切りがつかないらしい。
そりゃそうだ。自分たちから「負けたら服脱ごうぜ」なんて女子相手に言ったら、ただのスケベでデリカシーのない奴だと思われてしまう。
(さすがに、女子の私から『脱ぎサバイバルね』なんて直接言い出せるわけないじゃん……!)
チラリと彼らの様子を窺う。
気まずそうに目を逸らす秋也と、どこか期待を込めたような目でこちらを伺う春樹、そして真顔のままゴクリと喉を鳴らした夏向。
男子たちに自爆(=あっちから言わせる)してもらうには、どうやって誘導すればいいんだろう。
私は心臓の鼓動を悟られないよう、すんとすました顔で彼らをじっと見つめた。
(そうだ! 最初から本命を言うんじゃなくて、絶対に無理な案を叩きつけてから『出来そうなもの』に落とし込んでいけばいいんだ)
私は心の中でニヤリと笑い、さも思いつきのように指を立てた。
「じゃあ……お金でも賭ける? 一回負けたら10万円とか」
「「「いや! 絶対無理!!」」」
見事なハモりを見せて、三人揃って即座に首を横に振った。
「そんな金持ってるわけないだろ!!」
「そもそもお前、そんな大金持ってるのかよ」
春樹の威勢のいい反論に、秋也の呆れ顔のツッコミが飛ぶ。
「全っく無い(笑)」
あっけらかんと答えた私の能天気さに、男子三人は脱力したように肩をすくめた。
よし、流れは完全にこちらに向いている。私はあえて困ったような顔を作ってみせ、小悪魔っぽく首を傾げてみせた。
「じゃあ……お金がダメなら、なになら差し出せる?」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、最初に食いついたのは春樹だった。
「俺は全裸を賭けるぞ!!」
「「……は?」」
体育会系脳筋全開の発言に、夏向と秋也の冷ややかな視線が突き刺さる。けれど、当の春樹は本気と書いてマジな顔で鼻息を荒くしていた。
「1回負けただけでいきなり全脱ぎとか、流石に引くわぁ……」
あまりに極端すぎる春樹の提案に、私が引いたフリをして溜め息をついてみせると、それまで黙って観察していた夏向が、じっと私の全身に視線を走らせながら低く呟いた。
「……じゃあ冬香は、1枚だけなら脱げるか?」
「夏向、それフツーにセクハラな」
「あ、待って秋也。私は1枚ずつだったら、全然大丈夫よ?」
男子たちに怪しまれないよう、あくまで「大したことじゃない」といった風を装って余裕の笑みを浮かべてみせる。
(フッ!計画通り)
この時の私の顔は、きっとノートに名前を書く人みたいに恐ろしいまでに悪い顔をしていたと思う。




