【第2章】 ノープランな密室と保健体育の発展編?
薄暗い視聴覚室に入ると、ひんやりとした独特の空気が肌を撫でた。外の日差しを遮る厚いカーテンのせいで、ここだけ少し時間が止まっているかのようだ。
鍵がかかっていないのを確かめて中に入るなり、夏向が迷いもなく棚へ向かった。ずらりと並んだVHSテープやDVDのケースを片っ端から漁り始める。
「なにしてんの、夏向」
春樹が可笑しそうに覗き込むと、夏向は真面目な顔のまま棚の奥を探りつづけた。
「エロい奴は無いかと思って」
「ここ学校だぞ! 教材にそんなもんあるわけねーだろ!」
即座に飛んできた秋也の鋭いツッコミに、夏向は「ワンチャンあるかもしれないだろ」と平然と返している。いつものクールな雰囲気からは想像もつかないおバカな発言に、私は思わず呆れ半分で口を挟んだ。
「……仮にあったとして、そもそもそれ何を教える教材なの?」
私の冷ややかな問い詰めに、夏向の手がぴたりと止まる。
春樹は大爆笑し、秋也も「言われてやんの」と肩を揺らした。
「……保健体育の、超・発展編?」
夏向が真顔で繰り出した苦しい言い訳に、薄暗い視聴覚室の中が一瞬で笑いに包まれた。男子たちの飾らない素顔を間近で感じて、私の胸は密かに高鳴っていた。
夏向の苦しい言い訳にひとしきり笑った後、私たちは一転して途方に暮れることになった。
当たり前の話だが、ここは学校の視聴覚室だ。テレビやスクリーンなどの機材は、先生が持っているマスターキーを差し込まなければ電源すら入らない仕組みになっている。
棚にずらりと並んだDVDも、ただの黒い箱と化している大型モニターの前では何の意味もなさない。
当然、ゲーム機なんて気の利いたものが転がっているわけもなく。
スマホも本来は緊急連絡用として持ち込みが許可されているだけで、朝のホームルームで教務室に預けるのがこの学校のルールだ。今手元には何ひとつ暇つぶしの道具がない。
つまり——ー自習が終わるまでの残り40分足らず、私たちはこの薄暗い部屋で、完全にやる事がないのだ。
「……まじで何もねぇな」
春樹が大きな欠伸をしながら、床にペタリと座り込んだ。
「だから言ったろ。サボるにしたってノープランすぎるんだよ」
秋也が呆れ顔で壁に背を預け、夏向は諦めたように棚の角へ腰を下ろす。
カーテンの隙間から差し込む秋の斜光が、静まり返った部屋の埃をキラキラと浮かび上がらせていた。
何もすることがない、静かな小一時間。
薄暗い部屋の中で、憧れの男子三人と同じ空間を共有しているという事実だけが急に際立って感じられ、私は急にどう座っていればいいのか分からなくなってしまった。




