第9話 初重賞制覇!!
(そ、そんなお気楽に鼻歌交じりで…。後ろから並ばれる、並ばれるぞ!!………うんっ!?へっ!?並ばれない?)
残り400m付近から坂に差し掛かる。
一向に並ばれる気配がない。
後ろをチラ見して確認する。他馬は鞭を入れられ、激しく手綱をしごかれている。しかし、一馬身ほどに迫られていた差が、むしろ広がっていた。
持ったままのフブキが坂を駆け上がる。
歓声が聞こえてきた。
坂を上り終え、もう一度後ろを確認する。2番手は遥か後方、5馬身ほどの差ができていた。
そのまま持ったままでゴールを駆け抜けた。
さらに大きな歓声が聞こえてきた。
(こんなあっさりと…信じられない!!俺の重賞初勝利!!)
俺は無意識に小さくガッツポーズをしていた。フブキの首筋を『ポンポン』と叩いて讃える。
(ありがとう、フブキ!!)
(ふんっ!!歯応えが無さすぎる!!これでは毎日の調教と同じではないか)
(まあ、まあ。来年の春にはもっと強い相手が出てくるよ)
(まあ良い。今日は真白、お前に経験を積ませた事で良しとする!!)
俺は検量室前まで行き下馬する。
(真白、おめでとう!!)
(真白君、おめでとう!!ありがとう!!)
先生と美雪さんと握手を交わし後検量を行う。その後は表彰式のためウイナーズサークルへ。多くのファンから大きな拍手と歓声で迎えられたのだった。
都内某所で祝勝会が行われた。俺もだが、美雪さんにとっても重賞初勝利だったので、なかなかに盛大に行われた。
(重賞の賞金が無くなってしまうのでは?)
貧乏性の俺はそんな無粋な心配をしてしまう。
当の美雪さんは賞金などに興味はなく、純粋にフブキの重賞制覇が嬉しいようだった。
「見て見て!!」
スマホを手に俺に体を密着させてきた。
自身のSNSのアカウントを開き、コメントを見せてきた。
「お姉様、おめでとうございます」
「持ったままだとっ!?」
「白毛の怪物爆誕!!」
「三冠馬決定」
「秋の東京競馬場に猛フブキが吹き荒れる!!」
「イイウマデスネ」
「うふふふっ、三冠馬なんて言われてるわよ!!」
お酒が回った美雪さんが嬉しそうに俺にしなだれてきた。
俺は『美人なんだけど…歳が…母親より…上なのは…なかなか…難しい』と思わず肩に手を回しそうになるが、慌てて引っ込める。
取り巻きの美人秘書軍団も鬼の形相で俺を睨みつけている。
(そんな気ないって!!一瞬の気の迷いだよ!!)
俺は美人秘書軍団に向かって首を振る。
「ふふふっ、意気地なし。年上の女性もいいものよ」
美雪さんは俺をからかうように呟き、化粧室に消えていったのだった。
(いやいやいや!!さすがに二倍以上の歳の差は…。美雪さんは美人で魅力的なのはもちろんの事、とても尊敬できる女性だとは思っていますが、さすがに厳しいですよ!!)
俺は美雪さんの後ろ姿に言い訳をしたのだった。
水曜の朝、俺はフブキに会うためにトレセンに向かった。
ただ、しばらくは引き運動やプールなどの調整だけなので乗る予定はない。
先生や厩舎のみんなに挨拶し、早々と馬房に向かった。
(おはよう。疲れは無い?)
(…我はもうダメかもしれん)
(ど、どうした!?怪我でもしたのか!?)
俺は驚いて荷物を落とした。
フブキは馬房の中でうなだれている。
(りんごが…りんごが無いんだ!!)
俺は思わずコケるが、落とした荷物を拾う。
(そんなフブキに朗報です!!)
俺はそう言って落とした袋からリンゴを取り出した。
(お、おおおぉぉぉ~!!真白、やるではないか!!)
首を激しく振り喜ぶフブキがやけに可愛い。
俺は笑顔でりんごを切り分けていく。
(うおおおぉ~、美味い、美味いぞ!!いつものより、比べ物にならないくらいに美味い)
(これはサンふじといって、超高級りんごなのだよ。初の重賞勝利の賞金で買ってきたんだ。ほとんどフブキのおかげなんで、遠慮しないで食べてくれ)
(うむっ!!愛い奴じゃ。もっと切るがよいぞ!!)
(あはははっ、食べ過ぎるなよ!!)
俺はまるで親友と話をするようにフブキと会話を続ける。
(昨日、東京スポーツ杯2歳ステークスの祝勝会があったんだ。その時、美雪さんが俺にしなだれかかってきたんだけど…)
(おっ!?あの女馬主に種付けをしたのか?)
(た、種付けって!?するわけが無いだろう!!)
(なぜであるか?雄と雌がいい雰囲気になったなら、する事は一つであろう!!)
(馬鹿を言うな!!美雪さんは母親よりも歳が上なんだぞ!!)
(………それは、ちと…厳しいのであるな)
(それに美雪さんが俺をからかっただけなのか…よく分からん)
(わはははっ、真白、お前は騎手としても二流だが、男女の駆け引きでも二流なのだな!!)
(………笑うな!!)
(こういう時は本能のままに行動すればよいのだ。したければ、後先考えずにしてしまえばいいのだぞ!!)
(人間は動物じゃない。美雪さんと俺は馬主と騎手の関係。何かあると、この先の人間関係が微妙になるんだよ)
(おっ!?人間が得意の『空気を読む』というやつだな。真白、お前はレースでの空気を読めるようにならんとな!!)
(くっ!?言いたい事を言いやがって!!)
(わはははっ、本当の事であろうが!!)
(大体、お前も新馬戦の時『馬っ気』を出しながら牝馬に近づいていたよな?あれにはセクシーボイスという牝馬もドン引きしてたぞ)
(…嘘であろう?喜んでいなかったか?)
(喜んでないよ!!『うわっ!?変なの来た!!』という顔をしていたよ)
(マジかっ!?)
(マジだ!!)
フブキはあからさまにショックを受ける。
(我…セクシーボイスちゃんに嫌われたのか?)
(そこまでは分からないが、良い印象は無いだろうな)
(確かに…調教で見かけた時も、どことなくよそよそしい雰囲気だった。我は『照れているな!!愛い奴である!!』と思っていたのだが…。真白、どうしたらいいのだ!?我はセクシーボイスちゃんに嫌われたくはないのだ!!)
(…とりあえず、ところ構わず『馬っ気』を出すのは止めろ。あれでは変質馬だぞ)
(へ、変質馬…だとっ!?)
(そうだ。牝馬に接するときには、紳士的に振舞え)
(…うむっ。善処する)
(まあ、俺たちも女性の扱いに関しては、お互いに二流、三流だな)
(…で、あるな)
なぜか俺はフブキと分かり合い、最終的には慰め合うのであった。




