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吹雪とフブキ  作者: 爆進王


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8/22

第8話 尻派と胸派

 心配していた輸送も無事にクリアをし、レース当日となった。




 前走とはうって変わって青天。どこまでも透き通った秋の青空が広がっていた。




 レースの時間が近づいてきてパドックへと向かう。




 緊張した面持ちの美雪さんが、心配そうにフブキを見つめている。先生もその場にいるのだが、美雪さんの取り巻きの美人秘書軍団に囲まれ、少し居心地の悪そうな顔をしていた。





「先生、フブキの様子はどうですか?」




「真白か。初めての東京競馬場なんで、少し落ち着きがない。レースまでに落ち着けばいいんだがな…」





 先生はフブキの馬体を確認しながら言う。





「真白君、私、初めての重賞レースなの。もう胸が『ドキドキ』して、張り裂けそうなのよ!!フブキちゃんの競走成績は問わないと言ったけど、やっぱり勝ちたいわ!!」





 美雪さんは自分のご立派な胸に手を当て言う。今日の美雪さんはかなりタイトなニットセーターを着ていて、胸の大きさがひときわ強調されていた。





(美雪さん、なかなかの物をお持ちで!!本当に40代後半!?)





 俺は美雪さんの胸に釘付けになる…が、取り巻きの美人秘書軍団の厳しい視線を感じる。殺意のこもった視線が俺に突き刺さり、俺は途端に落ち着きを無くす。




 騎乗合図がかかりフブキの元へ向かうと、フブキも落ち着かない様子で周りを見渡していた。




 『初めての東京競馬場で落ち着かないのかな?』と思い、リラックスさせるために首筋を撫でながら話しかける。





(フブキ、初めての長距離輸送はどうだった?問題はなかった?)




(んっ!? 何だ…真白か)




(何だ真白かって…。お前が落ち着かない様子だから心配しているんじゃないか!!)




(ふんっ!? 狭くて少しイラッとしたが問題などない。そんな事よりセクシーボイスちゃんがいないではないか!!セクシーボイスちゃんだけではなく、牝馬が一頭もいないぞ!!むさくるしいヤローしかいない。これはどういう事だ!!)





 俺はフブキが落ち着かない理由が分かりコケる。





(セクシーボイスはこのレースに出走しない。あの馬は未勝利戦も勝ち上がっていないんだぞ。いるわけがねえよ!!それにこのレース、元から牝馬は出走の予定はない)





 俺は牝馬を探すフブキを見てあきれ果てる。





(チッ、つまらん!!我の『アレ』も縮みあがるわ!!)





 そんな暴言を吐き捨てるフブキ。





(はいはい。そんな事より、このレースは種牡馬になるための大事なレース。このレースに負けるようだったら、種牡馬への道が遠のくぞ!!)




(そんな事とはなんだ!!お前だって馬主の胸に釘付けだったであろう!!)




(なっ!?そ、そんな事は…)




(無いとは言わせんぞ!!)




(…ある)




(わはははっ、素直で良いぞ!!お前の気持ちはよく分かる。我は尻派だけどな!!)





 フブキはご機嫌になり『尻っぱね』を繰り返す。




 俺はフブキをなだめながら、厩務員さんに足を支えてもらい騎乗する。





(胸派か尻派かは置いといて、レースの話をしよう。東京競馬場は阪神競馬場とは違い左回りだ。フブキは問題無く手前を変えられるから大丈夫だとは思うが、コーナリングの感覚が違うから気を付けてな。)




(問題ない。むさくるしいヤロー共を蹴散らしてやるわ!!)




(まあまあ、折り合いが大切だよ。折り合いな)




(真白、お前はただの重しなのだ。黙って手綱を握っていれば良い)




(………そんな事言うなよ)





 俺とフブキはパドックから本馬場へと移動し、返し馬に入った。




 東京競馬場の馬場は二連続開催の終盤という事で、内のほうは少しボコボコとしていた。




 俺たちは5枠9番だったので『少し外目を通ろうかな。いや、距離ロスを最小限にするために内ラチピッタリにしようか』と、輪乗りの最中に考える。




 ゲートに収まる。





(今回は出遅れないようにしないと…)





 俺の思いとは裏腹に、フブキは絶好のスタートを決める。





(う、うわぁぁぁ~!?、逃げるな、逃げるな!!)





 俺は手綱を引き下げようとする。




 フブキが首を高く上げ激しく振る。





(なぜ素直に行かせん!!)




(逃げるんじゃなくて、馬群の中に入って『ジッ』と耐えるレースをしたいんだ。だから少し下がろう)




(馬鹿かっ!!抜群のスタートを切ったのに自分からわざわざ下がるというのか!!)




(でも…先々を見据えるのなら…)




(先々を見据える?偉そうに!!お前は我を気持ち良く走らせる事だけを考えればよいわ!!)




(騎手の役目としてレースを教えないと…)




(レースを教えるだぁ~。真白、お前が我にレースを教えるのではない!!我がお前にレースを教えるのだ!!二流騎手が!!)




(…すまん)





 俺は言い返せなくなり謝る。




 レースは内から押して押して先頭に立つ馬がいたので、俺とフブキは二番手でレースを進める事になった。




 俺とフブキは折り合いを取り戻し、2番手で追走する。




 気分良さそうに走るフブキ。鼻歌が聞こえてきそうであった。




 大榎が近づいてきた。





(なかなかの大木であるな!!我のような圧倒的な存在感である!!)





 3コーナー手前でフブキが言う。





(昔はあの大榎と大欅が並んで立っていたんだ。ただ、大欅のほうは台風で倒れてしまったという話だよ)




(そうなのか、それは残念なのである)





 フブキは持ったままで4コーナーを回り、直線に差し掛かるところで先頭に並ぶ間も無く交わしていく。





 だが俺は『後ろから迫って来るぞ!!』と焦る。





 俺の叫びにもフブキは動じる事はなく、鼻歌交じりに直線を駆け抜けていくのであった。

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