第7話 目標は東京スポーツ杯2歳ステークス!!
「…一気に重賞レースですか」
美雪さんが考え込む。
「どうした?美雪嬢。初めて馬を預かる事になった時『絶対に重賞レースを勝ちたい!!』と言っていたじゃないか?」
「確かに言いました。その思いは今も変わっていません。今日のレースが良馬場での勝利だったら素直に『重賞でも!!』と思えるのですが…。不良馬場だったので、もう1レースは様子を見ても遅くはないかと、正直思っています」
「う~ん、その意見は分からないでもない。正直に言って難しい判断だと思う」
「一勝クラスの百日草特別(東京)や紫菊賞(京都)、リステッドまで広げればアイビーステークスも候補になるんじゃないかしら?」
考え込む二人。
「真白君、あなたは主戦騎手としてどう思っているの?意見があるなら構わないわ、言ってちょうだい」
美雪さんが俺に意見を求める。
「フブキは良馬場でも問題無く能力を発揮できると思います。いや、むしろ良馬場のほうが良い。何も問題は無いと思います。俺としては正直に言って、ホープフルSに乗りたいです。もしクラシックを見据えて、俺をこのまま主戦騎手として乗せてもらえるなら、GⅠを一度経験しておきたいという気持ちがありますから」
「まあ、吹雪、俺がお前の立場でもホープフルだろうな。なんせGⅠ未勝利どころか、騎乗経験すらないのだからな。だがそれはあくまで騎手の立場。調教師としてはクラシックを本気で見据えるなら、一度、東京競馬場を経験させておきたいというところが本心だ」
再び美雪さんが考え込む。
そして『カッ』と目を見開く。
「決めました!!未勝利でも種牡馬入りは決定していましたが、少し欲が出てきました!!来年のダービーを目標にし、東京スポーツ杯2歳Sに出走させましょう!!」
「よっしゃ!!」
「分かりました!!」
『うおおおぉ~~!!』
次走が決まり、祝勝会は盛り上がる。
俺は『ここぞ!!』とばかりに高級ワインを飲みまくるのであった。
翌朝、眠い目をこすりながらトレセンへと向かう。
日曜日で競馬が開催しているので人が少ない。
騎手の俺がここにいてはいけないのだが、騎乗依頼が無いので仕方が無かった。フブキもレースを走った翌日という事で、歩様や脚元のチェック、獣医さんによる検診などが行われ運動はしない。
馬房へと向かう。
(フブキ、おはよう)
(うむっ!!りんごをくれ!!)
(分かってるよ)
俺はリンゴを切り分けながら、フブキと話をする。
(昨日のレース、ありがとう。俺はただ乗っていただけで、100%フブキのおかげで勝てたと思っている)
(うむっ、ただの重りの役目しかしていなかったな!!)
(…ただの重り)
(わはははっ、そんなにしょぼくれた顔をするな!!)
(……………)
(どうしたのだ?)
(昨日、フブキ、お前に言われた言葉。『勝負どころで恐がって勝負をしない』。同じ様な事を美雪さんも言っていたんだ)
(我の馬主か、あやつも良い事を言うではないか!!)
(思い当たる節がありすぎるので、胸に突き刺さっているんだ)
(わはははっ、そんな深刻な顔をするな。前にも言ったであろう。我は神から『お前を一人前の騎手に成長させよ』という使命を帯びてこの世に生まれた…と。お前はまだ若い。今から頑張っても遅くはない。今、気づけただけで良しとするがいい)
(ありがとう、俺、頑張るから!!)
(うむっ!!そんな事よりリンゴを食わせろ!!)
俺はフブキにリンゴを食べさせ、馬房を後にしたのだった。
フブキは数日休んでから調教を開始した。
基本月曜は全休なので調教は無い。レースに出走しないので火曜~日曜まで調教を行う。もちろん体調が悪い時は休ませるが、それ以外は少なくとも体は動かす。
最近は猛暑続きでクソ暑い。当然、栗東トレセンもクソ暑い。
先生は…
「これでも最近はマシになったんだ!!昔は厩舎に空調設備なんて無かったからな。でも…最近の暑さは異常だな!!クソ暑い!!」
大量の汗をかきながら吐き捨てるように言う。
それでも俺とフブキは暑さに負けずに調教メニューを消化していった。
暑さが峠を越えると、一気に秋が深まった。
11月の中旬を過ぎると、朝晩の冷え込みがきつくなってきた。
今日は24日(月曜日)の振替休日に行われる、東京スポーツ杯2歳(GⅡ)の追切が行われる。当然追切には俺が騎乗する。
俺は気合を入れてフブキに騎乗した。
「真白、お前がそんなに気合が入っていたら、フブキに伝わってしまう。もっとリラックスして乗ってくれ。今日は終いだけ伸ばしてくれればいいからな」
先生が俺の様子を見て注意する。
「すいません。ふうぅぅぅ~~~」
俺はフブキにまたがりながら大きく深呼吸をし、ウッドチップコースまで向かう。
僚馬と共にゆったりとウッドチップコースを走っていく。
徐々にペースが上がっていくがフブキの手ごたえは楽だった。馬なりで気持ちよさそうに走っている。
(フブキ、気持ちよさそうだな!!)
(うむっ!!我にとっては今の季節が一番走りやすいのだ!!)
(だろうな。人間も馬も、真夏の暑さの中では動きたくもないよな)
(わはははっ、っで、あるな!!)
フブキは僚馬を置き去りにし、ラスト1Fを11.3の時計でまとめ、追切を終えたのだった。




