第10話 ご都合主義になれ!!
フブキが俺が持ってきたりんごを完食した。
満腹になり、フブキはまったりとした雰囲気でくつろぎだす。
(美味であった。これからも貢物を持ってくるが良いぞ)
(まあ、できる限り持ってくるけど、稼ぎが少ないんで毎回は無理だよ)
(うむっ。早く成長して一流になるがよい。この前のレースの時もスタートして無理やり下げようとしたな。何であんな事をするのだ?効率が悪いではないか)
(…『馬ごみを経験させたい』と言った事は本当なんだ。でも…)
(でも…どうしたのだ?)
(安全策というか…怖かったんだ)
(っん!?怖い?)
(デビューして間もない頃、1番人気の馬に乗って惨敗した事があったんだ。レースが終わって帰ってくる時に無茶苦茶ヤジられた。お金を賭けているから覚悟はしている。でもな…罵声を浴びせてくるファンと目が合ったんだ。その時の憎悪に満ちた表情で睨みつけられた事、血走った目が忘れられないんだ)
(……………)
(それで惨敗を怖がって、安全に安全にと…ね)
(ふんっ!!典型的なダメ騎手だな!!)
(………その通りだ。言い訳出来ない)
フブキは俺の言葉を聞いてあきれ果てていた。
俺も自分の不甲斐なさを再認識してうつむく。
(この前のレース、ゴールした時の歓声を覚えているか?)
(もちろんっ!!初めての重賞勝利だったし嬉しかった!!)
(では、その時の事だけを思い出して、他の嫌な事など忘れてしまえ!!)
(できるなら…そうしたい。だけど…)
(『だけど』じゃない!!成功する奴らは全員そうだぞ!!騎手だけじゃない。どの世界でも成功する奴は身勝手に、自分の成功だけを信じているのだ。自分を信じられない者は勝手に消えていく)
(それじゃあ、ご都合主義じゃないか!?)
(ご都合主義の何が悪い!『世界は俺を中心に回っている』そう思うぐらいが丁度良いのだ。分かったか!!)
(………世界は俺を中心に!?)
(そうだ!!それでいい。そう思って乗れ。どうせこのままなら騎手を長く続けられまい。腹をくくれ!!)
(腹をくくれ…か。そうだな。やってみるよ)
(『やってみるよ』ではない!!やるのだ!!)
(分かった。やるよ。やってやるよ!!やってみてダメなら諦めがつく。勝負してやるよ!!)
(わはははっ、いい顔になった!!期待しているぞ!!)
俺はフブキに檄を飛ばされ、何かが吹っ切れた気がした。
初の重賞勝利といっても何か『モヤモヤ』した気持ちがあったが、心の中に立ち込めていた霧のようなものが晴れていくのを感じた。
(フブキと意思の疎通ができる人間は俺しかいない。これも実力のうち…俺の力で勝ったんだ!!)
俺はそう思うことにした。
次のレースは皐月賞。
約5か月レース間隔が開く。
(皐月賞までに成長する!!)
そう心に決めてレースや調教、それに日々のトレーニングに励むのであった。
東京スポーツ杯2歳Sを勝った事で、クラシックの有力候補と呼ばれるようになった。当然、新聞などの取材も増えてくる。
「皐月賞はぶっつけになりますが、大丈夫ですか?」
「吹雪騎手はGⅠに騎乗経験がありません。当然クラシックの騎乗経験もない。不安はありませんか?」
「ライバルになりそうな馬は?」
などなどの無難な質問から…
「トップジョッキーがフブキを見て『イイウマデスネ!!』と褒めていましたが、ご感想は?」
「クラシックを本気で取りに行くなら乗り替わりもやむを得ないのでは?」
という意地悪な質問まで、様々な取材があった。
SNSでも話題に上がる。やはり多いのは『このまま経験も実績もない吹雪真白を乗せるのか?』というものが多い。
最近はユーチューブで競馬関係の動画がおすすめで上がってくる。その多くが『乗り替わり』を話題にしたサムネイルが作られていた。
嫌でも俺の目にも留まるが、言いたい事を『グッ』と飲み込み、自分の力に変えていくのであった。
年が明けると、徐々に騎乗依頼が増えてきたと感じる。
当然、自分でも調教師の先生や馬主さんに頭を下げ、営業活動をしている。一方で白井先生や美雪さんまでもが、俺の騎乗機会を増やすために動いてくれていた。
感謝しかない。
残念ながら有力馬は少なく、勝鞍はあまり増えなかった。
しかし、腹をくくり思い切った騎乗ができるようになった。
その結果、人気薄の馬を掲示板まで持ってきて賞金を稼ぐ事も多くなり、再度の騎乗依頼も増えてきていた。
(結果が出てきている!!)
俺は少しだけ、自分に自信が芽生えてきているのを実感する。
確固たる自信とまではいかないが、クラシックシーズンを迎える上で、少しずつ自信と余裕、それに落ち着きが持てるようになってきていたのだった。




