第11話 イイウマデスネ!!
スプリングSも終わり、皐月賞へ出走する馬が出揃った。
当然、目ぼしい有力馬の名前の中にフブキの名もあがる。
しかしながら、リーディング上位の騎手に有力なお手馬がいないと騒がしくなる。
「フブキ、イイウマデスネ」
この一言を見たり聞いたりするだけで心がざわつく。美雪さんや先生を信じてはいるのだが『…もしかして』という思いが無い訳ではない。平然とした顔をしながらも心配は尽きないのであった。
『皐月賞特集』そんな有力競馬新聞が目に留まり何気なく見る。馬柱にはフブキの名前があるが騎手の欄は未定となっていた。
「!?」
胸が締め付けられる思いがした。
今すぐ先生に電話をしようとスマホを取り出すと、美雪さんからの着信の音が鳴った。『ごめんなさい。乗り替わりです』脳裏にこんな言葉が浮かんだ。
震える指で着信ボタンをタップする。
「美雪で~す!!」
あまりにご陽気な声に、思わずコケる。
「競馬新聞見た?」
「はい」
「騎手の欄が未定になっていたんだけど…」
「…はい」
「真白君で行くから!!心配しないで!!」
「ありがとうございます!!」
「もう!!乗り替わりなんて、一度も検討した事すらなかったのに…。競馬新聞は嘘ばっかり!!ここだけの話、いろんな騎手のエージェントから打診はあったのよ。私はその度に『フブキには吹雪真白が騎乗します!!』と断っていたんだから!!」
「…美雪さん。本当にありがとうございます。美雪さんの期待に応えるため、命を懸けて騎乗します!!」
「ふふふっ、別に命を懸けなくてもいいわよ。勝ちたいと思う気持ちも強いけど、真白君とフブキちゃんが無事にレースを走り終えてくれれば、私はそれだけで嬉しく思うからね!!真白君が落馬しても『人間はどうでもええ、馬は大丈夫か!!』なんて言わないから、安心して!!」
「………美雪さん。最善を尽くします!!」
「じゃあ、レース当日。中山競馬場で会いましょう」
俺は美雪さんとの通話を終え、憂いが消えた。
直後、美雪さんは自身のSNSのアカウントで、正式に『皐月賞は吹雪真白が騎乗する』と発表した。
当然、賛否両論があったが、俺は雑音を無視して、レースに向けて集中するのであった。
皐月賞が行われる週、当然追切が行われる。
フブキは有力馬の一頭。フブキが馬場に現れるとカメラがその姿を追う。
(フブキ、変わりはない?)
(うむっ。変わりない。ノープロブレムだ!!)
(じゃあ、行こうか!!)
俺はフブキを促し、坂路を駆け上がっていく。
(なかなか落ち着いているではないか?)
(そう思うか?)
(うむっ、多少は成長したと褒めてやろう!!)
(ありがとう。でも、この落ち着きはフブキ、お前のおかげだよ。お前がどっしりと構えていてくれるおかげで落ち着けるんだ)
(わはははっ!!お礼はりんごとセクシーボイスちゃんでよいぞ!!久しぶりにあの娘の尻を拝みたい!!)
(りんごは約束する。でも、セクシーボイスは難しいかな。あの牝馬は未勝利戦も勝ち上がってはいないんだ。それに最近疲労がたまって放牧に出されているらしいよ)
(むうぅぅぅ~、放牧先で浮気をしておらねば良いが…)
(そんなにセクシーボイスが好きなのか?)
(うむっ!!あの尻は夢にまで出てきよる)
(それはもはや、セクシーボイスでは無く、尻が好きなのではないのか?)
(わはははっ!!そうとも言うな!!)
俺とフブキはこんな締まらない会話をしながら、追い切りを終えたのだった。
「真白、最高の追い切りだったぞ!!まさに人馬一体だった。これで自信をもって皐月賞に送り出せるわ!!」
白井先生は『ニッコニコ』で俺の肩を叩く。
俺は『尻の話で盛り上がって、リラックスして走れました』とは言えず…
「先生が完璧に仕上げてくれたおかげです。これで自信をもって皐月賞に挑めます!!」
そう答えておいた。
俺は追切の後、不慣れな取材対応をこなす。白毛馬フブキ、会社経営者で人気インフルエンサーの美雪さん、そしてGⅠ初騎乗の俺。話題が盛りだくさんで、例年よりも盛り上がっている感じがする。
(…追切よりも緊張するよ)
リーディング上位の騎手たちに混ざって、記者会見にも出席したのだった。




