第5話 新馬戦②・出遅れ!!
俺とフブキは一番早く馬場入りをし、返し馬に入る。なるべくセクシーボイスと距離を取るように走っていく。
(真白、我の昂る気持ち。どうしてくれるのだ!!)
(どうもこうもしねぇよ!!いきなり牝馬に襲いかかろうとするんじゃない!!)
(動物とは本来、そういう生き物であろう。許せ!!)
(許せんわ!!こればかりはどうにもならない)
(ぐぬぬぬっ)
フブキがへそを曲げ、走る気を無くしているのが分かる。
いくら能力が有っても走る気が無くては勝てない。
俺は困り果てる。打開策を見つけようと、ふてくされて向こう正面を『てれんこ』歩いているフブキに聞く。
(フブキ、お前、種牡馬という言葉を知っているか?)
(種牡馬だぁ~、知らん!!)
(じゃあ、種付けという言葉は?)
(知らん、知らん。我は何にも知らんぞ。だが種付け…何気に『グッ』と心に響く言葉であるとは感じるが…)
(…そうか)
俺はフブキがやる気をなくした原因を思いほくそ笑む。
そしてフブキの走る気を取り戻すために説得を開始する。
(種牡馬とは繁殖用の牡馬の事だよ。競走成績が特に優れていた馬とか、血統が優れている馬が競走馬を引退した後になれる事がある)
(何っ…繁殖用…牡馬だと!?)
(そう!!それが種牡馬。でっ、当然繁殖用なので、その仕事が種付け。後は…分かるな?)
(ま、まさか!?)
(そう!!そのまさかだ!!)
(本当だな!!嘘ではないな!!)
(ふふふっ、本当だとも!!同世代の牝馬はもちろんの事、そのお母さんや、場合によってはお婆ちゃんとも種付けをする。ロリロリ牝馬や外国牝馬とも種付けできて、やりたい放題だ!!)
(う、うおおおぉぉぉ~!!最高じゃないか!!しかし………お婆ちゃん牝馬はご遠慮したいぞ)
(まあ…相手は指名できないが、とにかく年間、200頭前後の牝馬と種付けができる可能性がある。どうだ?種牡馬になる事を目標に頑張ってみないか?)
(真白、我、頑張る!!)
(良し!!とにかく、初めてのレースだ。落ち着いて行こう)
(分かったぞ!!)
俺は小さく拳を握りしめる。
(うまくいった。未勝利でも種牡馬入りは確定しているが、これでフブキが走る気を出してくれるのなら良しとしよう)
俺は密かにそう思いながら、ゲートの前までフブキを誘導していくのだった。
(しかし…いい尻をしているな)
フブキはゲート前で輪乗りをしている時に、またセクシーボイスに気を取られる。
(フブキ、そんな事では種牡馬にはなれないぞ!!)
(分かっておる。ただ…本当に良い尻なのだ)
フブキは愚痴りながらも、渋々と輪乗りを続ける。
ゲートに誘導される。
心配をしていたが、すんなりとゲートに収まってくれた。
(ところで真白。パドックでファンが言っていた『去勢』というのは何なんだ?)
(あぁ…それは…お前の大事な『アレ』をちょん切る事だな)
(……………)
フブキが固まって動かなくなってしまった。
ゲートが開く。
当然の出遅れ。
何とかゲートから出たものの、フブキは全く加速をしない。
(…ちょん切るのか。我の『アレ』を。本当にちょん切るつもりなのか?人間ごときが、神に選ばれたサラブレッドである我の『アレ』をちょん切るというのか!?)
フブキは走りながら怯えている。
(だ、大丈夫だ!!俺がそんな事はさせない)
(絶対だな!!)
(あぁ…それに誰にも文句を言わせない競走成績を残せば、絶対に去勢なんて話は出てこない。元から馬主の美雪さんが去勢なんてさせはしないから!!安心しろ!!)
(頼むぞ、真白。万が一にも去勢はダメだ。これに関してはお前だけが頼りだ)
(任せておけ。それよりも今は走りに集中してくれ。惨敗でもしたら、本当に『アレ』が危なくなるぞ!!)
(我の『アレ』は我が守る!!)
フブキは突然加速をしていく。
だが、先頭はすでに3コーナーに差し掛かっていたのであった。




