第4話 新馬戦①・馬っ気全開!!
新馬戦当日。
阪神競馬場は昨日からの大雨で芝は不良であった。
「…なんてこったい」
俺は厚く黒い雲で覆われた空を見上げながら呟く。
時折、遠くの空から稲光が見え、地響きのような低い音が聞こえてきた。
(できれば良馬場で走らせたかったんだけど、最悪の天候になってしまったな)
俺はパドックでフブキに話しかける。
(わはははっ、何を言っている!!この嵐は我が呼んできた。我の走りを期待して、天で神が興奮しておるのだ!!)
意外な事にフブキはこの大雨でもご機嫌だった。それに普通の馬は雷も苦手なのに、フブキは平然としている。
(フブキ、お前がいいなら何も言わないよ)
俺は少し安心をする。ただでさえ、新馬戦では気を使うのだ。普通の状態でもパニックに陥る馬もいる。
その時…
「残念ねぇ…フブキちゃんのデビュー戦だというのに、こんな大雨に見舞われるだなんて。おまけに雷まで…。美しい毛並みがビショビショに濡れてしまっているわ」
美雪さんが取り巻きの美人秘書軍団を引き連れて登場した。
「美雪さん、こんにちは」
「こんにちは、真白君」
美雪さんは大粒の雨が降る中、少し残念そうな顔をしている。
「大雨は残念ですけど、フブキはとても良い状態です。不良馬場も気にしないと思いますから、今日のレースは期待してください!!」
「頑張ってね!!でも…雨に濡れたくないんで、悪いけど早めに馬主席に戻るわね」
「この大雨ですから仕方がありません。レース後にまた…」
美雪さんは美人秘書軍団を引き連れて、馬主席へと戻っていった。
俺は美雪さんの後ろ姿を見送りながら…
(絶対に勝って見せますよ)
そう誓うのだったが、ここで思ってもみなかったトラブルが発生した。
「……………」
俺は言葉を失くす。
そして無言のまま、厩務員さんに足を支えてもらいフブキに跨った。
(真白、我の前で歩いている牝馬。名をなんていうのだ)
(セクシーボイスだよ。馬同士なんだから自分で聞けばいいじゃないか?)
(馬鹿を言うな。馬がしゃべれるわけがないであろう!!)
(今、自分がしゃべっているじゃないか!!)
(それは我にも分からん。だが、普通の馬はしゃべらんぞ!!)
(…そうなのか。それは残念だ。しゃべれれば有利になると思ったのに…。でっ?そのセクシーボイスがお前のご立派な『馬っ気』の原因なのかな?)
(うむっ!!良い尻をしている。気に入った!!)
(何が『気に入った!!』だよ。今からレースなんだぞ。集中しろって!!)
フブキは俺の言葉など無視して足を速める。
そしてセクシーボイスに近づこうとする。
俺は慌てて手綱を押さえる。
(待て!!何をする気だ!?)
(何をって?決まっているであろう!!)
(馬鹿を言うな!!)
(真白、お前も男なら分かるだろう。我の昂る気持ちを!!)
(分からんでもないが…絶対にダメだ!!)
(止めるでないわ!!)
(止めるわ!!)
俺はフブキを止めようとするが、フブキは嫌がり首を上げ大暴れをする。
パドックを見守る競馬ファンから失笑が漏れる。
「…馬っ気は消しかな」
「新馬戦で平常心を無くしているね。いらんわ!!」
「消し、消し。用無し」
「馬場に出ても折り合いつかんだろう」
「この馬は無条件で金子美雪のファンが単勝を買う。他の馬のオッズにうまみが出てくるね。勝負しようかな」
「去勢しろ!!」
そんな意見が飛び交っていた。
停止命令がかかる。
先生が何やら関係者と話している。
「真白、先に馬場に入れるぞ!!」
俺はフブキを落ち着かせるために、一番早く馬場入りをするのであった。




