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吹雪とフブキ  作者: 爆進王


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20/21

第20話 緊急会議

 有馬記念に向けて調整を開始したフブキだったが、一向に調子が上がってこない。




 俺の問いかけにも『我はもうダメである』とか『走る意味がない』とか、ネガティブな返事しか返ってこない。





(フブキ、らしくないぞ!!以前のふてぶてしいまでの態度はどこにいったんだ!!)





 俺の激にも一切反応せず、ただ漠然と坂路を駆け上がるフブキ。




 当然、タイムも出ず、覇気もない。




 悪い流れが続く。




 11月の下旬には、フブキが熱発し、ドクターストップがかかった。




 フブキの調教は当然できない。




 美雪さんを交え、緊急会議が行われた。




 当然、フブキの今後の事である。





「繫養先であるスタリオンとの契約は完了しているから、今年で引退という事は動かせないの。あとは、有馬記念に出走するか、しないかの問題。これだけの馬でファンも多い。当然、ファン投票も圧倒的トップ。できる事ならファンのため、競馬界のために有馬記念だけは出走させたいとは思うわ。ただ、私としてはフブキちゃんの体調次第。無理してまでの出走はあり得ないわ」




「美雪嬢、実は体調以前に菊花賞が終わってから、フブキから走る気力というものを感じなくなったんだよ。体調が改善しても、走る気が戻らないなら有馬記念に出走させても…」





 先生の意見を聞いて美雪さんが目を閉じる。




 重苦しい空気が流れる。





「フブキちゃんに走る気力がなくなったのなら…」




「美雪さん、先生。ちょっといいですか?」





 二人が俺の顔を見る。





「どうした?真白。言いたい事があるなら言ってみろ」




「そうよ、真白君。あなたが一番、フブキちゃんの事を分かってるんじゃないの?全レース、調教でも騎乗しているんだもの」




「実は…」





 俺は信じてもらえるか分からないが、フブキが走る気を無くした原因を話す。





『失恋!?』





 二人が声を合わせて驚く。





「はい。フブキは新馬戦を一緒に走ったセクシーボイスという牝馬に一目惚れをしていまして…。その牝馬は結局、未勝利戦を勝ち上がれませんでした。そして、トレセンから姿を消したのが丁度、菊花賞の前後だったはず。調教を再開してもセクシーボイスを探すそぶりをしていましたが、姿を見つけられず…精神的ショックを受けて走る気を無くしたようです」




「真白、調教師の俺にその話を信じろと?」




「…まあ、俺がそう感じただけなのかもしれないですが」




「さすがに信じられ…」




「あははははっ、おもしろいじゃない!!真白君」





 突然、美雪さんが大笑いをする。





「美雪嬢!?」




「白井先生、調教師としては認められないかもしれないけど、私は真白君の失恋説を信じる、いえ、信じたいわ!!」





 驚く先生を無視し、美雪さんは自分の世界に入り込む。





「あぁ、フブキちゃんは何て純情なんでしょう。初恋の馬が突然姿を消し、胸が張り裂けそうな気持ちになる。そして何もかもやる気がなくなる。分かるわ。私にも同じような経験があるから分かるのよ。フブキちゃんの気持ちが…痛いほど………ね。まだ私が20代前半だった頃、仕事に追われて大好きだった恋人が、突然、置手紙を残して姿を消した事があったのよ。どうしていいか分からなかった。心に穴が開いたような、そんな気持ちになった。今でも心にトゲが刺さっているような感じがして、ちょっぴり痛むのよね」





 俺と先生は、唖然としながら美雪さんの話を聞く。





(この美雪さんの自分語り、どうするんですか?止まりませんよ!!)





 俺は先生に目で合図を送る。





(どうする?ったって、お前のせいだろう!?何とかしろよ!!)





 先生がそんな鋭い目つきで俺を見る。





(俺には無理です!!先生、お願いします!!)





 俺は先生に全振りするが、先生も美雪さんの自分語りを止められず、延々と30分間もの間、美雪さんの過去の恋愛事情を聴かされたのだった。




 自分語りに満足したのか、美雪さんが『そのセクシーボイスという馬。私が買い取りましょう!!』と言い出した。





「買い取るったって…また血統登録し直して入厩させるんですか?有馬記念は一か月を切っています。そんな時間ありませんよ」





 美雪さんは先生の言葉など無視してスマホを操作する。





「あぁ、この馬主さん。知り合いだわ!!」





 電話をかけ、何やら話をする美雪さん。




 そして『廃用寸前だったみたい。危なかったわ!!』と、満足そうな顔をした。





「買い取ったんですか?」




「えぇ、来年、フブキちゃんを種付けさせるわよ!!」





 美雪さんはそう言って、俺に向かって親指を立てたのだった。

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