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吹雪とフブキ  作者: 爆進王


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19/22

第19話 …失恋

(止めい、止めんか!!気色悪い。お前にキスなど、されたく無いわ!!)




(そう言うなよ!!無敗の三冠馬だぞ。フブキも嬉しいだろ?)




(そんなもの、勝手な人間どもの価値観なだけで、何の興味も無いわ!!)




(そ、そんな身も蓋もない事を言うなよ)





 俺はフブキに冷たくあしらわれ、一気に興奮が冷める。




 しかし、スタンドからの歓声はやむどころか、俺とフブキが正面スタンド前まで帰ってくると、もう一段ヒートアップする。




 フブキが立ち止まる。




 俺は指を三本、天に向け立てた。




 地響きのような歓声が巻き起こるが、フブキは全く動じることはない。俺はフブキを促し、検量室前まで戻っていく。




 馬上から厩務員さんと握手を交わすと、ガッツポーズを決める白井先生と、泣きじゃくる美雪さんが見えた。




 俺と先生は『言葉はいらない』とばかりに無言で抱擁する。




 しかし、今までの思いが溢れてくるように、ひと筋の涙がこぼれる。





「馬鹿野郎、泣くんじゃない!!」





 そう言う白井先生の目も、真っ赤になっていた。




 泣きじゃくり、言葉が出てこない美雪さんを優しく抱きしめ、俺は検量室に入っていった。






 表彰式も無事に終了し帰路に就く。




 今日は、美雪さんが予約した料亭で、祝勝会が行われるが、また後日、美雪さんの自宅で、豪勢な三冠パーティーが行われる予定だ。




 祝勝会まで時間がある。




 喜び、不安、重圧、責任感…。俺は一人になるとプレッシャーから解放され、その場で座り込んでしまった。




 そして、とめどない涙が溢れ出し、一人、号泣したのだった。




 涙が枯れるほど泣いた後、余計なものが涙と一緒に体から流れ出し、心と体が軽くなったような気がした。




 俺はスッキリした気持ちになって祝勝会に向かう。




 笑顔全開の美雪さんが俺を迎えてくれた。





「あれれっ!?真白君、顔つきが変わったわね!!男らしくなったというか、一皮むけたというか、三冠ジョッキーになったという自信が、表情に出ているわよ!!」





 美雪さんが俺の顔を覗き込んで言う。





「美雪さんが俺を男にしてくれましたから!!」





 俺は心から感謝の気持ちを伝える。





「あらっ、いやだ。他人が聞いたら誤解するじゃない!?」





 美雪さんは顔を赤らめうつむいた。





 俺はそんな美雪さんを見て『40代後半とは思えない可愛らしさだ!!母親よりも年上だが、正直に言って………今なら、抱ける!!』と思い、腰に手を回し、抱き寄せようとする…が、しかし





「がはははっ、真白。遅いじゃねぇか!!こっちへ来い。今日は飲んで飲んで、飲み倒すぞ!!」





 俺は白井先生に連行される。





「真白、俺は嬉しいぞ!!」




「い、いや、俺は今、大事な所で…」




「クラシック三冠も嬉しいが、お前が成長してくれた事が、たまらなく嬉しいんだよ!!わかるか?」




「わ、分かりますけど…大事な所だったのに…」




「今日は真白、お前を寝かさないからな!!」




「えっ!?それは…俺が…美雪さんに…言う……セリフ…」




「何をブツブツ言っているんだ!!飲め、飲め!!」




俺はたぎらせた気持ちを無理やり押さえつけ、やけくそになり『これでもか!!』というくらい日本酒を飲み倒す。




 酔い潰れた俺は厩舎のみんなに担がれ、料亭から無念の帰宅をしたのであった。






 二日後…




 俺は酒も抜け、颯爽とトレセンまで向かう。白井厩舎に着くまで、何人もの人から声を掛けられ祝福される。




 俺は三冠ジョッキーになった事を実感する。





(でも、まだまだだ。もっと努力して、上を目指していく!!)





 今の俺には昔みたいなネガティブな感情はもはやない。フブキと出会った事で歯車が噛み合い、騎手人生が正の回転を始めた。




 そのフブキとのレースも、有馬記念を残すのみ。




 俺は少し寂しげな気持ちで馬房へと向かった。





「わはははっ、真白!!なかなかの騎乗であったな。我も嬉しく思うぞ!!」





 上機嫌でりんごを食べるフブキ。





「ありがとな。でも、まだまだだよ。ニュースでもフブキの話題ばかりで、主戦騎手である俺の話はほとんど出ないからね」




「わはははっ、それは相手が悪い。我と真白、お前では役者としての格が違うからな!!」





 俺は『まあ、事実だから仕方が無い』と思い苦笑いを浮かべた。





「これでセクシーボイスちゃんのほうから我に対して積極的なアプローチをしてくる事になるだろう!!わははは、たぎってくるわ!!」





 フブキはそう言って、馬っ気をたぎらせる。





「たぎらせるんじゃない!!」





 フブキは俺のツッコミも無視してたぎらせ続ける。





「…残念だけど、あの牝馬は引退したよ」




「な、なにっ。どういう事だ。真白、説明しろ!!」





 俺の言葉にフブキの表情が一変する。





「詳しくは分からないけど、未勝利を勝ち上がれなかったからね。もう二度とトレセンに戻ってくる事はない」




「………そうか」





 明らかに気落ちするフブキ。




 俺は心配になり、りんごを切り分け差し出す。





「…いらぬ。真白、今はそっとしておいてくれ」




「…フブキ」





 フブキはそれっきり、馬房の奥に引っ込んでしまったのであった。

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