第2話 神に選ばれたサラブレッド・フブキ
馬房の前…
「先生、よく美雪さんがキタサンブラック産駒を買いましたね。あの人は高くても『3000万円まで!!』と言ってませんでしたっけ?キタサン産駒はセリで5億とか6億円の値段が付いていて、とても3000万円では買えない気がしますが…」
「あぁ…その事か。このフブキ、とにかく気性が悪い。牧場の方でも『乗り手が嫌がって調教ができない』と困り果てていたそうだ」
「マジですか!?」
「そこで美雪嬢が大幅な値引き交渉をして買い取ったんだ。それでも予算オーバーと言ってはいたが、とにかく白毛の馬を手に入れたかった。そういう事らしいぞ」
「…気性難か。俺にはそんな感じには見えませんけど、大人しくないですか?」
大人しく俺の方を見ているフブキの額に自分の額をくっつけ『フブキ、よろしく頼むよ!!』と言うが、思いっきり頭突きを食らった。
「痛ってぇ~!!全然大人しくなかった」
「…やれやれ、お前も嫌われたかな。でも、明日の調教から頼むぞ!!」
先生はそう言って厩舎から出て行った。
気のせいだろうか?頭突きを食らった時、一瞬、心が通じたような気がした。
「……………」
俺は額を撫でながら『ジッ』とフブキの目を見つめる。フブキも俺の目を『ジッ』と見ている。
「もう一個、リンゴでも食うか?」
俺はそう言ってリンゴを四つ切りにし、フブキの前に差し出した。
(なかなか気が利くではないか!!褒めてやろう)
(別に構わないよ)
(うむっ!!なかなかいけるぞ!!)
(そうか。それは良かった)
俺はもう一切れ差し出した。
(ちょっと待て!?)
今、普通に会話をしていた気がしたが…
(まあ…気のせいか…)
もう一切れ差し出す。
(面倒だ。残り全部差し出すが良いぞ!!)
(なんか、声が聞こえる!?)
明確に脳内に声が聞こえ、思わずリンゴを落とした。
「フブキ!!お前、今しゃべったか!?」
俺は思わず大きな声を出す。
(大きな声を出すでないわ!!)
(す、すまん)
(どうやら我と貴様は意思の疎通ができるらしい。光栄に思うが良いぞ!!)
(嘘だろ!?…信じられん!!)
(お前が見習騎手の真白か?覚えておくがよい。我は神に選ばれたサラブレッドである)
(くっ!!確かに100勝以下の見習騎手だが………って、神に選ばれたサラブレッドって何?)
俺はフブキの『見習騎手』という言葉を聞いて、拳を握り締める。今年は0勝でリーディングは下から数えたほうが早い。競馬学校は首席で卒業をしたのだったが、現状、同期とは勝鞍でかなりの差を付けられている。現実に見習騎手で間違いはない。
(同期の奴らは有名騎手の息子だったり、親が厩舎関係者や牧場関係者なので、何のコネも持っていない俺は不利に決まっている!!)
心の中で言い訳をして、自分自身の努力不足を見て見ぬ振りをしていた。
(フブキ、俺に力を貸してくれ!!)
俺はフブキとの出会いが、騎手人生でのターニングポイントだと直感する。この出会いを無駄にしたら、一生、二流騎手で終わってしまう。そう思い、素直に頭を下げる。
(わはははっ!!我に向かって首を垂れるか。愛い奴だ!!我が貴様を一流の騎手に育ててやろうではないか!!)
(ありがとう!!俺、がんばるから!!)
俺はそう言い、フブキにリンゴを食べさせたのだった。
(ところで、フブキ。お前、牧場で大暴れをしていたみたいなんだけど、なんか理由でもあるのか?)
(大暴れ?ああぁ…人間の分際で我の体に鞭を打つのだ。許せんだろう!!)
フブキは頭を上下に振り、怒りを示す。
(う~ん…人間も好きで鞭を使っている訳じゃないんだよ。フブキの事を思って鞭を使ったんだと思う)
(ふんっ!!我は神に選ばれたサラブレッドなのだぞ!!人間ごときが我の体に鞭を打つなどとは、言語道断!!)
(じゃあ、俺は鞭を使わないから…これでいいだろう?)
(当たり前だ!!わはははっ、へたくそな騎乗をしたら、我が貴様を鞭で叩きたいぐらいだ!!)
(俺はドMじゃないからな。お手柔らかに頼むよ)
俺は苦笑いをし、厩舎を後にしたのだった。




