第14話 最高の友
初めてのGⅠ制覇。
俺とフブキはウイニングランを終え、スタンド前まで帰ってきた。経験した事の無い、大歓声が俺たちを迎えてくれた。少し控えめに手を振り声援に応える。
笑顔で厩務員さんが迎えてくれた。
そのまま検量室前に戻り、下馬する。
原田先生がガッツポーズを作り俺を迎える。
「…先生、ありがとうございました」
俺は涙ぐみ先生と熱い抱擁を交わす。
「坂の手前で、もうダメかと思ったぞ!!真白、やったな!!おめでとう!!」
先生は俺の頭を『ポンッ』と叩く。
「真白君、最高のレースだったわ!!ありがとう!!そして初GⅠ勝利、おめでとう!!」
美雪さんが両手を広げて迎えてくれた。
俺は遠慮なく美雪さんとハグを交わす。美雪さんは有名人なので、周りをカメラマンが取り囲んだ。
俺は後検量を終え、インタビューに答える。
初めての勝利騎手インタビューだったので、正直、何をしゃべったのか覚えていない。最後にカメラにサインをして表彰式に向かった。
フブキが皐月賞のレイを掛け、記念撮影が行われる。俺はお約束通り、人差し指を天に向ける。まずは一冠というアピールをする。
その後は調教師や馬主などの関係者が並び、表彰式が行われた。
最後にスタンド前でインタビューが行われ、俺はファンの皆様に感謝を伝えたのであった。
祝勝会は美雪さんが所有するタワマンの最上階の部屋で行われた。美雪さんの知り合いの芸能人やスポーツ選手、それに馬主仲間の経営者などが招かれていた。
超一流のすし職人やイタリアンのシェフ、有名パティシエまでもが揃い、料理やスイーツが振舞われた。
俺は華やかな世界に場違いな感じがして、隅のほうで存在感を消し『じっ』としていた。だが、白井先生はというと、お金を持っていそうな経営者に営業活動をしている。俺も『これではダメだ』と思い、何人かのオーナーさんに挨拶をする。
(皐月賞でこれなら、ダービーを勝った時にはどうなる事か。そして、もし負けでもしたら…いや、負ける事など考えるな!!必ずダービーを勝つ!!)
俺は嬉しさと同時に気合を入れる。
身震い、いや、武者震いで体が小刻みに震える。
「真白君、楽しんでる?」
後ろから美雪さんの声がしたので振り向く。
美雪さんは大胆に胸元が開いたドレスを着ていた。
(胸、丸出しじゃないですか!!)
俺は一瞬で美雪さんの爆乳に釘付けになった。
美雪さんが俺の心を見透かしたように、腕を組み体を密着させてきた。
(何という爆乳感!!いやいやいや、落ち着け真白!!)
俺は美雪さんとの年の差を思い浮かべ、頭の中から煩悩を消し去る。
美雪さんはそのまま俺と腕を組み、たくさんの人を紹介してくれた。
俺も少しずつではあるが、この華やかなパーティーの場に、馴染んでいったのであった。
栗東に戻り、トレセンに向かう。
当然、白井厩舎に顔を出しフブキに会いに行くのだが、今日はその前に調教のお手伝い。朝の七時過ぎにようやく解放され、フブキの馬房へと向かう。
今日も高級りんごをお土産として買ってきている。
(フブキ、元気か?体に異常はないか?)
(おうっ、真白ではないか!!我は大丈夫だ。それより、その袋。当然、あれであろう?)
俺は苦笑いをしながら、袋から高級りんごを取り出した。
(わはははっ、これが無いと始まらん!!切り分けるがよいぞ!!)
(はい、はい。少々、お待ちくださいよ)
俺はそう言い、高級りんごを切り分けていく。
(むっ、真白、袋がもう一つあるが…別の差し入れであるか?)
(ふふっ、残念ながら違うよ。これは俺が食べるためのお菓子だ。フブキ、お前と一緒に食べようと思って…。二人だけの祝勝会だ!!)
俺は高級りんごを切り分け、お菓子を取り出す。
(ほほ~う…変わった形の菓子であるな。何という名前の菓子なのだ?)
(源氏パイだよ。俺、大好物なんだ!!フブキ、皐月賞優勝、おめでとう!!)
(うむっ、苦しゅうない!!ヘルメットを脱いで、楽にするがよいぞ!!)
フブキはそう言って、リンゴを美味しそうに食べ始めた。
俺は微笑みながら、ヘルメットを脱ぐと…次の瞬間!!
「ぶうううっ!!」
フブキが口の中の高級りんごを吐き出した。
そして…
(わはははっ!!真白、何だその髪型は!?源氏パイみたいな髪型になっておるぞ!!)
フブキは歯茎をむき出しにして、大爆笑をする。
(何言っているんだ!!高級りんごを吐き出しやがって!!もったいない!!髪型が源氏パイみたいになるわけが………)
俺はそう言って、厩舎の備品の鏡を手に取る。
(源氏パイになっとるやないか!!)
(だはははっ、真白、それが『ボケツッコミ』というやつだな。おもしろいぞ!!)
(いやいやいや、俺もびっくりしたわ!!)
(真白、そう言いながら我を笑わせるために、自分で仕込んできたのではあるまいな?)
(そんなわけない!!俺は今まで調教で乗ってたんだよ)
俺は髪を直しながら高級りんごを切り分け、フブキに食べさせる。
フブキは大爆笑しながら、大喜びで平らげる。
俺は気分を切り替え、真顔でフブキに話しかける。
(少し前の俺なら痛い出費だったんだけど、GⅠ勝利で賞金がたくさん入ってきたから余裕だ。ネット銀行の残高照会を見たら、目が飛び出しそうになったぞ。全てフブキのおかげだ。ありがとう!!)
(我も大満足である…が、真白、お前に謝っておかなければならぬ事がある)
珍しく、フブキが真剣に話をする。
(この前のレース、我はちっと、調子に乗り過ぎたようだ。すまん)
(…フブキ)
(お前が我の闘志を掻き立ててくれなかったら、もしかして………)
(いや、フブキ。お前は俺がいなくても勝っていたよ。俺は少しだけ背中を押しただけだよ。それに…)
(それに、何だ?)
(俺はフブキ、お前の負ける所なんか見たくないんだ!!)
(………ふっ、わはははっ!!よく言ったぞ、真白!!我が負けるものか!!わはははっ、お前を我の友と認めてやろう!!)
(…友!?)
(あぁ、我では不満なのか?)
(いや、最高の友だと思っている。これからもよろしくな!!)
(うむっ!!こちらこそである!!これからは差し入れの頻度も上げるがよいぞ!!)
(そこかよ!?)
俺は苦笑いをするが、少しだけ弱気になっていたフブキが、普段通りの様子に戻った事に安心をするのであった。




