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22.鬼同期とピクニック

 日曜日は朝から長谷川と二人で電車に乗って出かけていた。

 長谷川は半袖のフーディを羽織っていて、中はシャツと細身のジーンズ。私は細身の半袖シャツにカーディガン、それにワイドジーンズ。どっちもピクニック向けのラフな格好だ。


 ……なんていうか、デートっぽくてアレだなあ。別にそんなつもりじゃないはずなんだけど。


「晴れてて良かった」


 長谷川は機嫌良さそうに、窓の外に流れていく街並みを眺めていた。


「そだね、グランピングって初めてなんだけど、どんなかな」


「俺も初めてだ。そもそもキャンプって何するもんなんだ?」


「さあ……気分のいい自然の中でのびのびお酒を飲む?」


 首を傾げると、長谷川も目を細めてこちらを見た。


「立花がのびのび酒を飲めない場合があるのか?」


「さすがに社長との昼食会のときは自重したよ」


「普通、あの会で酒は頼まねえから……」


 結局、私も長谷川も何もわからなかったから、二人でスマホを覗き込みながら調べてみた。


「あ、キャンプ料理だって」


「あー、なるほど……未開拓だし、ちょっと興味あるわ。人数が多ければバーベキューってのもあるんだな」


「今回はお弁当持ってきたから、それはまた今度だね」


「……そうだな」


 長谷川は私の顔をじっと見つめた。

 首を傾げて見せたけど、なぜか困ったように笑って目を逸らされてしまった。

 なんだ……? 今の間は。


 長谷川はすぐにスマホに視線を戻した。


「アスレチックとかしてもいいってさ」


「今から行くところもアスレチックあるんだよね。じゃあやろう」


「立花、運動神経いい?」


「普通。でも公園の遊具とかは大好きな子供だったよ」


「へえ、じゃあお手並み拝見させてもらおうかな。俺はあんまりだから」


「そうなんだ?」


「体育の授業は普通だけど、マラソンとか黙々と体を動かす方が好き」


「たしか近くに遊歩道もあるんだよね。散歩もしよう」


 そんな話をしているうちに、電車は目的の駅へ到着した。

 電車を降りてバスに乗ると、同じようにピクニックへ向かうらしい人たちがたくさん乗っていた。

 しばらくバスに揺られていると、窓の外には緑の多い景色が広がり、やがてゆるやかな上り坂が続き始める。坂を登り切ったところでバスを降りると、目の前にはグランピング場の入り口があって、バスから降りた人はみんなそちらへ流れていった。


「今どきのキャンプ場って便利なんだねえ」


「まあここは日帰りのグランピングがメインだからな」


 受付を済ませて予約したテントへ向かうと、テント自体はそれほど大きくない。でも広々としたデッキにはソファとテーブルが置かれ、その上には大きなタープが張られていた。


「おお……至れり尽くせりだ。想像してたキャンプと全然違う」


「テントの中に冷蔵庫と電子レンジまであるな。弁当は冷蔵庫に入れとくぞ」


「お願いします。わあ、眺めいいよ。丘の下まで見える」


「すげーな」


 丘の上からは林や小川、アスレチック広場、その向こうに連なる山並みまでよく見えた。

 陽射しはきついけど、丘を渡る風が穏やかで気持ちいい。


 ぐう、ビールがないのが悔やまれる。

 ないもんはないので、持ってきた炭酸水で喉をごまかし、まずはアスレチックに向かうことにした。


 アスレチックは大人向けのハードな作りだけど、普段からハイヒールで駆け回っているからか、スニーカーだと驚くほどすいすい進めて楽しい。


 気付いたら、長谷川がだいぶ遅れていた。


「長谷川ー大丈夫そー?」


「ちょ、待て、はえーよ」


「手え貸すよ」


 長谷川に向かって手を伸ばす。

 握られた手は想像していたより大きくて、力強くて、少し汗ばんでいて熱かった。心臓が変な音を立てる。


「悪いな」


「や、だ、だいじょぶ……」


「どした?」


「な、なんでもない! えっと、どうしよっか。この先まだアスレチックあるけど、大変そうだし散歩行く?」


 これ以上手をつないでいたら、どうしていいか分からない……だから話題を変えたのに、長谷川は私の手を握ったままコースガイドを見た。


「もうちょい行ってもいいけど……これ以上行くと戻るのが大変そうだし、ぼちぼち散歩しながら戻るか」


「そうしよう!」


 長谷川はアスレチックコースを外れ、遊歩道に向かって歩き出した。……私の手を握ったままで。

 いやいや!? 離して……?


「あの、長谷川さん?」


「ん?」


「な、なんで手えつないだままなの……?」


「んー」


 長谷川は前を向いたまま唸った。


「……周りにさ、手えつないでない人がいない」


 何言ってるんだ、と周りを見回したら本当だった。

 見える範囲はカップルに家族連ればかりで、みんな手をつないでいる。いや、逃げ出そうとしてる子供を捕まえてるだけの人もいるんだけどね?

 それに、周りがみんな手をつないでるからって、私たちまでつながなくてもいいんじゃないかな?


「立花は、手をつないでるの嫌?」


「嫌ってわけじゃないけど」


「ならいいだろ。戻って弁当食おうぜ」


「えっ、えー……?」


 長谷川は振り向いて目を細めて笑って、手をつないだまま歩き出した。


 ソファで並んでお弁当を食べたあと、また二人でスマホを覗き込みながら「キャンプ場での過ごし方」を調べる。


「あえてインドアかあ。いいねえ。こう、体動かして、お腹いっぱいになって、眠くなってきた」


「子供かよ。あー、焚火って手もあるな。そこに焚き火台あるし。……おい、寝るな。ちょっと付き合え」


 長谷川に連れられて受付まで向かった。受付横の売店で長谷川が買い物をするのを待ち、そのままテントへ戻る。


「俺は焚火してるから、立花は眠けりゃ寝てろ。適当に起こすから」


「ありがと、そうする」


 あくびが止まらなくなってきたから、テントの奥のベッドに横にならせてもらった。

 テントの入り口の方から、焚き火で温められた空気がゆるく流れ込んでくる。パチパチと火の弾ける音がして、炭の焦げる匂いが鼻をくすぐった。


 ……キャンプ、悪くないな。


***


「立花」


「んー……」


「おい、立花。……そろそろ起きろ、美颯」


「うえ……?」


「起きろって。どんだけ寝る気だよ」


 目を覚ますと、長谷川が呆れたように苦笑していた。

 ……なんか甘い匂いがする。


「いい匂いがする」


「本当に食いしん坊だよな。焼きマシュマロ作ったんだよ」


「最高」


 勢いよく起き上がったら笑われたけど、しょうがないじゃん。

 焼きマシュマロ! 話には聞くけど、実物を見るのは初めてだ。


 長谷川と一緒に外のソファに座ると、目の前の焚き火台にはマシュマロを刺した串が立てかけてあった。ソファ横のミニテーブルにはクラッカーとチョコまで並んでいて、本当に至れり尽くせりだ。


「調べたら、ソーセージやきりたんぽを焼いてもいいし、焼き芋とか焼きおにぎりも美味いらしいぞ」


「次回はぜひ!!」


「次があったらな。今日はそこのクラッカーとチョコとマシュマロ食って帰ろう」


「はーい」


 間違いのないおいしさだった。

 不味いわけがないじゃん!!


 炭の焦げる香ばしい匂いに、溶けたマシュマロの甘ったるい香りが混ざって食欲をそそる。


「はわー……おいしー」


「だなあ。焼いただけなんだけど、うめーな」


 美味しすぎて、マシュマロはあっという間になくなっちゃった。

 残念だけど仕方ない。今度自分でもやってみようかな。


 焚火の片付けは長谷川に任せて、私はベッドを整え、お弁当箱を洗い場でさっと洗って片付けておく。


 帰りもバスと電車を乗り継いで帰った。


「今日はありがと。すごく楽しかった」


 そう言うと、長谷川が目を細めた。その表情に、なんだかそわそわする。


「こちらこそ。……また、行こう」


「うん。えっと、また明日」


「ああ、おやすみ、立花」


「……おやすみ」


 ひらひらと手を振って自分の部屋に戻った。

 扉を閉めて、弁当箱をシンクで先に洗っておく。

 シャワーを浴びて、晩ごはんも食べないままベッドに倒れ込んだ。


 ……昼寝から起こされたとき、名前を呼ばれた気がしたけど、気のせいかな。

 気のせいじゃなかったら、あれはどういうつもりだったんだろう。散歩中に手をつないでいたのは、どうして。

 もし、気のせいじゃなかったのなら、長谷川はどういうつもりなの。


 昼寝したせいか、全然眠れない夜だった。

ピクニックと言いつつグランピングなのは、これを書いていたときにキャンプ漫画を読んでいたからです。

「ふたりソロキャンプ」面白いよ。キャンプしたくなるので、ぜひ(突然のダイマ)

***

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