19.鬼同期といつもと違う日
部屋に戻って、買ってきた無洗米と液体出汁を冷蔵庫に入れた。
すごい。一人暮らしを始めて七年だけど、調味料と米が入ってるのは初めてのことだ。
「……簡単だったし、美味しかったし、もう一回作ってみようかな」
気分が良かったから、財布とスマホを持ってもう一度外に出た。
スーパーで小松菜と小さい醤油のボトルをカゴに入れてから鮮魚コーナーに向かった。
「んー、でもなー。そもそもフライパンないんだよな」
よく見たら鮮魚コーナーに、さっき長谷川が使っていたフライパン用のアルミホイルが売っていた。これを買えば魚も焼けるんだろうけど、肝心のフライパンがない。
箸はもらってきたけど、皿だってない。
買い物カゴを見下ろしたら、ちょっとめげそうになった。
やっぱり醤油は戻そうかなと手を伸ばしかけたけど、近くにレトルト味噌汁が売っていた。
「これくらい、あってもいいんじゃないかな?」
気を取り直してワカメの味噌汁をカゴに入れた。
とりあえずレジに向かったら、手前の冷凍コーナーに冷凍唐揚げが並んでいた。あっ、これだ!
幸いなことに、なんと私の部屋には電子レンジならある。
一人暮らしを始めたとき、家電三点セットとかいうやつで、冷蔵庫と洗濯機とまとめて売られていたのだ。
しかも冷凍コーナーの近くには、保存容器や計量カップに混じって電気ケトルまで売っていた。
すごいなスーパー。なんでもあるな。
電気ケトルもカゴに入れて、お会計を済ませた。
途中の雑貨屋で茶碗とお椀と平皿、それからフォークも買って部屋に戻った。
でも、そこでやる気が尽きた。
買ってきた食材をとりあえず冷蔵庫と冷凍庫にしまい、電気ケトルは箱から出してさっと洗う。食器も洗ったら、私の今日の営業はおしまいだ。
「なんか、すごーく頑張った気がする」
いつもなら冷蔵庫からビールを出すところだけど、今日は少し迷ってから風呂を洗った。といっても、いつ買ったのかも覚えていないブラシで浴槽を擦っただけだけど。
お湯を溜めるのなんて、いつ以来だろう。
まだ早い時間だったけど、久しぶりに、お酒を飲まないで眠りについた。
***
翌朝、お腹が鳴って目が覚めた。
顔を洗って歯を磨いて、財布を手にしたところで我に返った。
時計を見ると、もう昼前だ。
つい流れでコンビニに向かおうとしちゃったけど、そういえば昨日は食材を買ってきたんだった。
少し迷ってから、長谷川に『包丁貸して』とメッセージを送ったら、
『うちで使うか、調理ばさみ買え』
と、すぐに返ってきた。ついでにネット通販の調理ばさみの商品ページのアドレスまで送られてきた。
相変わらずオカンなんだから。
でもそうだよねえ。
調理ばさみがあれば、包丁がなくてもある程度なんとかなりそうだ。
「……やるか」
お米は無洗米だから、炊飯器に水と一緒に入れてスイッチを入れるだけでいい。
着替えてスーパーに向かって、調理ばさみを買ってきた。
「長谷川も『最初からなんでもかんでもやる必要ねえから』って言ってたし」
そう呟いて包丁とまな板は今度にする。
帰ったら電気ケトルでお湯を沸かして、調理ばさみで小松菜を切って洗った。お弁当箱代わりの容器に入れてレンチンし、出汁と醤油をかけて冷蔵庫に入れる。
昨日買ってきた冷凍唐揚げを温めて、その間にレトルト味噌汁を用意しておく。
唐揚げと味噌汁を机に並べ、はさみを洗ってから冷蔵庫の小松菜を取り出したところで、ごはんが炊けた。
蒸らすとか面倒なことはできないから、さっくりほぐして茶碗によそい、お箸と一緒に机へ運んだら完成!
「すごい、自分でできた!」
スマホで写真を撮って長谷川に送った。
返事はすぐに来て、
『やればできるじゃん』
だって。偉そうでウケる。まあ、私に料理を一から教えてくれたんだから、偉そうなんじゃなくて本当に偉いんですけどね。
「いただきます」
小松菜はちょっとしょっぱかった。醤油入れすぎた。
ごはんが進む味ってことにしておこう。
唐揚げと味噌汁は間違いのない味だ。
「……もしかして、これを詰めたら明日のお弁当になるんじゃん? ヤバい、私ってば天才!」
小松菜とごはんは明日の分に取っておいて、それ以外は全部食べた。
すごい。自分で作って、ちゃんと食べられるおいしいものができた。
嬉しいなあ。
部屋を見回すと床はちゃんと見えるし、ゴミも落ちていない。
週に一回か二回くらいだけど、掃除機もちゃんとかけてるし。
なんか、私がすごくまともな人になったみたいだ。
時計を見るとまだ夕方には早い。
お腹もいっぱいだし、ちょっと肥えてもちもちしてるし、散歩にでも行こう。
んで、スーパーの冷凍コーナーももうちょいしっかり見てこよう。
なんかラーメンとかあった気がする。……でもラーメンがあっても、うちには鍋も丼もないんだよなあ。あれだ、アルミ鍋のラーメンなかったっけ? 酒のつまみになればなんでもいいし、せっかくだから開拓してこよう。
食器を洗って干した。
「よし、行くか」
ウォーキング用のスニーカーを履いて部屋を出た。
ついでだし長谷川を誘おうかと思ったけど、呼び鈴を押しても出なかった。どこか出かけているのかも。
メッセージを送るほどでもないし、まあいいか。
連絡先を交換しても、相変わらず私と長谷川のやり取りは昭和みたいだ。
近くの公園をぶらぶら散歩してからスーパーに向かった。
なんと、この土日で四回目だ。
いい加減エコバッグとかあった方がいいかも。でもビニール袋はゴミ袋にもなるし、まあいいか。
いつもよりずっと気分良く、夕方のやわらかな空気の中を歩いた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
楽しんで頂けたらブクマ・評価・感想などで応援いただけると大変嬉しいです。
感想欄はログインなしでも書けるようになっています。
評価は↓の☆☆☆☆☆を押して、お好きな数だけ★★★★★に変えてください!




