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11.鬼同期とお土産

 日帰り出張の翌日。朝礼が終わった途端、長谷川が私のデスクまで寄ってきた。


「土産は?」


「ご当地キャラメルあるよ」


「冗談のつもりだったんだけど、マジであんのかよ」


「私が自分用に買ってきたやつだけど、かつあげに遭ったと思って譲ってあげるよ」


「受け取りづら……。もらうけど。この資料の確認頼める?」


 ぺらっと渡されたのはお客様の情報だ。


「秦野ちゃんに頼みなよ」


「立花の方が話が早いし、秦野には別件頼んでる」


「ふうん、まあいいよ。泥棒かささぎくらい待って」


「泥棒かささぎ……?」


「十分ちょっと」


「そう言え」


 さらっと目を通して、気になった箇所に追記を入れ、そのまま長谷川に返す。


「サンキュ。確認とキャラメルのお礼」


 カフェオレスティックが差し出されたので、ありがたく受け取っておく。


 席に戻って、昨日お客様と詰めてきた内容をまとめないといけない。

 とはいえ、昨日の帰りの新幹線で丹沢先輩とメモは作ってあるから、それをテンプレに入力していくだけだ。

 ささっとまとめて、先輩に認識の齟齬がないか確認依頼を送っておく。


 それから、昨日届いてた分のメールも確認しないといけない。

 メールは開いたが最後、対応しないといけないので放ってあったのだ。


「ぐう、山ほど来てる」


 メールを一個ずつ確認して、対応が必要なら返して、CCに入ってるだけならざっと目を通して終わり。


 ……なんていうか、別にたいしたことじゃないんだけど。

 私宛ってわけでもない、業務連絡とか他の人宛の仕事の依頼だけの文面なんだけど、ふとそれが目についたのだ。


「……長谷川、ずいぶん丁寧にメール文送るようになりましたね」


 つい呟いたら、隣の席の戸部先輩が「ねー」と頷いた。


「そうだよね。私もなんとなく思ってはいたけど、口に出すほどでもなくて」


「元から雑ってわけじゃなかったですからね。でも、うーん、言葉選びが穏やかっていうか」


「角が立たない書き方してるよね。誰かさんのおかげで」


「誰かさんの?」


「うん。立花ちゃん、人事とかでもやっていけるかもね」


「こいつを人事に持って行かれたら困ります」


 噂の人、長谷川が私の後ろに立っていた。


「確かに人当たりいいし、丁寧で面倒見もいいから人事でもやっていけそうですけど、営業事務って人手足りてないじゃないですか」


「それはそう。来期はもう何人か入れてほしいねえ」


「そしたらその人たちの教育もありますしね」


 結局、私の仕事が減ることなんてないんだ……。

 ちょっと黄昏れていたら、長谷川が私のパソコンを指さした。


「今メール送ったけど見た?」


「見てない。昨日溜まってたメール片付けてた」


「それ終わってからでいいけど、明日の打ち合わせ付き合って。用意してほしい資料はメールで送ってあるから、わかんなかったら聞いて」


「わかった」


「この後、外回り行くけど、メールとチャットは確認できるからよろしく」


「はいはい、行ってらっしゃい」


 ひらひら手を振って、長谷川を見送った。

 メールの文章だけじゃなくて、対応もずいぶん丸くなった。

 今まで外回りに行くときは、ホワイトボードに行先だけ書いてさっさといなくなっていたのに。


***


 夕方。紫くんに頼まれて資料のレビューをしていると、長谷川が戻ってきた。


「長谷川さん、お疲れさまです。立花先輩借りてます」


「おつかれ。俺のじゃねえけど、丁重に扱えよ」


「そのつもりです。世話になってますので。先輩、親切だからつい頼っちゃうんですよね」


「あ、自覚あった? もうちょい自分でやって? 長谷川はおかえり。明日の資料、用意したからあと三十分くらいしたら声かける」


「ただいま、わかった」


 長谷川が立ち去ってから、紫くんの資料のレビューに戻る。

 誤字脱字はだいぶ減ったし、それ以外のミスもなくなってきたから、あとは見やすさを気にしてほしい。


 そういうところを指摘して切り上げようとしたら、紫くんがくすくす笑った。


「長谷川さん、意外とわかりやすいですよね」


「何が?」


「いや、立花先輩が気づいてないならいいです。レビューありがとうございました」


 紫くんは、そのまま去って行った。

 何言ってるんだ……。

 とにかく、資料を印刷して長谷川のところに持って行った。


「お待たせ。今いい?」


「おう。紫は大丈夫そう?」


「大丈夫。誤字脱字チェック機能って偉大だね」


「そっちかよ」


 資料を渡して目を通してもらい、気になるところだけ確認しておしまい。


「これだけならメールでもよかったね」


「いや、紙で見た方がわかりやすいし、次からも紙で頼む」


「わかった。明日、何時くらいに行く?」


「午前中って言われてるから、朝礼終わったら出て、昼飯食って帰ってこよう。立花、好き嫌いないだろ? お客様先の近くにうまい飯屋あってさ」


 長谷川がスマホで地図を開いたから、横から見せてもらう。

 おお、和食だ。いいね。そろそろウナギとか食べたい季節なんだよね。肝吸いがついてる店だと嬉しい。


 長谷川おすすめの店も、魚料理がメインの店だった。

 ウナギはなさそうだけど、ホッケや鮭の西京焼きがおいしそうだ。


「魚メインかあ、いいけどお酒飲みたくなっちゃう」


「立花が飲みたくならない飯って逆にあんの?」


「……ドーナツとか?」


「それ、飯じゃねえよ」


 そうやって笑った長谷川は、今までになく柔らかい表情をしていて、なんかいいものを見られた気がした。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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