王城へ
俺たちは、部屋に戻った。
「それで……、王は急ぎで婚礼を行いたいのだな」
「はい」
「じゃあ、お主の帰還に伴い、ついていくというのはどうだ?」
「それは、ありがたい」
「ではそうしよう。しかし困ったな。こちらを空けるのは、問題はないが……」
「何か?」
「婚礼というと、こちらも色々と準備が必要ではないか?
しかし、ワシは軍人ゆえ、
まだ領地も授かっておらんし、
軍としての金はあるが、
個人所有の金もない。
元の国には、領地も金もあるが、お前らに急に呼び出されたからな」
「それは王が全て準備なされます」
「なるほど、身一つあれば良いと、そういう事か」
「はい」
「あと、王城に赴けば、すぐに領地と金は入るのか?
ほら、お前の友人を雇わなければならぬからな」
「それも、王が準備されておられます」
「そうか。では今宵は、ここに留まり、明日の朝に出立しよう」
「はい」
「では、この方を丁重におもてなししろ。
あと、全蔵、ついてまいれ」
「はっ」
俺は配下に、使いの者をもてなすように指示をした。
……
俺たちは、砦の一室に入る。
殿は辺りを見渡した。
「それで、全蔵。薬は持っておるか?」
「はい。色々と準備しております」
「王の病はなんだと思う?」
「腹の病かと」
「腹の病……、薬はあるか?」
「はい」
「では、それを持っていこう。あと、いくつか可能性のありそうな薬もな」
「はい」
「ところで、なぜ腹の病と思った?」
「前にお会いした折、王は何度か腹を押さえておられました」
「すぐに治ると思うか?」
「まず殿が婚礼を行われ、王子の後ろ盾になると王に約束なされれば、かなり回復されるかと。
薬ももちろん効きますが、本当の毒の対策にはなりませぬ」
「なるほど。では先に薬を飲ませよう」
「それは?」
「王の病が治った薬となれば……」
「なるほど。では当家秘伝の薬ゆえ、調合は門外不出だと致しましょう」
「頼む」
「それで、すぐに王城に向かっても大丈夫か?」
「はい。訓練は常にさせておりますし、不在時の対応も伝えております」
「なるほど。しかし、いらぬと言われたが、手土産がないのはな……」
「薬が土産になるかと」
「そりゃそうだな」
「では、明日の準備を頼む。全蔵、お前もついてこい」
「はっ」
俺はそこから、
明日の準備をし始めた。
殿は、
使いの者と食事を取られた。
……
翌朝、俺たちは馬にて王城に向かう。
王城は馬にて三日の距離だった。
俺たちが帰還しても、
特に華々しい出迎えはなかった。
「出迎えもないのですね」
俺は言った。
「申し訳ございません。内密の打診ゆえ」
使いの者は恐縮していた。
「気にするな。ワシも準備しておらん」
殿は笑った。
謁見の間に到着した。
「勇者殿、ご苦労であった」
宰相が言った。
「お話は伺いました」
「すまぬな。少し……」
王の顔には前のような覇気がなかった。
「王よ。土産があります。全蔵」
俺は、
兵糧丸を殿に手渡す。
「これは我が家に伝わる秘伝の薬。王に献上いたします」
殿は兵糧丸を差し出した。
従者が、
兵糧丸を受け取り、王に見せる。
王は目を細め、匂いを嗅ぐ。
「変わった匂いだな。それに見た目が……」
「はい。
ワシらは軍人ゆえ、匂いも見た目も気には致しません。
しかし、軍人ゆえ、効かぬ薬は持ちませぬ」
殿はにやりと笑った。
「これをどうする?」
「食べるのです。噛んで、飯のように食してください。ただ、美味いものではありません」
王は口に運ぼうとする。
「王よ。お待ちください。毒味を」
宰相は止める。
「無礼だぞ。勇者殿は我が国の恩人。毒など盛ろうはずがない」
王は言った。
「ははは。
宰相殿が正しい。
しかし、王も正しい。
いやはや。ワシが考えなしであった。
全蔵。
ワシらが先に食おう」
「はっ」
戸惑う従者から、兵糧丸を受け取り、
俺たちは、
兵糧丸を喰らう。
「……しかし相変わらず、これは不味いの。少しは美味くできんのか?」
「効果を出すには、これしかありませぬ」
「すまぬ。茶か水を出してくれ」
殿は言った。
急ぎ、従者は茶を用意した。
殿と俺は茶を一気に飲み干す。
「ぷは。
あぁ、不味かった。
王よ、申し訳ない。
このように毒は入っておらぬが、味は不味い」
「ははははは。そうか、そうか、不味いか。どれ、ワシも食ってみよう」
王は兵糧丸を口にした。
王の顔が変わる。
「やはり、毒か……」
宰相は叫ぶ。
「茶。茶をよこせ」
王は叫ぶ。
従者は慌てて、茶を用意する。
王は一気に飲み干す。
「これは確かに不味い。
しかしな。身体がポカポカしてきたぞ。
心なしかスッキリした。
もう一個食っても良いか?」
「全蔵」
殿は俺を見た。
「三刻ほどしてから食われるほうが良いと思います。毒にはなりませぬが、しばらく時間を空けるほうが、効きは良いでしょう」
俺は答えた。
「そうか、わかった。良い土産に感謝する」
殿は会釈をした。
「宰相、人払いを」
王は言った。
宰相は人払いを行う。
部屋には王と宰相と殿と俺だけになった。
「先ほどは失礼した」
宰相は言った。
「いえ。職務として当然の事をされただけでしょう」
殿は優しい顔で目を細めた。
「それで、婚礼の件は受けてくれるのだな」
王は言った。
「もちろん、お受けいたしますが、準備ができておりません」
「使いの者が伝えたとおりだ。
領地、金、衣装、贈答品、全て揃えておる」
「姫は?」
「姫も準備をしておる」
「それなら、問題はありませんな」
「それで、後ろ盾の件だが」
「もちろん、王の御子が跡を継ぐべき。ワシはそう思います」
「ありがたい」
「しかし、どうやって知らしめましょう」
「王子の指揮下に入ってもらえぬか?」
「魔物討伐で、ですか?」
「あぁ、そうだ」
「王子は、戦に長けておいでなので?」
「いや。戦には向いておらん」
「なるほど。名目上だと」
「そうだ」
「一度、
王子殿とお話しさせていただいてもよろしいですか?」




