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観察と訓練

三体のゴブリンを縛り、殿の前に連れて行く。


「殿。連れてまいりました」


「ご苦労。ほう……、これがゴブリンか」

殿は観察を始める。

三十分ほど、眺めたあと……

「たしかに……、観察していると、恐怖みたいなものは薄くなっていくな」

そう言った。


「はい。

幼き時より、蛇、蜘蛛、ムカデなど、あらゆるモノを観察してまいりました」


「そうか、

ワシも全蔵を長く観察しておるから、怖くはないわ」

殿は笑った。


「はっ」


「では兵たちには毎日半刻ほど、ゴブリンを観察するように指示を出せ」


「はっ」


それから半月の間。

砦の攻略は止め、

殿は訓練と観察を続けさせた。


俺はというと、

時間があったので、今後の攻略対象の砦を見て回った。

どこも、

今までの砦と大差がなく、大型のゴブリンの数が多いくらいだった。

また前線でなければ、警備も甘いこともわかった。


「殿。ただいま戻りました」


「ご苦労。どうだった」


「砦の仕組み、小型のゴブリンの数も大差ありません。

ただ大型のゴブリンの数が三匹のところが増え、あとは前線でなければ、警備は甘いことがわかりました」


「なるほどな」


「殿……、留守中何か動きはありましたか?」


「あぁ、面白いことを言う奴がいた」


「なんと」


「このゴブリンは履物を履いておらぬのですねと」


「確かに……。なにか使えそうですね」


「ゴブリンの足の皮は厚いのか?」


「実験してみては?」


「頼めるか?」


「はい。まきびしを試しますか?」


「あぁ、やってみてくれ」


俺はさっそく、ゴブリンにまきびしが効果的か調べてみる。

予想通り、ゴブリンはまきびしを踏むと、のたうち回った。


「殿。効果がありましたな」


「あぁしかし、鉄ゆえ、高くつくな」


「では菱の実を探しましょう」


「菱の実?」


「はい。まきびしのような実がなる植物です」


「そんなものがどこに?」


「池などに生えていることが多いです」


「なるほど」


「触れを出して、探させましょう」


「頼む」


俺はさっそく菱の実を探すように、命じた。

あちらこちらから、菱の実が届けられた。


「全蔵。これが菱の実か、ゴブリンで試してみたか?」


「はい。効果はありました。それでどのようにお使いに?」


「奪還した砦の前に、堀を作り、そこにこの菱の実を植える」


「なるほど」


「成長したら、収穫し、実を辺りにばらまく」


「それでしたら、二重の堀になりますな」


「そうだろ。宰相に伝え、土木工事をさせよう」


「はっ」


殿は早速、宰相に伝え、王国全土の砦で堀が作られ始めた。



再び俺たちは、

砦の攻略に挑む。

一つ、二つ、三つ、四つと順当に勝ち進んでいく。


以前は臆病だった兵士たちも、足を止めることはなくなった。


以前は大型ゴブリンを前に弓を引く手が止まった兵が、今は普通に矢をつがえる。


変化は、ハッキリと出た。


殿から指示を受け、

ゴブリン達に盛る毒の量も少しずつ減らした。


戦は多少きつくなっていたはずだが、

損害は出なかった。


「全蔵。今毒はどのくらいだ?」


「当初の半量です。まだ減らせそうですね」


「あぁ多分な。しかしやめておこう。その量で保たせろ」


「わかりました」


それからも、

俺たちは砦を落とし続けた。

そして、

魔物たちに落とされた半数の砦を奪還した。


「勇者殿、国王様がお呼びです」

王城からの使いが来た。


「何の用だ」

殿は尋ねた。


「半数の砦を奪還したゆえ、レーラ姫との婚姻の儀をとりおこなうと」


「レーラ姫? 誰だ」

殿は呟く。


「殿。領土と共に褒美として婚姻を……」

俺は殿に耳打ちをする。


「あぁ、あの娘か……、

うん?

話では、魔物を全討伐したのち……、たしかそんな約束だったと」


「はい。左様にございます」

使いは恐縮している。


「なにか裏がありそうですね」

俺は殿に耳打ちをする。


殿は頷いた。


「まぁ、疲れただろう。座れ。おい茶菓子を用意しろ」


「そんな滅相もございません」


「ワシのおった国ではな、大事な客人には茶を出すのが作法」

殿はじっと使いを見た。


「わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」


茶菓子が運ばれてきた。


「前線ゆえ、たいしたモノは出せぬが、まぁ、遠慮なく飲んで、食べてくれ」


「それでは」

使いは茶を飲み、

菓子を食った。


「それで王はお元気か?

体調を崩されておられると伺ったが……」


使いの目が動く。


「ご存じでしたか」


「あぁ、心配しておったのだ」


「そうですか」


「誰だったか……、少しきな臭い動きがあったのだろ」


「はい。帝位争いにつながりかねない状況で」


「ちょっと待て。弟君だったか、長男だったか……」


「弟君です。王子はまだお若く」


「何歳になられた?」


「十二歳にございます」


「後ろ盾は?」


「それが弟君が優勢で」


「王としては王子に跡を継がせたいのだな」


「はい」


「ワシが婚儀を進めることで、身分を堅固にし、王子の後ろ盾になればと、王は望まれておるのだな」


「ご明察にございます」


「なるほど。しかし婚礼を行ったとしても、すぐに領地運営などはできんぞ」


「それでしたら、補佐を置かれてはいかがでしょうか?」


「良い人物はおるのか?」


「はい。少し堅物ですが」


「知り合いか?」


「友にございます」


「そうか、堅物というと、どんなことをやらかした」


「学校の同期だったのですが、いつも本などは、まっすぐにしておりました」


「まっすぐに?」


「はい。少しでも歪めば、すぐに直すような男にございます」


「几帳面と……」


「筋金入りの几帳面です」


「そうか。俺に仕えてくれるか?」


「堅物がたたりまして、先日解雇されました。

奥方がその男よりさらに堅物で、今は目の色を変え、職を探しております。

ですが堅物で有名なので」


「仕事はできるのか?」


「はい。融通さえ利けば、大貴族様ですら、雇いたいと望むでしょう」


「わかった。しばらく待ってくれ。全蔵……」


「はっ」


俺は殿に呼ばれ、他の部屋に移る。


「どう思う?」


「婚姻は決められたのですよね」


「あぁ」


「王子につくことも」


「あぁ」


「ではその堅物ですか」


「あぁ、俺は堅物が苦手でな。

全蔵。

お前の部下として考えられぬか?」


「堅物ですか……、わかりました。やってみましょう」


「頼む」


「ところで殿。王城の件、ご存じだったのですか?」


「かまをかけただけだ」

殿は笑った。


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