現実
五つの砦を攻略し、
ようやく一割程度の奪還に成功した。
この十倍の砦を攻略するとなると、
手間がかかる。
「殿……、これをあと10回繰り返せば、奪還が叶います」
「そうだな。しかし……、相変わらず戦というのは、つまらんもんじゃ」
「たしかに……、囲碁など、遊戯としてなら良いのですが」
「囲碁か……、こちらに来た時、対局中であったなぁ」
「はて……」
「ははは。待ってくれと申していたではないか」
「殿……、配下など作り、我らは楽をしませぬか?」
「配下か……、
全蔵。
この国のものに、我らの智恵を与えるのは、どう思う?」
「信用できぬと?」
「全蔵は、祖父の時代から当家に仕えておる。
しかしな。
昨日今日出会ったような連中を、軽々しく信用して良いものか……」
「たしかに……、
しかし、それであっては、いつまでも殿は苦労なされる」
「そうじゃのぉ。何かいい知恵はないか?」
「さぁ……」
「気晴らしに散歩でも」
「お供いたします」
俺たちは散歩にでかける。
砦で兵たちは訓練を行っていた。
ただ言われたように、黙々と動く兵たち。
「全蔵。こいつらには、何が見えておる」
「何が見えている……。模擬戦の相手でしょうか?」
「そうだな。この戦の全貌は見えているのだろうか?」
「見えてはいないかと」
「しかし、文句ひとつ言わず、訓練をしておる」
「たしかに……」
「配下も同じで良いのではないか?」
俺は殿が言われることが、わからなかった。
全貌が見えない……。
配下も同じで良い……。
「なるほど。もしや……」
殿が目を細める。
「配下を持ったとしても、局所運用に限れば良いと」
俺の答えに、
殿が口角を少し上げた。
「よくよく考えれば、当たり前のことじゃった。
調理人は戦の事は知らない。
農夫も戦の事を知らない。
しかし兵士の腹を膨らませる事はできる」
「囲碁と同じ……、
何をしているのかを知っているのは、碁打ちのみ」
「あぁ」
「問題は、どう分けるか……」
「そうよな」
「戦術訓練は、教官を立てられます」
「三ツの戦術ゆえ、問題は少なそうだ」
「はい。兵站などは、すでに整っておりますゆえ」
「兵の指揮だな」
「殿のように、魅力的な人物は、いません」
「ははは、軍規があれば、問題はなかろうよ」
「たしかに。どのような軍規に致しましょう」
「命令無視と敵前逃亡だろう」
「どのように」
殿は自身の首に手刀をあてた。
「処刑ですね」
殿は頷く。
「訓練のうちから、命令を守ることを叩きこめ」
「では訓練教官に、たるんだ兵には、訓練を増やさせるよう、指示いたします」
「そうだな。殴るのは疲れる」
「はっ」
「では全蔵は、準備が整いしだい、訓練は教官に任せろ」
「殿からご指示があるまで、同じ訓練でよろしいでしょうか?
それとも、ある程度教官に任せますか?」
「長期で育成するわけでもない。同じ訓練で良い」
「殿……、先日の大型のゴブリンの件ですが」
「なんだ?」
「今後、大型の魔物が多数出現する可能性もございます」
「なるほどな。それで?」
「大型の魔物は、接近戦は不利でございます」
「前回のように、弓の一斉攻撃だな」
「はい。しかし今は二人。心もとないかと」
「たしかに、一度その弓兵に話を聞いてみよう」
「はっ」
俺は、
殿を先日の弓兵のもとに案内する。
「これはこれは、勇者殿」
弓兵の一人が言った。
もう一人は会釈をする。
「先日は大儀であった」
「はっ」
「それで尋ねたいことがある」
「なんなりと」
「先日の大型のゴブリンだが、あぁいう大型の魔物を他の弓兵でも倒せるようにできぬか」
弓兵は腕を組み考え込んでいる。
「弓を射るのは、弓兵ですから、誰でもできます。
ただ角度が違うので、戸惑うところがあるでしょう」
「なるほどな。では色々な角度のものを射る訓練をさせれば、いかがか?」
「たしかに、
我らはいつも同じ場所、同じところの的を射る訓練しか致しません。
ゆえに戸惑うところがありましょう。
ただ……」
「なんだ、申してみろ」
「訓練では、流れ矢の行き先がわかりません。周りに何もない土地でやらねば、怪我人がでるやも」
「たしかにな。わかった。場所の選定には注意しよう。
色々な角度のものを射る訓練は、どうしたら良い?」
「それでしたら、玉のような的を作り縄をつけ、木の枝にぶら下げ、縄の長さを調整すれば、よろしいかと」
「なるほど。では、その玉のような的を作れるか?」
「材料さえ手に入れば」
「では全蔵、用意してやれ」
殿は言った。
俺は頷く。
「あとは教官になるものに、これを伝えて……。
この訓練と通常の訓練との割合はどうすれば良い?」
殿は尋ねた。
「これから大型の魔物が多数出るのであれば、全てその訓練に切り替えても良いと思いますが、通常の魔物が多いのであれば、玉の的を射る訓練は二割ほどに、留めたほうが良いかもしれません」
弓兵は答える。
「なるほどな。戦況を見て、臨機応変に訓練の割合を変えるとしよう。手始めに半々でやろう」
「はっ」
「あぁいう大きな魔物対策は、それくらいか?」
「そうですね。あとは魔物の圧に屈しない事でしょうか」
弓兵は腕を組む。
「魔物の圧に屈しないか……、わかった。感謝する。では全蔵頼むぞ」
殿はそう言った。
弓兵たちと離れ、
「全蔵お前は恐怖が少なかったな。何かあるのか?」
殿は尋ねた。
「恐怖の対象を観察する訓練を長く続けておりました」
「なるほど。では兵たちにもゴブリンの死体を観察させようか」
「それも良いですが、一部捕虜として捕まえて、観察しても良いかもしれません」
「しかし、大型のゴブリンは捕虜にはできんぞ」
「あいつらは図体がでかいだけで、基本的には小型のゴブリンと同じです。死体だけ観察させれば良いでしょう」
「そうか。
では掃討の際に、ゴブリンを何匹か捕まえる事にしよう」
「はっ」
早速俺は掃討に出向き、ゴブリンを三匹捕獲した。




